表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロメテウスの火を求めて  作者: 藤村 としゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/7

第4話 神々の末裔


「……君の両親を殺したのは、オリュンポスなんだ」


 古戸ふるとは、しばしのためらいの後、静かに言った。


 サトルとマキは絶句した。やがて、サトルが口を開いた。


「と、父さんと母さんを殺したのが、オリュンポスだって言うのか?」


「……あの時、私は『オリュンポス』社の諜報員エージェントをしていた。君の父、神田 あきらを監視していたんだ」


「何のために?」


「オオウイキョウの在りかを探るためさ。神田はいずれ予知によって杖の場所を知るからだ」


「予知で? どういうこと?」


「神田自身も杖の在りかは知らない。だが、『自分が杖を手にする未来』の予知から、その場所を知ることが出来るのさ」


 オリュンポスは、神田を監視し、その行動から杖の在りかを推理し、可能性のある場所を特定していた。

 そして杖の場所が分かった以上、社長は杖を取らぬよう、神田を殺そうとした。


 しかし、それは出来なかった。神田は、危険を事前に予知できるからだ。


 だから社長は考えた。狡猾で残忍な方法を。


「サトルくん。あの事故のことを覚えていないかい?」


「覚えてないよ。突然のことだったし」



 ──3年前、サトルが両親と出かけた時だった。


 突然、車が3人に飛び込んできた。サトルは軽傷だったが、両親はその事故で犠牲になった。

 2人とも、ほとんど即死だった。


 警察は、ハンドル操作を誤ったのが事故の原因としたが、運転手はハンドルとアクセルが勝手に動いたと主張していた。



「社長は君に目を付けたんだ、サトルくん。君を殺そうとすれば、神田が君をかばうと読んでね」


「お……思いだした。そうだ、確かあのとき、とつぜん父さんが俺を突き飛ばしたんだ。車が飛び込むのを知ってたのか」


「……そうだ。君の母は巻き添えになったんだ」


「そんな、ひどい! じゃあ、おじさんとおばさんが死んだのは……!? なんてことを」


 マキが叫ぶと、泣きそうな顔をしてサトルの手をぎゅっと握った。サトルは無言だった。


(……父さん。俺のために?)


「その後は……」


 古戸は当時の話を続けた。



 ──その後、社長の目論見どおりに事は進んだかに見えた。

 だが、然るべき場所に杖はなかった。


 神田はオリュンポスの監視を逆手に取り、別の場所を正解だと思いこませていたのだ。

 社長は、まんまと神田に裏をかかれたのだった。


 古戸は社長を問い詰めた。なぜ神田を殺したのかと。そして知った。なぜ彼が『杖』を欲しがったのか、その目的を。


 もともと、古戸は重役ではあったが、社長との不仲は知られていた。目的のためにはささやかな家族の幸せすら奪う社長に、古戸は決別を決意した。


 後日、古戸のもとに神田からの手紙が届いた。神田は、生前すでに手紙を出していたのだ。内容は、杖の在りかを示すものだった。


 神田は知っていた。古戸がオリュンポスを裏切ることも、自分の運命も……。

 神田は、古戸に託したのだ。息子と、人類の運命を。



 ──古戸の話が終ると、車内は静まり返った。風切り音とロードノイズだけが響く。



 突然、車外からのスピーカーの声が、静寂を破った。


≪そこのセダン、停まってください≫


 古戸の車の後ろに、もう1台のセダンが、赤色灯を点灯させて追走している。


「古戸さん、あれって覆面パトカーってやつじゃない?」


「そのようだな」


 そう言いつつも、古戸は車を走らせ続ける。


≪速度を落として、路肩に寄せてください≫


 覆面パトカーが速度を上げて古戸の車の横に並走する。


「停まらなくていいの?」


「……あれも偽物だ」


「え?」


 一瞬の躊躇ちゅうちょすらなく、古戸がハンドルを切ると、車のフロントがパトカーのリアにヒットした。


「わ、ちょっと」


 車内が揺れ、マキはサトルの腕にしがみついた。

 スピンするパトカーをかわして、何事もなかったように車は走り続ける。


 サトルたちが振り向くと、パトカーは壁に激突し、白煙を上げていた。


「ふ、古戸さん、どうして覆面パトカーが偽物って分かったの?」


「ピーンとくるさ。オリュンポス(やつら)のやりそうなことだ。もっとも……」


 古戸はわずかに鼻を鳴らした。


「本物でもああするつもりだったがな」


 車は、高速道路を降りて、N県の国道に入った。



「まとめよう。まず、場所は、これから行く『高笠巣こうかさす山』だ。必要なのはサトルくん、君と杖。これが揃って、宇宙にアクセスする権利が生まれる。そして、それを拡散するのが、真紀愛まきあくん、君だ」


「あ、あたしが?」


 マキは、自分を指さした。


「そうだ。君は知識を拡散して、人類全員と共有するための装置マキナなんだ」


「装置って、女性を装置なんていうと、今の時代、炎上しますよ」


「コンプライアンスに配慮する余裕はない」


 古戸は続けた。


「『オリュンポス』は、それらの条件を、なんとか技術テクノロジーで代用できないかと、ずっと研究してきた。彼らが医療、IT、など各方面の技術を開発しているのは、それが目的なんだ」


「代用できたの? ……いや、できてないから、俺たちを狙うのか」


「サトルくん、人類は、宇宙からの知識を得て文明を築き、進歩してきた。もし、たった1人の人間が、この知識をすべて手に入れたら、どうなると思う?」


「どうって言われても……」


 サトルは、さっき杖に触れたときのことを思いだした。脳内に情報が流れ込んできたことを。


「人類は、100万年前に『火の知識』を手に入れた。そして新たな種に進化したんだ。だからもし、その知識のすべてを、1人の人間が持つことができたら……?」


「それがオリュンポスの社長の狙い?」


「そうだ。彼は、『知識』を独占することで、新たな生命体に進化するつもりだ」


「まさか。ほんとにそんなことが……」


「我われは、皆、古代の神々の末裔なんだ。だが、普通より、ちょっぴり宇宙知識の恩恵を受けているにすぎない。しかし社長は、それで満足せず、本物の神になることを望んでいる」


「神になるだって? 人間が?」


「知識のすべてを1人だけにダウンロードする装置を開発したんだ」


「ちょ、ちょっと待って。頭が混乱してるよ」


 サトルは黙り込んだ。両親の死の真相、自分の運命、巨大企業の目的。さまざまな感情が重なって、混乱していた。


「サトルくん……」


 マキが、サトルの手を握った。サトルも握り返した。



 ──長い沈黙があった。やがて、サトルは、何かを決意したように顔を上げた。


「父さんは……、古戸さんを信じてすべてを託したんだね」


 古戸は無言でハンドルを握る。


「古戸さん、あんたを信じるよ。俺、『使命』を果たす。見える気がする、やるべきことが……」


「そうか……」


「あの……古戸さん」


 マキがおずおずと告げる


「さっき高速を降りてから、トラックが付いてくるような気がするんですけど」


 古戸はバックミラーに目を向けた。


「そうだな。やつらの追跡かもしれん。そこでやり過ごそう」


 古戸は、車を道路脇にある駐車スペースに入れ、停車した。トラックが停まるには狭いスペースだ。


 他に車はない。トラックはそのまま通りすぎて行った。

 


 ──トラックが視界から消えるのを確認してから、古戸は車を発進させた。


 しばらく車を走らせていると、路肩に停車しているトラックが3人の目に入った。その脇を、古戸の車が猛スピードで通過する。


「ねえ、古戸さん。あのトラックって、さっきのやつじゃない?」


 サトルが後ろを振り返った。


「……そうだな」


 トラックのエンジンが唸り、排気音が咆哮をあげた。猛獣が目覚めたように。

 発進すると、スピードを上げて古戸の車を追跡し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
そういえばコーカサス山から来てるんですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ