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Lesson.8 『惑星開拓と統治』

 はい、皆さんこんにちは!講師役を務めさせて頂くアイリスです。


 今回は私達の世界で物語の舞台となる惑星についてのお話です。ここまでの旅でも私達の故郷である資源惑星CM41F3Cを始め3つの惑星が登場しましたが、これらの星がどのような過程で開拓されたのか、そしてどのような形で統治が行われているのかについてお話ししますね!


 惑星統治の前提として、その惑星が誰ものなのかと言うところからお話を始めたいと思います。皆さんが住んでいる惑星「地球」は誰のものでしょうか?おそらく、多くの方が「人類」のものであって、特定の組織や個人の所有物ではないと考えておられると思います。

 ですが私達の世界の惑星は基本的に誰かの所有物なんです。個人であったり、組織であったり、あるいは企業であったり。形態はまちまちですが、それぞれの惑星にはオーナーたる所有者がいて、所有者が惑星統治を行う権利と義務を負っています。


 どうやって惑星を入手するのか、ですか?もちろん、惑星を買うこともできますが、それはかなり例外的です。なにせ人類が入植可能な惑星は非常に価値があるものですから、売買されるにしても天文学的な――実際に天体ですからね――金額が必要になります。なので、普通は星が欲しい!という組織は自分達で新しい星を見つけて入植を行います。


 「私」が暮らしている銀河の中には100億以上の恒星系があり、その中で15%程度は人類が生息可能な惑星を持つ可能性があるとされています。単純計算すると15億の入植可能惑星があると考えると、よりどりみどりに思えますよね。でも、実際のところは人類が入植できるのはその中の一握りに過ぎません。酸素があり、水があり、気温が一定範囲に収まっていないと人類は生息できませんし、動植物が存在していない惑星では入植後の資源確保も難しいからです。


 ですが私達が現在持っている探査技術では約30パーセク……およそ100光年ぐらいまでの距離であれば、入植が可能であるかどうかをおおよそ判別することが出来ますから、あてもなく入植可能な惑星を探して宇宙を彷徨う必要はありません。

 ですから、入植が出来そうな惑星を見つけたらそこ向かって船を飛ばして、最初にたどり着けばその星は到着した人の物。惑星を手に入れることが出来るという仕組みなんです。ね、非常に簡単なルールでしょう?このルール、最初は不文律だったのですが、今から千数百年前に明文化されたものになっているのですが……そのお話はまたいずれ。

 ちなみにこの最初の到達者の事を「オリジネーター」と呼びますが、多くの星ではオリジネーターたる組織、あるいはオリジネーターの末裔が星の統治を行っていますが……こちらのお話も後ほど改めて説明しますね。



 でも惑星への入植には問題もあります。既にお話ししていたように私達の文明では光速の99.9%の速度、つまり亜光速でしか宇宙を航行できません。ということは100光年先の惑星にたどり着くためには100年以上の時間が必要になる訳なんです。当然、そんな長距離を航行する宇宙船は近距離を飛ぶ貨物船のような身軽な装備という訳にはいきませんし、搭載すべき物資も航行中、到着後の開拓用と多岐にわたる物資が必要になります。つまり……惑星開拓にはとんでもないお金が必要になるってことなんです。


 この開拓コストと難易度を改善するために「コンストラクター」と呼ばれる機械が用いられます。この万能工作機には様々な物資の設計図と加工ツールが内蔵されていて、鉱石をはじめとした惑星の資源を投入することで様々な物資や機材が製造できる優れものなんです。

 ただ、構造が複雑で損耗部品が多いので耐用年数は保って数年、さらに言えばそれぞれの物資を製造する専用ラインと比べると……汎用的ではあるのですが、その汎用性に見合わない程コストパフォーマンスが悪いんです。ですからコンストラクターは惑星開発が進むと無用の長物になる、いわば惑星開拓専用の機材ということになります。


 とても便利なコンストラクターですが、決して全ての問題を解決できるわけではありません。例えば遠距離から観測した情報と現地で確認した情報の間に差違が生じた場合、つまり移住できると思って長い期間を掛けて航行してたどり着いた先が、実は人間が住むのには適さない星という事もありえるんです。

 例えば大気中に人体に有害な成分が混じっていたり、地表に凶暴な原生生物がいたり……遠距離からの観測ではどうしても把握出来ないことも多いので、通常は事前に亜光速探査プローブを飛ばして詳細な情報を収集した上で入植の可否が決定されます。



 惑星への入植を決定する基準になるのはその惑星がどの程度入植に適しているか、ということなんですが……実はこれ、非常に判りやすい指標で数値化されているんです。その名も「入植適合率」って言うんですが……うん、読んで字のごとくですね。

 入植適合率の数値は惑星環境や資源の埋蔵量などを総合的に評価した上で求められるざっくりとした指標です。85~100%は問題無く入植でき、快適に過ごせる環境。私達が立ち寄った惑星だとペレジスやヴェリザンがこのグループに属します。


 60~84%のグループは何らかの問題がある惑星。暑すぎたり、寒すぎたり。あるいは地下資源や水資源、エネルギー供給に難があったり。人に害をなす原生生物が一定以上存在する場合などもこのグループに分類されます。これらの惑星は技術によって環境を補うことはできますが、他に候補があるなら別の星を開拓した方がコストパフォーマンスが良いと忌避される惑星群です。

 実は私達の故郷である資源惑星CM41F3Cの入植適合率は60%台半ばでこのグループに属します。私達の故郷って大気成分こそ良好なんですが、水資源が少ない上に人を襲う原生生物が大量にいますから、C3が産出しなければ誰にも見向されないような星なんですよ。

 住めば都という言葉もありますし、私的には産まれ育った惑星なので愛着はあるんですけどね。


 60%未満の入植適合率になるとそこはもう基本的には開拓は行われません。ある程度の惑星改造(テラフォーミング)を施さない限り人類が生活するには不適であったり、外部からの資源輸入が必須になるためです。ですから余程の理由が無い限り開拓に必要なコストと、入植で得られる利益が釣り合わない不採算惑星になる可能性が高いこともあって、これらの星は基本的に無視されることになります。

 なお普通の感覚で行けば入植適合率が50%を切る星への入植は「狂気の沙汰」だと考えられています。……実際には、やむなくそういう適合率の星へ入植した人もいるんですけどね。


 ちなみにこの入植適合率の算出基準となっている適合率100%の惑星とは何かと言う件については諸説ありますが、私は人類が誕生した起源の星(オリジンスター)の環境が100%なのではないかと思っています。だって、人類の故郷ですからね。故郷以上に快適な星なんて考えられませんから。


 ともあれ、入植が検討されるのは遠方からの観測結果が入植適合率80%以上、余程訳ありだとしても75%以上だと判断された場合です。だって現地へ行って、観測より良い条件であることってまず有り得ませんからね。

 でもそういったリスクや手間があるにも関わらず、人類の版図を広げるためにフロンティアへ挑む人達への報酬として惑星の所有権が認められる。そう考えると、壮大なロマンがありますよね。



 そして、困難を乗り越えて新たな惑星に到着し、入植を成し遂げた人達が得ることができる称号が「オリジネーター」なんです。先ほど、惑星は個人や組織、企業が所有できると説明しましたけど、オリジネーターであるということと所有権を持つと言うことはほぼ同義になります。ほぼ、という点を説明する前に実際の例を挙げてオリジネーターのお話をしますね。



 まず私達の故郷である資源惑星CM41F3C。ここはギルドがC3採掘のために拠点を構えた直轄地と呼ばれる星なので、オリジネーターはモーリオンギルドと言うことになります。

 直轄地はその性質上ギルド関係者しかいませんので、統治者はギルド統括局ということになりますが、実際には直轄地の指揮をとる開拓団長……私の父、ハロルド・ブースタリアのような立場の人が実質的な星の統治者ということになります。

 もっともギルド直轄地はギルドが保有する星なので開拓団長は基本的にギルド統括局から任命を受ける形になりますし、開拓団長はあくまでもギルドの中間管理職的な立ち位置ですから、運営実務担当みたいな感じなんですけどね。



 次に私達が訪れた最初の星、ペレジス。「私」が訪れた際にはギルド伯を名乗るベルンハルトが統治を行っていましたが、彼はギルドの支部長でしかなく、オリジネーターでもなんでもありません。ペレジス編でも言及があったように、あの星は元々評議会による合議で統治が行われていましたが、合議による統治機構の成り立ちにはオリジネーターが大きく関わっているんです。


 ペレジスへの入植は後に4大名家と呼ばれる、複数の個人が合同出資した移民船によって行われました。豪商であったり、どこかの星の貴族だったりと来歴はまちまちだったそうですが、シノノメ家、クジョウ家、プランタジネット家、ブルボン家という4つの家系がペレジスのオリジネーターと言うことになります。

 そう、シノノメ家……つまりアリサはペレジスのオリジネーターの直系子孫なんです。さらに言えばアリサの母親、マリエルさんの実家はプランタジネット家なので、血統的に見ればアリサはペレジス四大名家のうちの2つの血を引いているペレジスの「姫」ということになります。ベルンハルトがアリサを謀殺しなかった理由もそのあたりにあるのかもしれませんね。


 ともあれオリジネーターが複数いる以上は統治権もまた分割されますが、四大名家は合同で惑星開拓を行う程度には良好な関係でしたから互いの権利を尊重するために合議制の評議会を形成しました。もっともギルドが支部を設置した際、シノノメ家とプランタジネット家は自らの家系にシンガーの血を取り入れ、クジョウ家とブルボン家はギルドとの関係を忌避したそうですから、その時点で断絶とは言わないまでも温度差が生じたようではありますが……。



 その次に「私」が訪れたヴェリザン。こちらも民間有志による移民船団が開拓を行った惑星です。

 ですがこの惑星は貴族や商人ではなく芸術家達が自らの創造性を高められる環境を求めて入植を行ったという変わり種です。様々な分野で功績を挙げた芸術家達は芸術が至高とされる惑星を欲し、その結果として誕生したのが芸術惑星と称されるヴェリザンでした。

 ヴェザリンのオリジネーターは移民船を仕立てた芸術家達ですが、その船には芸術家だけでなくマネージャーやプロモーター、芸術関連の機材を製造する人達のような芸術家の活動を支援する人々も多数乗船していました。本来であればオリジネーターとなるべき芸術家達は惑星統治にはまるで興味は無かったので、ヴェリザンの行政を担う統領府は付き添いで入植した支援者達によって代理運営されることになりました。

 結果としてヴェリザンは芸術家が活動しやすいような文化振興や伝統芸術の保全、新たしい表現の開拓支援など、普通の惑星では後回しにされるようなことが優先的に行われる、まさに芸術家の楽園のような惑星になりました。幾世代もの間、芸術家とそれを支持、支援する人の共同で惑星の運営は行われました。


 ……が、本編で既に描かれているように、トワと「私」が訪れた時点でヴェリザンは疫病によるパンデミックでほぼ壊滅状態になっていましたよね。パンデミック発生時、大統領府の人間が真っ先に星を捨てて逃げた経緯には、行政側の人間が星への責任を負うオリジネーターではなかったという事情が関係していたのかもしれません。パンデミックが終息し、今後復興を遂げてゆくであろうヴェリザンがどのような統治体系を再構築するのかは判りませんが、次の為政者達が星への責任感を持つ事を願うばかりです。



 最後に紹介するのは次に「私」とトワが向かっているクレリスという星。ここもかなりユニークな星で、オリジネーターは人間ではありません。以前お伝えした機族……それも機族の姫である「機姫カルティア」がクレリスのオリジネーターです。

 人間と違い機族は永遠に近い寿命を持ちますから、カルティアは千数百年の時を経てなお健在です。


 そして機族がオリジネーターであるというのも珍しい点ですが、カルティアが惑星の所有権を放棄しているという点も珍しいところです。通常、オリジネーターが第三者に統治を委託する場合でも、所有権はオリジネーターが保持し続け、自らの資産である星が上げる収益を「税」と言う形で回収する……つまり投資物件として扱うことが一般的です。ですがカルティアはクレリスに対し、自らが建造した大図書館の維持管理に関わる事以外は一切の権利を放棄し、惑星統治を行う大統領府に対しても一切の介入、口出しは行いません。


 ですから、実態としてクレリスは所有者がいない……ある意味、特定の個人や組織の意向に左右されない公正な統治が行われている惑星だと言えるのです。もちろん、カルティアの影響は様々な所に及んでいます。彼女は知を集積する拠点としてクレリスの開発を行いましたから、その意を酌んでこの星には多数の学術研究機関が存在していますし、その中でも最高峰と呼ばれるカルティアンアカデミーは彼女の名を冠しています。

 本人は運営に参加しないそうですが、名誉理事長という役職だそうで……まさにそのアカデミーこそがクレリスという惑星の縮図なのかもしれませんね。


 ちなみに……オリジネーター達が惑星統治を放棄するとどうなるかについてもお話ししておきましょうか。ヴェリザンのケースがこれに近いのですが、統治者が何らかの理由で惑星を統治する責務を果たせなくなった場合、もしくはオリジネーターとしての権利を第三者に委譲した場合、惑星の統治者が変更されることがあります。


 これは政権交代のような行政システム内の権力委譲ではなく、もっとドラスティックなもので……皆さんのイメージでいえば「革命」に近いものです。例えば王制を敷いていた星の王族が統治能力を失い、民主制へ移行する場合。ある企業が保有していた星が住民達に払い下げれる場合。民主的な行政機関が崩壊し、独裁者が台頭する場合。行政能力を失った惑星をギルドが接収し直轄地化する場合。様々なケースが存在しています。


 これらの権力委譲は対話や経済的な取引によって平和裏に行われる場合もありますが、謀略や暴力による簒奪が行われる事も決して少なくはありません。ですが統治者が代わったとしても、他の惑星はこれらに口出しを行う事はありません。なぜなら統治者たるオリジネーターには自らの権利を守るだけの力を持つ義務があるからです。

 もちろんこれらの簒奪は外惑星からの侵略ではありません。なにせ亜光速航行で他の惑星を侵略しに行くのは非経済的ですし、資源や土地が欲しければ新しい星を探せば良いのですから。つまり簒奪は惑星内部の者によって行われる……要するに統治者の力量不足が招く結末だと考えられているんです。


 そしてもし誰も惑星を統治しなくなったら?疫病や環境破壊、天変地異で統治どころか入植地の維持すら出来なくなるケースがこれに相当しますが……。この場合、その星は失われた星、ロストプラネットとなります。大抵のロストプラネットは人が住めなくなった状態ですから再入植が行われる事はありません。ですがごく稀に人類が生存しているロストプラネットも……いえ、このお話はまたいずれ別の機会にしましょうか。



 さて、少し長くなりましたので、では今回のお話はここまでです。また次回お会いしましょう!


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