12話。
ひとりで歩く心細さを誤魔化すように、低木の葉を撫で、花を手折りながら歩く。
手折ってしまった花は束にして持った。
――あいつがきっと喜ぶ。
不在の相手を思い浮かべ、頬を緩める。
しかしすぐにハッとし、口を引き結んだ。
匂いを嗅ぐように、それでいて熱い顔を隠すように、集めただけの花束を顔の前に持ち上げる。
調子が狂う。
幾分か日にちが経ったとはいえ、まだ短い期間だ。
それなのに、ノナのことを考えてしまう自分に嫌気が差した。
ふと、花束越しの視界の隅が暗くなっていることに気づき、顔を上げる。
目の前に広がるのは、葉や花が、薄く紅茶の膜を張ったようなセピア色に染まった景色だった。
「うわ…」
遠目で見たときは、いつも通りの色だったはずなのに。
初めて見る夕暮れの色に、リティシアは感嘆の息を漏らした。
思わず指先に視線を落とし、それから反対の手に持った花束、着ている袖、羽根へと目を移す。
見るものすべてがいつもと違う様子で、コーラルの瞳が輝いた。
その場でくるくると、踊るように回る。
回るたび、視界に映るセピア色が揺れた。
「すっごい…。これが、夕暮れ」
案の定目が回り、平衡感覚がずれて、その場にへたり込むように芝生へ倒れ込んだ。
仰向けになった視界には、珊瑚に紫が溶け込み、やがて蘇芳へと変わりつつある空が映る。
見られるとは思ってもいなかった空に、コーラルの瞳がゆっくりと瞬き、煌めいた。
名残惜しそうに視線を森へ移したリティシアは、ゆっくりと身を起こす。
――もっと進んだら、どんな色が待っているのだろう。
そんな興味が、胸の奥から湧き上がってしまったのだ。
躊躇うことなく森へ近づき、足を踏み入れようとして――
しかし、すぐに歩みを止めた。
鬱蒼と茂る背の高い木々。
夕暮れの柔らかな光すら通さないのか、その隙間から見える空間は闇だった。
漆黒。
広がる黒に、思わず息を呑む。
先ほどまで胸に広がっていた興味は、目の前の光景に霧散していた。
「…ノナ」
震える身体を誤魔化すように吐き出したのは、まだ帰ってこない悪魔の名前。
もちろん返事はない。
返ってくるのは静寂だけだった。
考えないようにしていた恐怖が、じわり、じわりと脳を侵食していく。
羽根を胸元へ引き寄せながら、少しずつ後退る。
握りしめた花束は折れてしまい、花弁がぽろぽろと地面に落ちていた。
空はもう、マジックアワーに差し迫っている。




