第19話 混乱の最中
アースは鼻で笑った。
「邪魔な老人を処分しただけだ。魔王軍を前にして、戦術だの連携だのと小賢しいことを言うからな」
「そうか」
タンと言う軽い音とともにカレンがアースの前に出現し、その額に短銃を突き付けた。
「何のつもりだ」
「その言葉ブーメランだ」
息を止めるアースに対しカレンは表情を変えずに言う。
「これが珍しいか?異国の武器だよここにかけている指を引くだけで小さな金属弾が飛ぶ。小さいからと言って侮るなそれは高速でその汚い頭を貫くからな」
「貴様!連合軍の勇者に刃向かうつもりか!」
「私は貴様など認めない!」
カレンはそのまま凄むのでアニスが止める。
「カレンお姉ちゃん落ち着いて!」
「手を離せアニス。私はコイツを消し去るッ!」
「でも目の前に魔王軍が!」
「背中を撃たれるのは軍人の恥だが……おのれ卑怯だぞ!」
カレンが怒り振りむいた時……
「どけっ!」
アースが大剣を振るいアニスを吹き飛ばし、血を吐かせる。
「げほっ!」
「この無礼者どもが!この勇者に逆らった罪を思い知らせてやる!」
「誰が無礼者だ!体格で劣る女にも手を出して」
「うるせぇ!どうせコイツも足手まといだろ」
そのまま歩き出しアニスを突き刺そうとするが……
それを無言で止める男がいる。それはサイモンだった。
「何だこのデカブツ邪魔するな」
アースは睨みつけるがサイモンは動じない。それがアースを更に苛立たせた。
「クソがクソがクソが!」
アースは剣を振り回す。それを合図にしたかのように、周囲のランゴ王国の冒険者たちが動き始めた。
一人がアースに斬りかかり、別の一人が魔法を放つ。戦場は大騒ぎになった。
騒動の中心から少し離れたところでハリアーは頭を抱えていた。なぜこんな騒動になる。
確かにビビット王国としてもヴァルツが消えるのは好都合。それはそうなのだがなぜアースはこんな敵陣のど真ん中で揉め事を起こすのだ。
「これじゃこっちの負担が増すばかりじゃないか。ラックさんにどう報告するんだ。まさかここまであの勇者がバカだったなんて」
もはや誰も魔王軍を見ていなかった。
敵を倒すために集まったはずの連合軍が、味方同士で殺し合いを始めている。
その光景を見ていた魔王軍の指揮官は、思わず隣にいる部下を見た。
「……おい」
「はっ」
「俺は何か見落としているのか?」
「いえ……そのようには見えませんが」
「では、なぜ敵が勝手に内乱を始めている?」
「私にも分かりません」
魔王軍の指揮官は、しばらく黙り込んだ。
「……攻撃を続けるべきか?」
「主戦力が分裂し、敵が勝手に戦力を減らしているのですから、普通に好機ではないかと」
「それはそうなんだが……」
指揮官は、目の前の惨状を眺めた。
「なんというか、こう……戦争というものを馬鹿にされている気分だな。何と哀れか」
指揮官は立ち上がり攻撃宣言をする。
「よしとっとと攻め落とせ!」
それに従って魔族が出撃する。
ヴァルツが倒れた今、このランゴ王国で一番強いのはサイモンである。そしてそんな彼はアースと剣を交えている。
「最初に出会った時から嫌いだった。不気味なんだよ。この鉄仮面野郎」
しかしサイモンは何も答えない。ただアースの剣に合わせた一撃を放つのみ。
そして二本の大剣が交わった時……
「皆さん、やめなさい」
ヴァルツである。
「カレン銃を収めなさい。サイモンあなたもです。エリック、寝たふりをしている場合ではありませんよ」
「ヴァルツ先生、あいつを許すんですか!?」
「許すかどうかの話ではありません。今は魔王軍との戦闘中です」
「でも、ヴァルツ様の背中が!」
「私はまだ立っていますよ」
ヴァルツは傷口を押さえながら、静かに告げる。そこにすぐアニスが回復魔法をかける。
「弟子の貴方たちが私を心配してくださるのは嬉しい。しかし、私のために皆さんが傷つくことは望みません」
「ちっ……分かりましたよ先生。勇者命拾いしたな」
カレンとサイモンは魔王軍に向かっていく。
アースはまた攻撃するチャンスを得たかに思われた。しかし今度はヴァルツを攻撃する隙などない。
「チッ」
アースは不機嫌そうに魔物討伐を再開した。




