↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/5

春の章 第2話 桜並木の土手

 河川敷の桜は、耕平の言った通り七分咲きといったところだった。

 それでも、淡いピンク色の小さく可憐な花をいっぱいにつけた枝が、長く伸びて土手の上の道を覆い、川沿いを遠くまで連なっている様は、夢のように美しかった。

「あぁ……やっぱり……とてもきれいですね」

 さくらはうっとりと息を吐いて言った。

(記憶にあるよりも、もっと……。満開だった去年よりも……)

 そんなふうに思ってしまうのは、今の自分が去年とは少し変わったせいかもしれない、とさくらは思った。

 あの時は――青い空と満開の桜、そして隣に耕平がいて――確かにとても美しかったけれど、自分はここに『きれいな景色を見に来た人』だった。

 けれど今は、耕平と二人で一緒に見たいと願っていた場所に帰ってきた。

 単なる景色ではなくて、二人で同じ時間を過ごす場所だから――こんなに、懐かしくて、愛おしい気持ちになるのだろう。

「確かに……とても、きれいだ」

 耕平も、呟くように言った。

 去年の春、彼は、さくらにこの桜並木を見せたいと思い、彼女をここに連れてきたのだった。

 そして、予想通り、美しさに感嘆する彼女を見て満足していた。

 しかし今は、彼もまた、目の前の景色に心を動かされていた。

 ――「俺も、見たいんです。あなたと一緒に。いろんな景色を。これからも……」

 あの夜、彼が言葉にした願いが、ひとつ叶った。

 子どもの頃から見慣れた景色でも、大切な人と一緒に見ることで、違う意味を持つことをおしえてくれたのはさくらだった。


 二人はしばらくの間、黙ったまま、桜のトンネルの下を歩いた。

 小柄なさくらと背の高い耕平。さくらの歩幅に、耕平はさりげなく合わせている。

 並んで歩く二人の間に、ほんの少しだけ風の通る隙間。


 桜並木が終わりに近づいたあたりで、耕平が口を開いた。

「少し、座る?」

「はい」

 さくらが答えると、二人は少し土手を下り、やわらかそうな草の上に並んで座った。

 風は少し冷たいが、土と緑と、微かに甘い花の匂いが混じっている。

 目を閉じて、気持ちよさそうに風を受けているさくらの横顔を見て、耕平はふっと小さく笑い声を漏らした。

 さくらが怪訝な顔で振り返る。耕平の悪戯っぽい目と合った。

「ごめん……ちょっと思い出して。去年、さくらさん、ここで寝ちゃってたな、って」

「……う」

 さくらの頬がぱっと赤くなる。

「そんなこと、思い出さないでください」

「そういうのって、かえって忘れられないんだ」

 くすくす笑って言いながら、彼は、あの春の昼下がり、隣で眠っていたさくらの穏やかな寝顔を思い出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。