第2話 ティタノマキア
男が拳銃を古戸に向けると、数発の銃声が響いた。
「古戸さん!」
サトルが叫んだが、古戸は身体がのけぞっただけだ。男の顔面に拳を叩きこむと、男は鼻血を出して倒れた。
「くっ、退け!」
黒服のうち2人が、倒れた1人を抱えて車に押し込む。全員が乗り込み、ドアが閉まると同時にタイヤを鳴らして発車した。
「行ったか」
男の1人が落としていった拳銃を拾いながら、古戸が言った。
「あ、あんた、アクション映画みたいだな……」
サトルの言葉に、古戸は微笑みで答えた。
「あいつら、俺を狙ってたのか?」
「私の話を信じる気になったかい? サトルくん」
古戸は拳銃を懐にしまった。
「でも、なんで……?」
「説明しよう。でも、ここにいちゃまずい。私と一緒に来てくれ」
「わかったよ……。ところで古戸さん、あんたさっき撃たれてなかった? 外れたの?」
「当たったよ。大丈夫、私は不死身だから」
古戸は、上着の穴を、光に透かして見せた。ワイシャツにも、小さな穴が開いている。
「ふ、不死身!? 嘘だろ? サイボーグじゃあるまいし」
「信じられないかい? しかし、信じられないのは、君の能力も同じじゃないか?」
「そりゃそうだけど……」
「我々は先祖から受け継いだんだ。君は予知を。私は不死身を……」
「受け継いだの?」
「ちょっと違う。不死身ってことは、ずっと昔から生きているのさ」
「……え? やっぱり、信じられないよ」
「とにかく。車が用意してあるから、移動しながら話そう」
────
「さて、どこまで話したかな……?」
運転しながら、古戸がサトルに言った。
「……俺に使命があるとかなんとか」
「そうだ。まずは『ある物』取りに行く。この近くだ」
「さっきの黒服の男たちは?」
「『オリュンポス』社の諜報員だ」
──『オリュンポス』社。
それは世界的な超巨大企業だ。時価総額は某国の国家予算を超え、社会インフラのすべてを牛耳っている。通信、金融、医療、物流、エネルギー等々。
最近は、AIの開発にも力を入れている。日常生活で、この会社のロゴを見ない日はない。
「私も、かつてオリュンポスに勤めてたんだ。リストラされたけどね」
サトルはまじまじと古戸を見ると、そっと手を伸ばし、服の上から触れてみた。本当に不死身なのだろうか。
硬くもあり、柔らかくもあるような、つかみどころのない異様な感覚だった。サトルはあわてて手を引っ込めた。
「……着いた。ここだ」
「ここって、俺ん家の近くじゃんか」
着いたのは、サトルの家の近くにある森だった。森のそばの民家の横に車を停めた。
「あれ、この家って……?」
「こっちだ。サトルくん」
森の入り口に、小さな社がある。社殿の前に2人が並ぶと、裏側に人影があった。
「誰~?」
裏側から現れたのは、制服を着た女の子だった。
「マキちゃんじゃないか」
「サトルくん? どうしたの」
「君が知多野 真紀愛くんかね?」
「そうですけど。おじさん、誰?」
「マキちゃん、ここで何してるの?」
「あたしは、この社の掃除してたのよ。いつもしてるの、知らなかった?」
「全然。でも、なんでマキちゃんが……」
「悪いが」
古戸が割り込むと、ずかずかと社に歩み寄る
「あまり時間がないんだ。サトルくん、ここだ」
「ちょっと、おじさん。そこは開けちゃダメって……」
社の御扉を、無造作に開けようとした古戸を、マキは制止した。
だが、古戸はお構いなしに、御扉を開けた。中には。白の御覆に包まれた御神体がある。
「ちょっと、御神体に触っちゃダメだって!」
マキの抗議を無視して、古戸が白い布を広げると、中から1本の杖らしき棒が表れた。
くすんだ黄色をした杖だ。
「やはり、ここにあったのか」
古戸が軽くため息をつくと、サトルとマキも覗きこんだ。
「これが御神体? あたしも初めて見たわ」
「マキちゃんも見たことないの?」
「あたしのお母さんもおばあちゃんも、見たことないって」
「で、古戸さん。これは何なの?」
「100年に一度だけ生える大茴香で作った杖さ。説明するより、サトルくん、これを握ってみるといい」
古戸が、サトルの目の前に杖を突きだした。
一瞬ためらってから、サトルは杖を握った。すると、それまでくすんだ黄色だった杖が、真っ白に変わり、かすかに光を放つ。
「なんだ……何かが見える……?」
──サトルの脳内に、何かが流れ込んでくる。
サトルの視界が暗転した。
──漆黒の宇宙、銀河、星の輝きが、視界に広がる。
そこに誰かがいる。いや、大勢いる。だが、暗くてよく見えない。
その集団の1人がサトルに歩み寄ると、その顔がはっきりと見えた。
『サトル……』
その男の声が、サトルの脳内に響く。
(その声は……まさか)
サトルの父親だった。




