第21話 ラーグルフの最期
「財宝などない。仮にあったとしても貴様の様なものにくれてやるか」
ラーグルフは唾を吐き捨てる。
「この期に及んで命が惜しくないとは。魔族ってよほどいかれてるんだな」
「それが魔族として以前に一介の武人としての生き方だ」
「武人?魔族がそんな御大層なものを名乗るんじゃねぇよ」
グサッとラーグルフに突き刺した剣を抜くとそのまま去って行った。
「じゃああのガキを持って帰らせてもらう。魔族のガキは高く売れるんだな」
「馬鹿めそんなことをさせるか!」
「うるせぇ!」
アースはラーグルフを蹴り倒す。
魔族の大将であるラーグルフは膝をついて座っていた。
「人間の勇者も落ちぶれたものだな。あの時ほどの誇りもない」
脳裏にはかつて陰で見かけた勇者の姿が浮かんでいた。あの頃は魔王を中心とした勢力を築いており、ラーグルフはその一翼を担っていた。
仕えていた魔王が滅ぼされると聞き、向かっていったまでは良いが残念ながら間に合わなかった。でも今はその時よりも何倍も満たされない気持ちに包まれていた。
「やはり魔族が支配した方が良いな。それであんな馬鹿者は打ち捨ててしまえばいいのだ」
ラーグルフは、しばらく空を見上げていた。
やがて、遠くから複数の足音が聞こえてくる。
現れたのはヴァルツとその仲間たちだった。
「ヴァルツ殿……」
「これはどこかで会いましたかな」
「我だラーグルフだ。支配派の四天王でこの魔族軍の大将をしている」
「何!大将だと。先生すぐにとどめを」
カレンが拳銃を構えるが、ラーグルフは首を横に振る。
「その必要はない。我はもう死んでしまうからな。内臓を貫かれている」
それを見てヴァルツは脳の記憶を探った。
「ラーグルフ。そう言えばかつて旅をしたときにそのような魔族の話を小耳に挟んだことがあります。生き残っておられたか」
「悪運だけは強くて」
リコルドはラーグルフの姿を見る。
「それで今はこの姿か。可哀そうにな」
「ヴァルツ殿よ。頼みがある」
ラーグルフはヴァルツの目を見た。
「俺の首を切ってくれ」
リコルドの表情が変わった。
「あれだけ苦しめてくれた大将がやけにあっさり首を差し出すな」
「見ればわかるだろう。我はもう死ぬ……そしてこのままでは、あの男に何をされるか分からん。せめて最後くらいは、自分の意思で終わらせたい」
「……分かりました」
ヴァルツは短く答え、杖を構えてラーグルフの首に添えて呪文を唱える。
「これは慈悲の魔法です。『無痛』」
「敵である我にここまでしてくれるとは」
「敵であることと最後の願いを尊重することは別です」
ヴァルツの穏やかな微笑みがラーグルフにも移り、そして目を閉じる。
「最期に貴方たちに出会えてよかった」
最期の言葉を聞き届け、無言でサイモンがラーグルフの首に剣を振り下ろして綺麗に断ち切る。
先ほどの魔法の効果により首を切られる痛みも恐怖もない。こんな術を敵に施すのはかなりの特例だった。
目の前に首が転がる。
「敵ながら誇りある立派な最期だった。あの男とは違って」
カレンは帽子を取って穏やかな声で祈りをささげた。普段嫌味な彼女が人を特に敵を褒めることなど中々無い。
「さてあらかた掃除は終わったようだし帰るか。首を持ち帰ろう」
リコルドが首を持ち上げようとした瞬間その首は消えていた。
そして見上げた向こうには首を持ち去るアースの姿があった。
「……まさか」
ヴァルツの表情が曇る。
アースは、ラーグルフの最後の願いすら踏みにじったのだ。
カレンの表情がみるみる曇る。
「アイツここまで暴れた上に結局手柄の横取りかよ……」
それまで黙って様子を見ていたリコルドが、ゆっくりと立ち上がった。
「もういい。今まで静観していたが、どこまで人を侮辱すれば気が済む」
その声は、普段の彼とはまるで違っていた。




