45:アヤカ、思わぬ人物に出会う
泉の周辺は幽獣の死骸で溢れていた。
周囲はもうすっかり夜なのだが、赤い月の光のせいで、夕暮れ時のように明るい。
血のせいか、月明かりのせいか……泉の水も赤く見える。
周囲の騎士達に加勢しつつ、アヤカは第二騎士団の仲間を探した。
「アヤカ!!」
ハンマーを振り回していると、ひときわ野太い声が聞こえてきた。
「副団長!!」
グリモに乗り、大剣を背負ったマルクが下降してくる。
「怪我は大丈夫なのか!? 団長が連れ帰った時は死にかけていたと聞いたが!?」
「もう平気、聖人の力も戻った」
「くそっ、神殿の奴ら……許せねえ」
ブラック職場の副団長にも、人の心はあったらしい。アヤカがされた仕打ちに対して、彼は神殿に激しい怒りを感じているようだ。
「ユスティンは、どこにいるの?」
「団長は、上だ。グリモで鳥型と交戦中」
鳥型相手の戦闘は、どうしても地上にいる側が不利となる。だから、グリモに乗った第二騎士団が活躍するのだ。
「そっか……なら、私は泉の周りで騎士達を手助けするよ」
アヤカの武器は空中戦に向かない。
騎士としての経験が浅いアヤカは、他の騎士に操縦してもらわなければグリモに乗れないのだ。
ハンマーを振り回すと、同乗している騎士に当たり、吹き飛ばしてしまう恐れがある。
「わかった。アヤカが来たことは、団長に伝えておく。無理はするなよ?」
「はい!」
アヤカはハンマーを振りかぶると、幽獣の群れへと突っ込んでいった。
聖人が加勢することで、戦況は大きく変わる。
軽くスタンプを押すがごとく幽獣にハンマーを叩きつけ、一撃で戦闘不能に追いやっていくアヤカの戦力は、一般的なレベルの騎士百人以上の働きに匹敵していた。
形勢不利だった騎士達も、徐々に勢力を盛り返していく。
「聖人のサポートに回るぞ!! 泉の周囲に集まれ!!」
一人の若い騎士が声を張り上げた。第二騎士団ではない……第一か第三騎士団らしき人物だ。
アヤカとしても、ばらばらに点在されるよりも、騎士達にまとまってもらったほうが、巻き添えの心配をすることなくハンマーを振り回せて都合がいい。
「……助かるよ」
騎士にそう告げると、彼はニッと目を細めた。
「こちらこそ、聖人が加勢してくれたおかげで助かっている。それに、あんたには、弟がいつも世話になっているからな」
そう告げた彼は、銀髪おかっぱの美青年だった。
(ブリギッタ二号!! たしか、第一騎士団にお兄さんがいるとか言っていたな……)
彼が、その兄なのだろう。見れば見るほど、そっくりだ。
ブリギッタの兄の指揮のもと、泉の南側に騎士達が集結する。
「まだ大物の幽獣は出ていないが、今日は赤い夜……必ず出現するはずだ」
大物と聞いて、アヤカは気を引き締めた。
(アドルフの言っていたような強大な幽獣が出る……)
ハンマーを構え直し、周囲を警戒する。近くの幽獣の群れは、あらかた退治し終えていた。
空を見上げても、鳥型が追加で現れることはない。
だが、夜明けまでまだ時間があった。




