表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロメテウスの火を求めて   作者: 藤村 としゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/6

第3話 神々の末裔


「……君の父を殺したのは、この私だからな」


 古戸ふるとは、しばしのためらいの後、静かに言った。


 サトルとマキは、絶句した。


──やがて、サトルが口を開いた。


「と、父さんを殺したのが、古戸さん、あんたなのか?」


「おじさんを!? いったいどうして?」


「……あの時、私は『オリュンポス』社の諜報員エージェントをしていた。君たちを監視していたんだ。……あれは3年前。覚えてるだろう、サトルくん」


 ──3年前。


 サトルと両親は、休日に、近所の低山にハイキングに来ていた。だが、そこにも、『オリュンポス』のエージェントが遠巻きに監視していた。


「お父さん、どこ行くの?」


「母さん。ちょっと花を摘みに行ってくるんだ」


「それを言うなら、きじを撃ちにじゃない?」


 サトルが言うと、母親も笑った。


「今は、ジェンダーフリーの時代なんだよ。早くしないと漏れちゃうよ」


 ──父親は、少し離れた林の中に入った。


「それにしても」


 父親は、少し離れた木に向かって言った。


「お前らも忙しいな。こんなところにまで付いてくるとは」


「神田。相変わらず、勘がいいな。それとも、予知かな?」


 木の影から現れたのは、古戸だった。


「何か用か?」


「ご挨拶だな。わかってるだろう。例の物だ。『大茴香おおういきょうの杖』だよ」


「それなら答えは『ノー』だ。そう言ったはずだ」


「まあ聞け。今日はいい話を持ってきた。杖のありかを教えれば、礼金をはずもう」


 古戸は、2、3歩近づいた。


「お前たち3人が、遊んで暮らせるほどの金額だ。悪くないだろう? ただ杖を渡すだけだぞ」


「知らんのか? 古戸。杖だけではどうにもならないことを」


「知ってるさ。だが『社長』の命令なんだ。何か考えがおありだ」


「とにかく、断る。社長とやらに伝えろ」


「神田。俺も子供の使いじゃないんだ。手ぶらで帰れんよ。どうしても貴様が嫌というなら、息子に聞いてみるか」


「サトルは、まだ何も知らん!」


「そうかもしれんが、試してみるさ」


「貴様!」


 サトルの父は、古戸に掴みかかった。


「お、おい。よせ、神田……!」


 ────


「その後は」


 古戸が続けた。


「我々はもみ合いになり、近くの崖に落ちた。私はその程度は平気だが、君のお父さんはそうじゃない。警察は事故として扱った」


 サトルもマキも、無言だった。


(……父さん。俺のために?)


「私自身が手を下したわけではないが、彼を死なせたことで、社長から責任を問われた。そして知った。なぜ社長が『杖』を欲しがったのか、その目的を。それが、私が『オリュンポス』とたもとを分かった理由だ」


「そ……、その」


 サトルがあえいだ。


「『目的』ってなんなの?」


 車は、高速道路を降りて、N県の国道に入った。



「まとめよう。まず、場所は、これから行くN県の、『高笠巣こうかさす山』だ。必要なのはサトルくん、君の血筋、つまりDNAだ。それと、杖。これが揃って、『宇宙の知識に』アクセスする権利が生まれる。そして、それを拡散する役目が、真紀奈まきなくん、君だ」


「あ、あたしが?」


 マキは、自分を指さした。


「そうだ。君は知識を拡散して、人類全員と共有するための装置マキナなんだ」


「装置って、女性を装置なんていうと、今の時代、炎上しますよ」


「コンプライアンスに配慮する余裕はない」


 古戸は続けた。


「『オリュンポス』は、それらの条件を、なんとか技術テクノロジーで代用できないかと、ずっと研究してきた。彼らが医療、IT、など各方面の技術を開発しているのは、それが目的なんだ」


「代用できたの? ……いや、できてないから、俺たちを狙うのか」


「サトルくん、人類は、宇宙からの知識をダウンロードして文明を築き、進歩してきた。もし、たった1人の人間が、この知識をすべて持つことが出来たら、その人間は何を見ると思う?」


「何を……見る?」


 サトルは、さっき杖に触れたときのことを思いだした。


「人類は、100万年前に『火』、つまり『知識』を手に入れた。火を使うことで食事が変わると、脳も大きくなった。肉体も変わり、新たな種に進化したんだ。だからもし、アップデートで得る知識のすべてを、1人の人間が持つことができたら……」


「それが『オリュンポス』の社長の狙い?」


「そうだ。彼は、『知識』を独占することで、新たな生命体に進化することを目論んでいる」


「そんなことって……」


「我われは、皆、古代でいう神々の末裔なんだ。だが、普通より、ちょっぴり宇宙知識の恩恵を受けているにすぎない。しかし社長は、それで満足せず、本物の神になることを望んでいるんだ」


「神になる? 人間が?」


「おそらく、知識を拡散させず、1人の人間だけにダウンロードする装置を開発したのだろう」


「ちょ、ちょっと待って。情報量が多くて、渋滞してるよ」


 サトルもマキも沈黙した。父の死の真相、自分の運命、巨大企業の目的。さまざまな感情が重なって、混乱していた。


 マキは、サトルの腕にそっと触れた。


 しばし3人とも無言だった。サトルは、今の話を頭の中で反芻はんすうしていた。やがて、古戸がぽつりと言った。


「サトルくん、私を恨んでもいいよ。だが、今は『使命』のことだけ考えて欲しい」


 恨むという言葉に、サトルはハッとした。目の前の男が原因で、父は死んだ。しかし今、人類のために、サトルたちを導いている。


 それは、罪滅ぼしのためではない。

 サトルは、父の言葉を思い出した。


「サトルくん……」


 マキが、サトルの手を握った。サトルも握り返した。


──長い沈黙があった。やがて、サトルは、何かを決意したように顔を上げた。


「古戸さん、あんたを信じるよ。俺、『使命』を果たす。見えるんだ、やるべきことが。まだぼんやりとだけど……」


「サトルくん……」


 再び、3人は無言になり、ロードノイズだけが車内に響いた。


「あの……古戸さん」


 沈黙を破ったのは、マキだった。


「さっき高速を降りてから、トラックが付いてくるような気がするんですけど」


 古戸は、顔を動かさずに、バックミラーに目をやった。


「そのようだ。だが、偶然かもしれない。じゃあ、あの店にちょっと寄ろう」


 古戸は、ウィンカーを出して減速し、道路脇の喫茶店の駐車場に停車した。

 田舎によくあるタイプの店だった。駐車場に他の車はない。


「まだ時間がある。ここで小休止すれば、あのトラックも行くだろう」


 わりと広い駐車場だが、古戸は車を店のそばに停めた。3人は入り口の近くの、窓から外が見やすいテーブル席に着いた。


 ────


「お客さん、どこから来たの?」


 3人分のコーヒーを運ぶと、小太りの店主が古戸に聞いた。


「S市からです」


「S市? そういえば、さっきニュースで言ってたけど、発砲事件があったってね。それに高校生が誘拐されたとか」


「そうらしいですね。早く犯人が捕まって欲しいですね」


 古戸が話している間、サトルとマキは、無言でコーヒーをすすっている。店主はカウンターの向こうに戻った後も、コップを拭きながら、ちらちらと3人を見ていた。


「ねえ古戸さん、もう行きましょうよ」


 マキが言うと、古戸はうなずいた。


 ────

 

 店を出ると、古戸が、車の前で立ち止まった。


「どうしたの? 古戸さん」


 サトルが言うと、古戸は口の前で人差し指を立てた。しゃがんで車の下をまさぐっている。立ち上がると、手の中に小さな機械があった。


 古戸は顔をしかめて機械を握りしめ、振りかぶって地面に叩きつけようとした。が、手を途中で止め、店の入り口のスロープの金属製の手すりに、その装置をくっつけた。


 ────


「古戸さん、さっきの機械なんだったの?」


 車中で、サトルが聞いた。


「発信機と盗聴器を兼ねた装置だ。さっきのガソリンスタンドで付けられた」


「でも、盗聴器をなんで車の外に?」


「本当は室内に付けたかったのさ。それで店員がしつこく点検を勧めたんだ」


「えー、でも、なんで俺たちがあのスタンドに行くのがわかったの?」


「さあな。だが、そこらじゅうに『オリュンポス』のスパイがいる。さっきの喫茶店の主人。あれも、わからんぞ」


 路肩に停車しているトラックが3人の目に入った。その脇を、古戸の車が猛スピードで通過する。


「ねえ、古戸さん。あのトラックって、さっきのやつじゃない?」


 サトルが後ろを振り返った。


「……そうだな」


 トラックのエンジンが、うなりを上げて発進する。スピードを上げて古戸の車を追跡し始めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ