11話。
◇◇◇
あれから何日か経って、真っ暗にはならず、時間によって表情を変える空も見慣れてきた。
暴行による怪我も、瘡蓋や痣は少し残っているが、すっかり良くなっている。包帯が取れて自由に動かせるようになったが、随分と小さくなってしまった羽根を、リティシアは少しだけ揺らした。
今朝方ノナが「食料調達!」と言いながら、魔界側の森へ入って行ったため、今はひとりだ。
ふたりで過ごすことが当たり前になってしまったリティシアは、当然のように着いて行こうと支度をしていた。そんな様子を見て、危ないからと慌てた様子で首を振るノナに、渋々その場に留まった。どこへでも連れて行くノナが、何度も危険だと言うのなら、本当に危ないのだろうと思ったからだ。
「食料も、無限じゃないしな……」
小さい家の屋根の上。
膝を抱え込むように抱き締めて、ぽつりと呟いた言葉に、当然返答はない。しばらく忘れていた独りの時間に、身体がソワソワする。
無意識に家の前の淀みへ視線を向けていたことに気付き、リティシアは膝に顔を埋めた。
水色と珊瑚の空に、紫が混じり出している。
ノナが出掛けてから、結構な時間が経っていた。
「遅い」
口先を突き出して、不服そうに呟く。その言葉も、誰にも受け取られることはない。
――少しだけ。ほんの少し。
魔界に続くだろう森に入らずとも、その手前でなら。
自分に言い聞かせるように頷きながら、リティシアは静かに立ち上がると、小さな羽根で少しだけ浮くようにして、柔らかく地面に降りた。
淀みへ、手を伸ばす。
ノナが作った目眩まし。
ほんの少し温かいようなそれは、リティシアの手を静かに受け止めるように波紋を描いた。
「ッ……」
波紋が揺れるのに合わせるように、視界も揺れる感覚に息を飲む。いつもはノナが手を引いて通るそこは、ひとりだと、意識しなかった歪みを感じ取ってしまった。
小さく息を吐いて呼吸を整えると、リティシアは森を目指して歩き出した。
いつも通りのはずが、目の前に広がる庭園はどこか――暗い。
そして、その理由をどこか理解している自分が気恥ずかしくて、首を大きく左右に振った。
「いつも通りだ」
うんうん、とひとり、己に言い聞かせるように頷く。傍から見れば変人だろう。しかし、それよりも、自分の気持ちを認めてしまう方が恥ずかしかった。




