44:アヤカ、仲間の元へ走る
パチパチと焚き火の爆ぜる音で、アヤカは目を覚ました。
「よう。起きたか、聖人様?」
すぐ近くで人の気配がする。それは、アヤカの見知った人物だった。
「……アドルフ」
アドルフ・クラウゼン。彼は、主に医療や補給行為を行う第四騎士団の副団長だ。元神殿の出身者で、腕の良い医者でもある。
見慣れない天幕の近くで、アヤカは寝かされていた。ここは、神殿の敷地外のようだ。
「話は聞いた。神殿側が、色々やらかしたみたいだな……」
「……うん」
「それにしても、相変わらず驚異的な回復力だ。瀕死状態だったが、もうほとんどの傷が塞がっている」
「……私、どうしてここにいるの? 神殿にいたはずなのに」
「ユスティンが、瀕死のお前をここへ連れてきたんだ。今は、幽獣退治に行ってしまったが」
アヤカはゆっくりと身を起こした。全身の痛みはほとんど消えているし、体も軽い。
(聖人の力が、戻っている……)
神殿の薬の効果は、もう完全に消えているようだった。
「シュウジは? 弟は、どうしているの?」
「ああ、もう一人の聖人なら、天幕の中で震えているぜ? 騎士達が何度か外へ連れ出そうとしたんだが、無駄だった。どうしようもないから、外に出ないように言って放置している」
アヤカと同様に力は戻っているだろうが、暴れているわけではない。彼の言うように、放置していても問題ないだろう。
「第二騎士団のみんなは?」
「ユスティンと同じだ。幽獣を退治しに、神殿へ行った」
場所は、あの泉の付近だろう。最初に、アヤカ達が連行された場所だ。
「私も行ってくるよ。手当てしてくれてありがとう、アドルフ」
「ほとんどは、聖人の治癒力だけどなー。ここから神殿までは、少し離れているから、道中気を付けろよ」
「わかった!」
アヤカは、猛スピードで神殿へと駆け出した。
赤い夜には普通の人間が太刀打ちできないような幽獣が出ると、以前アドルフが言っていた。
聖人が退治に失敗したので、百年前は人類が一夜で半分に減ってしまったらしい。
きっと、赤い夜に現れる凶暴な幽獣退治には、聖人が対処しなければならない理由があるのだ。
いくら精鋭とはいえ、騎士団だけでは無理があるに違いない。
(早く、行かなきゃ……!)
アヤカは、石畳の道を全力疾走した。今は、体が軽い。
聖人の力のおかげで、普通の人間の十倍は早く走れている気がする。
神殿に近づくにつれて、幽獣と人間の死体が増えていった。逃げ遅れた一般人は少ないが、戦って倒れたアインハルド騎士団の数は多い。第一騎士団や、第三騎士団も共に戦っているようだ。
神殿の入り口に、力尽きたグリモが落ちていた。その近くに、見知った顔を見つける。
「ダリウス!!」
倒れている少年は、アヤカが最初に共に訓練をした相手だった。
ダリウスはすでに、事切れている。
訓練の後、本当は弓の方が得意で接近戦は苦手なのだと教えてくれた。言葉の通り、ダリウスのいる周辺には、矢の刺さった幽獣がたくさん倒れている。彼は、頑張ったのだろう。
泣いている場合ではないというのに、目の奥が熱い。歯を食いしばって、アヤカは神殿の敷地内へ駆け込んだ。
中は、外以上に酷い状態だった。幽獣は、泉に近づくにつれて数を増していく。
まるで、泉に誘導されているように集まってきているのだ。
(ユスティンは無事だろうか)
ダリウスの姿が、アヤカの脳をよぎる。
(どうか、無事で……)
空を見上げると、複数のグリモが舞っていた。グリモに騎乗している第二騎士団は、鳥型の幽獣と戦い、地上に矢の雨を降らせている。
道中で襲いかかる幽獣をハンマーで殴り倒し、アヤカは先へと進んだ。
ふと、神殿に目を向けると、外壁の一部が剥がれて穴が空いていた。この分だと、中に幽獣が侵入しているかもしれない。
内部にいるのは、戦えない神官と腰抜け騎士団だけだ。
「……」
一瞬迷ったアヤカだが、仲間への加勢を優先することに決める。
そのまま、内部を確認することなく、泉へと走った。




