14話。
◇◇◇
柔らかく暖かかったはずの部屋は、冷たく重い静寂に包まれていた。
薬瓶と箱が触れ合う無機質な音と、啜り泣く息だけが響く。
「……ごめんね」
「何が」
被せるように発した言葉は、滲む感情を隠すこともなく冷たかった。
「その“ごめん”は、また、何も言わないことへの謝罪?」
続いて出た声は、捲し立てるようで、責める響きを帯びている。
リティシアは、家に戻って来ても何も話そうとせず、ただ泣いて謝罪を繰り返すノナに怒っていた。
――ちゃんと話す、と言ったのに。
何も教えてくれない事実が悔しくて、悲しくて。
自分自身の感情が制御できず、怒りとなってノナへ当たり散らしてしまうことにも、自己嫌悪を覚えていた。
「ごめ、……っ」
ノナは顔をくしゃくしゃに歪め、堰を切ったように涙を零し始めた。
その様子にさらに眉を顰めたリティシアは、己の焼け爛れた手へ視線を落とす。
決して、責めたいわけではなかった。
彼女の苦しみに、少しでも寄り添いたかった。
――でも、無理なんだ。
自分がノナから貰った暖かさを、彼女にも知ってほしくて。
どうにかそうなれればいいと願っていた、淡い想いが霧散していくのを感じていた。
「もう……いい、泣くな。まずは手当が先だ」
せめて彼女がこれ以上傷つくことのないように。
零れかけた溜息を飲み込み、小さく息を吐く。
痛む手を無理やり動かし、薬瓶と包帯を取りながら呟いた。
「で、でも……リティ、手が」
「問題ない」
「ダメ!」
悲鳴のような声に、思わず目を見開く。
ポケットから取り出した手袋を嵌め、頬を濡らしたままノナは爛れた手をそっと持ち上げた。
「僕は……本当に、平気なの。
……な、慣れてるから」
痛まないよう、慎重に巻かれる包帯。
自分より遥かに重傷なノナが先に手当てする状況に叱責したかったが、少しの沈黙の後に発せられた言葉のせいで思考が止まった。
――慣れてる?
固まったリティシアを構うことなく、ノナは巻き終わった手をそっと持ち上げ、自分の頬へ引き寄せる。
濡れた瞳を閉じ、リティシアを労るように「ごめんね」とまた呟いた。
その間も黙っているリティシアに、ノナは苦笑を浮かべる。
少し考える素振りを見せたあと、目線を落とした。
そして決心したように、ゆっくりと口を開く。
「き、聞いてくれる……?」
縋るような、小さな声だった。
「……言いたくないなら、別に無理には」
「違うの、そうじゃない」
声を被せ、勢いよく顔を上げたノナは苦しそうに顔を歪めている。
目線を彷徨わせ、また泣きそうに口を噛み締めて呟いた。
「僕……排除対象なんだぁ」
瞳からは一筋の涙が流れているのに、無理やり笑みを作り、さらに続ける。
「要らない、って」




