第1話 古の導き
※挿絵は、生成AI画像です。
『神に逆らうなど、この不届き者が!』
雷鳴のような声が頭の中に響き、揺さぶる。
『汝の罪、永遠の苦しみで贖うがいい!』
「……わあ!」
──自分の声で飛び起きると、見なれた部屋に心配そうにのぞき込む顔があった。
「大丈夫? サトルくん。うなされてたけど」
「マキちゃんか……。また勝手に上がりこんで」
悪夢から覚め、マキの顔にサトルはため息をついた。
「だって、鍵、開いてるよ? 不用心なんだから」
「……また、あの夢を見たんだ」
サトルはシャツが冷たい汗で濡れているのを感じた。
「夢って、また予知夢?」
「ああ。でも、見えるのは、すぐ先の事だけのはずなんだけど……」
「へえ、で、どんな夢?」
「よくわからないんだ。神がどうとか……?」
「なんじゃそりゃ。神さまの夢って、縁起がいいんじゃない?」
いたずらっぽく笑うと、マキはサトルの額の汗を手で拭った。
「じゃあ、台所にお母さんが作ったおかず、置いとくからね」
「うん……ありがとう。マキちゃん」
マキには言わなかったが、今までサトルが見た予知は、外れたことがなかった。
────
「じゃ、行ってきます」
両親の遺影に手を合わせてから、サトルは制服に袖を通し、玄関を出た。家の中は静まり返っている。
──途中、公園に寄ると、サトルは入り口のそばのベンチに腰かけた。
両親が事故死してから3年。最近、さっきと同じ夢をよく見るようになった。
公園では、子供たちが遊んでいる。
そのうちの1人が、飛んで行ったボールを追いかけて道路へ向かって行く。
サトルには見えた。数秒後の未来が。
「危ない!」
サトルはベンチから飛び上がり、子供のそばに行って手で制した。その直後、道路をトラックが通りすぎ、サトルと子供の髪が風圧で揺れる。
「ふー。危ないよ、ボク。車はね……危ないんだよ」
子供はきょとんとしているが、母親らしき女性が慌てて駆け寄った。
「坊や! す、すみません……」
母親は何度も頭を下げると、子供とともに公園の中に戻って行った。
──サトルが再びベンチに腰かけると、黒い影がすっと現れた。
顔を上げると、見知らぬ中年男が立っていた。紺色のスーツに身を包み、ワイシャツにノーネクタイだ。鋭い目つきでサトルを見ている。
「今の、見てたよ。見事に子供を助けたね」
「大したことないですよ」
「トラックが来るのが見えてたのかい?」
「いや、分かるんだ。ちょっと先のことがね」
「まるで予知能力だね」
中年男の目つきがいっそう鋭くなった。
「まあね。なんとなく見えるんだ」
「それはそうと、サトルくん。君に話があって来たんだ」
「え、おじさん。俺の名前を知ってんの?」
「私は古戸だ。もちろん知ってるよ、神田 悟くん」
「古戸……。で、話って?」
「サトルくん。君は、これから、ある時、ある場所に、ある物を持って、ある人と一緒に行かなければならない」
「え、ええ? な、何で?」
「人類の危機なんだよ」
「はあ? 古戸さんだっけ。宗教の勧誘ならお断りだよ」
「私がそこへ導く。一緒に行こう」
「ええ? 行くわけないじゃん」
「行かないのかい?」
「あのね。今どき、未成年を連れまわしたら、誘拐だよ?」
「人類の危機だ。そんなこと言ってる場合じゃないだろ?」
「まだ言ってんの。じゃあ、俺もう行くよ。さよなら」
足早に立ち去るサトルを、古戸は眺めていた。
サトルが公園を出たところで、車道に黒塗りの高級車が停車し、中から3人の黒服の男が飛び出した。
先頭の男が、無言でサトルを捕まえようとする。だが、サトルはひらりと身をかわした。男の動きの一瞬だけ先が見えているからだ。
「何だよ! あんたら」
男たちは応えない。まるで人間味のない機械のようだ。
最初の男と、他の2人も別々に掴みかかってくると、動きを読み切れず、サトルは腕を掴まれてしまった。
「何すんだよ。放せ!」
黒服の1人が黒塗りのドアを開けると、他の2人がサトルの両脇を掴み、中に押し込んだ。
ドアが閉まり、車は走りだした。
「お前ら、俺をどうする気だ!」
「大人しくしていろ」
黒服がすごんだ。
車が交差点に差し掛かる。信号無視して突っ切ろうとするが、大型トラックが横切り、減速する。
大きな音に、サトルも黒服も、驚いて天井を見た。車の上に、何か重いものが乗ったようだ。
「よう。久しぶりだな」
フロントガラスに顔をのぞかせたのは、古戸だった。
「貴様、どけ!」
古戸は窓から運転席に手を突っ込み、ハンドルを切ると、車は急激に向きを変え道路わきの電柱にぶつかった。
その衝撃で古戸も車から振り落とされ、歩道に倒れたが、すぐに起き上がった。
黒服たちが車から飛び出した。1人はサトルを保持している。
「古戸……、貴様!」
黒服は飛びかかるが、古戸に頬桁を殴り飛ばされ、車のドアの枠に頭をぶつけ、倒れた。
もう1人の黒服が古戸に向かい、格闘するが歯が立たない。
その隙に、腕を掴んでいる男に、サトルは肘鉄を喰らわせた。男は、前のめりになってよろめいた。
「このガキ!」
男は何度か拳を振るが、サトルには当たらない。空振りしてバランスを崩した男は、サトルに背中を押され前のめりに倒れた。
古戸が2人目の男も倒すと、最初の男が起き上がった。
「このバケモノめ……!」
男は上着の懐に手を突っ込んだ。
「あっ!」
サトルが警告の声を発した。
男は拳銃を抜くと、古戸に向けて撃つ。さらに続けて数発の銃声が響いた。古戸はのけぞり、身体を揺らした。
「古戸さん!」
サトルが叫んだ。




