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プロメテウスの火を求めて   作者: 藤村 としゆき


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第2話 火を継ぐもの

 

 男は拳銃を抜くと、古戸ふるとに向けて撃つ。数発の銃声が響いた。


「古戸さん!」


 サトルが叫んだ。


 だが、古戸は意に介した様子はない。男の顔面に拳を叩きこんだ。男は鼻血を出して倒れた。


「くっ、退け!」


 黒服のうち2人が、倒れた1人を抱えて車に押し込む。全員が乗り込み、ドアが閉まると同時に発車した。


「行ったか」


 男たちの1人が落としていった拳銃を拾いながら、古戸が言った。


「あ、あいつら、俺を狙ってたのか?」


「信じる気になったかい? サトルくん」


 古戸は、拳銃を懐にしまった。


「でも、なんで俺を……?」


「説明しよう。でも、ここにいちゃまずい。私と一緒に来てくれ」


「わかったよ……。ところで古戸さん、あんたさっき撃たれてなかった? 外れたの?」


「当たったよ。大丈夫、私は不死身だから」


 古戸は、上着の穴を、光に透かして見せた。ワイシャツにも、小さな穴が開いている。


「ふ、不死身!? 嘘だろ?」


「信じられないかい? しかし、信じられないという点においては、君の能力も同じじゃないか?」


「知ってるの? 俺の能力を」


──確かに、サトルにとってはあって当然の予知能力だが、他の者には信じられない能力だ。


「……わかったよ。あんたの言うこと、信じるよ。古戸さん」


「車が用意してある。移動しながら話そう」


 ────


「さて、どこまで話したかな……?」


 運転しながら、古戸がサトルに言った。


「……俺に使命があるとかなんとか」


「そうそう。そうだった。まずは『ある物』取りに行く。この近くだ」


「さっきの黒服の男たちは?」


「『オリュンポス』社の諜報員エージェントだろう」


「どうして、俺を襲ったんだ?」


「まあまあ。物事には順序がある。話していけば、おいおいわかるさ」


「でもさ、使命がどうとか、急に言われてもさ……」


「お、そうこう言ってるうちに、着いた。ここだ」


「ここって、俺んの近くじゃんか」


 着いたのは、サトルの家の近くにある森だった。森のそばの民家の横に車を停めた。


「ここに何があるっていうんだ?」


「こっちだ。サトルくん」


 森の入り口に、小さなやしろがある。社殿しゃでんの前に2人が並ぶと、裏側に人影が見えた。


「誰~?」


 裏側から現れたのは、制服を着た女の子だった。


「マキちゃんじゃないか」


「サトルくん? どうしたの」


 サトルのクラスメイト、知多野ちたの 真紀奈まきなだ。家も近所で、昔から知っている。


「マキちゃん、何してるの?」


「サトルくんったら、こっちが聞いてるのに。あたしは、この社の掃除してたのよ。いつもしてるの、知らなかった?」


「全然。でも、なんでマキちゃんが……」


「悪いが」


 古戸が、割り込んだ。ずかずかと社に歩み寄る


「あまり時間がないんだ。サトルくん、ここだ」


「ちょっと、おじさん。そこは開けちゃダメって……」


 社の御扉みとびらを、無造作に開けようとした古戸を、マキは制止した。

 

だが、古戸はお構いなしに、御扉を開けた。中には。白の御覆おおいに包まれた御神体ごしんたいがある。


「ちょっと、御神体に触っちゃダメだって!」


 マキの抗議を無視して、古戸が白い布を広げると、中から1本の杖らしき棒が表れた。


 くすんだ黄色をした杖だ。


「やはり、ここにあったのか」


 古戸が軽くため息をつくと、サトルとマキも覗きこんだ。


「これが御神体? あたしも初めて見たわ」


「マキちゃんも見たいことないの?」


「あたしのお母さんもおばあちゃんも、見たことないって」


「で、古戸さん。これは何なの?」


「100年に一度だけ生える大茴香おおういきょうで作った杖さ。説明するより、サトルくん、これを握ってみるといい」


 古戸が、サトルの目の前に杖を突きだした。


 サトルは、一瞬ためらってから、杖を握った。すると、それまでくすんだ黄色だった杖が、真っ白に変わり、かすかに光を放った。


「こ、これは……」


 ──サトルの脳内に、何かが流れ込んでくる。


 サトルの視界が暗転した。


 ────


 ──漆黒の宇宙、銀河、星の輝きが、視界に広がる。

 

 誰かがいる。いや、大勢いる。だが、暗くてよく見えない。


 集団の1人が、サトルに歩み寄ると、その顔がはっきりと見えた。


『サトル……』


(父さん!)


『サトル、その杖を持って、父さんの代わりに使命を果たすんだ』


(使命って?)


 サトルの周りの景色が変わった。


 ──氷河と、広がる草原の中に、人とも猿ともつかぬ生き物が、白い杖を天に掲げているのが見えた。



挿絵(By みてみん)



『これは、100万年前の人類だ』


 父が言った。


 その光景が消えると、今度は別の人物が歩み出た。

 古代ギリシアのキトンに身を包み、ウエーブのかかった長い髪とひげを持ち、意志の強そうな顔つきをしている。


『我が子孫よ。なんじが使命を告ぐ』


(あなたは?)


われは、「プロメテウス」。4000年前にその杖をたずさえ、天から叡智えいちたまわった」


 時間と言語を越えて、サトルの脳内に声が聞こえた。


『サトル、それから1000年ごとに、人間は宇宙から知識を得たんだ。そして、前回からもうすぐ1000年経つのが、まさに、今なんだ』


『さよう。然る後、ミケーネ(のちの古代ギリシア)では、我は天から火を盗んだと伝えられている。かくして、人はその火で闇を照らし……人の行く末を照らした』


『父さんやお前が予知の能力を持っているのも、プロメテウスの「先を見通す力」の血の影響なんだよ』


(宇宙から知識を得たって、どういうこと?)


『人類の「知識」というのはね、サトル。もともと宇宙に存在していたものなんだ。人間はその一部を、受け取っているにすぎない。いうなら、「アカシックレコード(全宇宙の情報)」を垣間かいま見ているということだ』


(そうなの? じゃあ、もし……)


『ここまでにしよう。これ以上はお前の脳に負担がかかる。あとは古戸から聞くといい』


(知ってるの? 古戸さんを)


『我が子孫よ、使命は汝に託したぞ』


『最後に、サトル。古戸は、彼は味方だ。それと、マキちゃんを守ってやれ』


 父と、プロメテウスと、他の人々が、闇に消えていく。


(父さん!)


────


「うう……」


 視界が戻ると、頭がクラッとして、サトルはこめかみを押さえてよろめいた。


「サトルくん、大丈夫?」


 マキが、サトル肩に手を置いた。

 

「だ、大丈夫だよ。どのくらい時間が経ったの?」


「どのくらいって、時間なんか経ってないわよ。サトルくん」


「え……?」


「わかっただろう、サトルくん。君の使命が」


「ああ、なんとなくね。古戸さん」


「さあ、その杖を持って。すぐにここを離れるんだ。じきに追手が来るはずだ。君もだ、知多野くん。いっしょに来るんだ」


「え? なんであたしが?」


「今ここで説明してる暇はない。やつらは君も狙う」


「ホントだよ。マキちゃん。俺もさっき襲われたんだ」


「あたしが? なんでよ? やだやだ、おうちに帰る」


「しょうがない子だ」


 古戸は、マキを肩にひょいと担いだ。


「あーっ、やだやだー。チカンー! 人さらいー!」


 マキは、古戸の身体をポカポカと殴った。むろん、古戸は気にも留めず、サトルに後部座席のドアを開けさせると、マキを押し込んだ。


 ────


 ──車中。


 古戸が運転し、後部座席のサトルは、マキをなだめていた。


「あらためて説明しよう」


 古戸が口を開いた。


「我われが向かっているのは、N県の高笠巣こうかさす山だ。時刻は、およそ10時間後。必要なものはその杖と、君たち2人だ」


「なんで俺たちが……?」


「杖から聞いたんじゃないのか?」


「途中までね。あとは古戸さんが知ってるって」


「ちょっと、どういうこと? あたしだけのけ者にしないで、教えてよ」


「マキちゃん、さっき杖を握った時にね……」


 サトルは、さっき見たものを2人に話した。


 ──


「そんなことが……。サトルくんって、予知能力があるの?」


「ああ。昔から、先のことがわかるんだ。でも、意識して見えるのは、すぐ先のことだけなんだ」


 マキは、不思議そうにサトルを見た。


 車は、国道から高速道路に入る。


「それで……」


 高速を疾走しながら、古戸は話を続けた。


「1000年ごとに受け取るというのは、例えるなら、君たちも使っているPCやスマホの、『アップデート』みたいなもんだ。そして前回のアップデートから1000年経過するのが、今からおよそ10時間後なんだ」


「その『アップデート』をしなければ、どうなるの?」


「君らのスマホは、アップデートしなくてもそのまま使えるが、人間の知識は、アップデート情報をダウンロードしなけりゃ『消滅』してしまうんだ」


「消滅すると、どうなるの?」


「人類の『知識』が消えるんだ。だから、文明は崩壊してしまう。石器時代にまで後退してしまうだろう」


「嘘だろ……。そんなこと、マジで起こるの?」


「……マジだよ」


 古戸は、にこりともせずに言った。


「……補給が必要だ」


 減速してサービスエリアに入り、ガソリンスタンドに停車した。店員が勢いよく走り寄る。


「ハイオク満タンだ」


 数人の店員が、テキパキと作業する。その1人が、窓越しに言った。


「エンジンオイルのチェックしましょうか?」


「けっこうだ。給油だけでいい」


「タイヤの空気圧チェックしましょうか?」


「けっこうだ」


「今、愛車の無料点検を実施しています。もしお時間ありましたら……」


「いらん!」


 古戸が低い声で喚くと、店員は引き下がった。サトルたちは古戸の気迫に驚いたが、店員は慣れっこなのか、気にもしていないようだ。


 給油が終ると、コンビニに入った。


「食量と水を買っておく」


 レジをすませていると、店内の有線ラジオが3人の耳に入った。


『……次のニュースです。S市で発砲事件がありました。犯人と思われる男は、高校生2人を誘拐して車で逃走中です。警察によると、犯人は身長180㎝くらい。黒っぽいスーツにワイシャツ姿です。車の特徴は……』


 レジの店員が、じろじろと古戸を見た。それから、制服姿のサトルとマキの2人を順に見る。サトルとマキはどきりとした。


 だが古戸は気にする様子もなく、3人とも店を出た。


 ────


 車に乗ったとたん、サトルが口を開いた。


「ねえ、古戸さん。さっきのラジオのニュース……」


「オリュンポスのやつらの仕業だ。我われを監視しているんだ。だが、どちらにせよ行くしかない」


 ────


 3人を乗せた車は、ふたたび高速道路に出た。サトルもマキも、周りの車を意識するようになった。


「さっきの続きだが」


 古戸が言った。


「君の家系は、サトルくん、1000年ごとのアップデートの役目を担ってきたんだ。君も、時が来ればその使命に目覚めただろう。だが、現時点では君の父が担っていたんだ」


「俺の父が? でも、父さんは、3年前……」


「そうだ。亡くなっている。だから、君が使命を受け継ぐんだ」


「じゃあ、もし俺の先祖がどこかで途絶えてたら、文明は崩壊してたの?」


「そうだ。人類の文明は、綱渡りで維持されてきたんだ。君の父が亡くなって、その『杖』の在りかだけがわからなかった。しかし、やつらが、ついに突き止めたんだ」


「あいつらの狙いはなんなの?」


「君と、その杖だ。やつらは、君たちをずっと監視していたんだ。やつらは手段をえらばないぞ。……実はな、君の父を殺したのも、オリュンポス社のエージェントなんだ」


「なんだって? 父さんが死んだのは事故だよ。警察も調査したって」


「やつらの力は、この世界を裏から牛耳っているんだ。事件をもみ消すことくらい、わけないさ」


「でも……」


「確かだ。なぜなら、君の父を殺したのは……」


 古戸は、いったん口をつぐんだ。


「君の父を殺したのは、私だからな」



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