101 否定
さっきの言葉が、まだ空気の中に残っている。
「愛に、なれなかったね」
その余韻を、踏みしめるみたいに歩く。
街灯の光が、一定のリズムで通り過ぎる。
(……)
胸の奥で、何かが引っかかる。
そのままにしておけない感覚。
気づいたときには――
「……違う」
口から出ていた。
即答だった。
考えるより先に、出ていた。
凛が、少しだけ足を止める。
驚いたように、こちらを見る。
「なにが」
静かな声。
でも、ちゃんと揺れている。
足を止める。
向き合うわけでもなく、
少し斜めのまま。
「なれてた」
言い切る。
迷いはない。
自分でも、不思議なくらいに。
凛の目が、わずかに揺れる。
「……」
言葉が返ってこない。
でも、視線は逸らさない。
「気づかなかっただけで」
続ける。
夜の空気が、少しだけ冷たくなる。
あの時間。
名前をつけなかった関係。
曖昧なままにしていた距離。
ちゃんと向き合わなかった気持ち。
全部――
足りなかったんじゃない。
足りていたのに、
認めなかっただけだ。
(……)
凛が、ゆっくり息を吐く。
何かを考えるように、
少しだけ目を伏せる。
街灯の光が、その横顔を照らす。
「……そっか」
小さくこぼれる。
否定も、肯定もない声。
ただ、受け取ったみたいに。
夜の中で、
止まっていた時間が、
少しだけ動き出す。
あの頃、言えなかったこと。
分からなかったこと。
今になって、
やっと形になっていく。
それは、
遅すぎる気づきかもしれない。
でも――
確かに、ここが
何かの“転換点”だった。




