Lesson.6 『C3・その2』
はい、皆さんこんにちは!講師役を務めさせて頂くアイリスです。
今回のお話はヴェリザン編で登場したC3の使用方法、「クリスタルオルガン」と「恒星間通信」についてのお話です。
まず「クリスタルオルガン」はみなさんの世界だと「パイプオルガン」に相当する楽器です。非常に大きな楽器なので音楽堂や宗教施設等の設備として設置されています。コアになるC3の他、内部にそれぞれの音を司る多数の小型C3が内蔵されているというもので、お値段も国家予算レベルらしく……そんなクリスタルオルガンが据え付けられている大音楽堂がどれほどヴェリザンの人達にとって重要な施設であったか、そしてそんな施設が放棄されるぐらいパンデミックが苛烈であったことが良くわかります。
ちなみにクリスタルオルガンの装置自体は巨大なものですが、演奏に使用する鍵盤部分は普通のオルガンと同じです。なので、オルガニストの人達は自宅で練習する際には普通のオルガンを使って指の動きやペダルの練習を行ってるそうです。レイラ?彼女は……独学というか、ヴァルトさんが弾いてるのを見ただけで覚えてましたよね。
あれはきっと頭の中に仮想オルガンとでもいうべきものを持ってて、自然とそれを使って練習してる感じなんじゃないかな……。オルガンに人生と将来の全てを掛けてましたからね、あの子。トワも言ってましたけどあの子は将来一流の……いえ、それはまた別のお話ですね。
次に「恒星間通信」についてです。人によっては超光速通信と呼んだりしますが、ものとしては同じで、離れた拠点との通信を行う……「無線」みたいなものですね。ただ、無線と違うのは通信の遅延が起こらないこと。たとえば電波や光を使って通信すると、情報は1秒辺り30万Kmしか進めません。いわゆる「光速の壁」ですね。
そして恒星間の距離はお隣同士の恒星系でも数光年とか、十数光年の距離です。つまり、今私が何かを発信しても、お隣の人が住んでいる星に届くまでに数年以上掛かるわけです。それを克服するのがC3を使った「超光速」な恒星間通信、ということです。
原理としては……そうですね、現象だけを見れば「量子もつれ」に似ているかもしれません。もっともC3による通信は即時性こそ量子もつれに似ていますが、通信可能な距離は制限があるんですけどね。
難しい理屈は置いておいて現象的な話をすると、まず2つのC3を同じ波長で調律して双方が共鳴可能な状態におきます。この共鳴し合う2つのC3は「同一の存在」として扱うことが出来るらしくて、大量のフォトンエネルギーを注ぎ込み共振を起こすことで、時空間を超える通信を可能にしているんです。そして、その対になったC3を使うことで大規模かつ長距離に行うのがC3による恒星間通信、という訳です。
以前お話ししたレゾナンスフィールドも、C3が空間に干渉して様々な影響を与えていたと思いますが、あの能力が関連しているとギルドでは説明されています。
います、というのは……実はC3が時空間に影響を与えるこの仕組み、どうなっているのかまだ詳しい事が解明されていないんですよ。ただ、それでも共鳴する水晶を使うと通信が可能になるし、単体だとフィールドを形成できるしと言うことは判っているので、私達はこれを利用しています。
もちろん、この通信の仕組みは万能ではありません。まず通信を行う対になるC3は完全に同じ状態に調律しないと共鳴が発生しません。微細なコントロールが必要なので、普通は同サイズ、同品質な2つの高ランクC3を並べて同じシンガーが調律することで始めて共鳴が得られる訳です。
ですから、恒星間通信の調律任務を引き受けられるシンガーはC3との親和度が極めて高いシンガー、最低でもAランク以上でないと引き受けることができません。もっとも、恒星間通信の新規設定って「新規入植する惑星ができた」という意味とほぼ同義なので、支部単位でみれば数年に1回発生するかどうか、というレアなミッションなんですけどね。
また、共振できる距離はC3の品質やサイズに影響を受けます。ですから恒星間通信ともなると大きくて高品質な……そう、ヴェリザンでトワが扱ったようなものが必須になる訳です。
さらに言えば恒星間通信で交信できるのは共鳴しているC3の間だけです。
例えば私達の故郷にはペレジスとの交信を行うC3はありますが、それ以外の場所へ送信できるC3がありません。それに、うちは辺境で近隣に人類が住む星はありませんから、ペレジス以外の通信先というとずいぶんと遠くになってしまって、「現実的な」C3では通信範囲の外になってしまいます。
現実的、というのはサイズの問題で、産出される常識サイズなら……ということです。理論上では、とても巨大な……例えば小惑星ぐらいのサイズのC3があれば銀河系全体でも通信が届くと言う仮説もあるんですが、そんなC3あるはずもないですし。そもそも、そこへつぎ込むエネルギーだって、どれだけ巨大になることやら。想像も付きません。なので、物理的な制約からC3による超光速通信には限界距離がある、という訳です。
ですからそのままだと私達の星はペレジスとしか通信ができません。これをどう解決しているかというと……例えばペレジスのようなその周辺惑星の中継点になる惑星、特に大きなギルド支部があるところにはいくつかの拠点と通信できるように、複数のC3が設置されています。それらのC3は相互に情報を伝達できるように調整されていますので、ペレジスのようなハブを中継して他の拠点へ、通信をリレーしていく事ができるようになっています。
イメージとしては、ちょっとアナログですけど、違う相手と通話している電話同士をくっつけて、通話内容をリレーするみたいな感じだと思って貰えると良いかもしれません。このリレー網は銀河中に張り巡らされているので、結果として恒星間通信ネットワークとでも言うべきものが人類の版図の間での即時通信を可能にしている訳です
恒星間通信ネットワークについては……そうですね「メッシュ構造」による「インターネット」とお伝えするのがみなさんにはなじみ深いかもしれませんね。
なお恒星間通信技術と並行して、惑星上での通信や、軌道ステーションと航宙船の交信にもこのC3を用いた通信方法が使われています。ですがこれらに使われるC3は恒星間通信用ほどの高出力は必要ありませんので、ランクの低い小型なC3でも運用が可能です。通信距離はかなり限定的になりますが、航宙船用だと1光日程度、惑星上だと数千Km程度まで通信が可能です。この程度の通信用ならD~FランクのC3で十分ですし、また調律の難易度も低い……というか、スクールの子供達がアルバイトとして調律できるレベルなので、ギルドでは「標準規格の通信用調律済みC3」をお値打ち価格で販売してます。「SIMカード」でしたっけ?それに似ているかもしれませんね。
ちなみに調律の難易度についてですが……本編ではトワがさくっとSランクの調律を済ませていましたが、本来、恒星間通信もクリスタルオルガンも複数のシンガーがチームを組んで、かなりの長時間を掛けて特殊な調律を行うものなんです。
なのにトワったら一人で、しかも急速まで使ってあっという間に仕上げてましたよね。あれ、非凡を通り越して非常識、ありえないレベルなんです。そもそも一度見た通信セッティングを覚えて、間に合わせのC3で再現してみせるなんて普通のシンガーには絶対に不可能な奇跡とも言える技なんですが……。本人は理解してませんけど、銀河に数人と言われているSランクのシンガーでも普通はあの子みたいな調律はできません。姉としては誇らしいけど、あまり無茶するのはいろんな意味で心配です、ほんとに。
さて、では今回はここまでにしておきましょうか。また次回お会いしましょう!




