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46:大神官、逃走する

 ウモウジールは、数人の部下と神殿の地下へ続く階段を降りていた。


「くっ……まさか、こんな結果に終わるとは」


 苦言を呈しながら、足早に地下へと急ぐ。

 非常に不本意な事態が連続して起こったので、今の大神官には余裕がなかった。


(聖人二人を確保した時は、天が我に味方をしたのだと思ったが……)


 その後、彼の予想を裏切る事態が続出したのである。

 まず、度々の夫候補の誘惑に、アヤカが一切なびかなかったこと。彼女は神殿を完全に敵視しており、こちらの言い分を一切聞こうとしなかった。

 仕方なく薬を使ったが、それが余計にアヤカの反感を買ってしまう。

 それでも、赤い夜以前に聖人に暴れられるわけにはいかなかったので、ウモウジールは薬を継続的に使用した。シュウジにも同様に薬を使ったのも、また暴れられてはかなわないからだ。

 聖人は、神殿側に置いておいたほうが都合良かったのもある。


 そうして、赤い夜に備え、数日前から神官に命じて薬の量を調整していた。そのはずだった。

 しかし、聖人を恐れた神官達や、野心家の一部の神殿騎士達は、敢えて薬の量の調整を怠ったのである。

 曰く、聖人が幽獣を倒した後で捕獲しやすくするためだとか。

 確かに、一度聖人の力を解放してしまえば、次に手元に置くことは困難だ。聖人との仲が上手くいっていないのなら尚更である。

 きっと、あの二人は神殿には戻らずに逃走するだろう。そんなことを許せば、聖人自体が、幽獣に次ぐ新たな驚異となってしまう。そうなれば、聖人の子孫が管理している神殿の評判は地に落ちるだろう。

 だから、ウモウジールは、迷った末に彼らの行為を黙認した。彼も、一度暴れたシュウジの力を目にして、聖人に恐れを抱いていたのだ。だが、それがいけなかった。

 結果、聖人は、本来の力の半分も出せない状態で赤い夜を迎えることになったのだ。

 あれだけシュウジを根性無しだと揶揄していた神殿騎士団は、臆病風に吹かれて聖人の枷を解かないまま逃走。残された聖人は、枷を破壊する力すらない様子だった。

 正直、聖人なら多少力を削がれても、幽獣と渡り合えるものだと思っていた。しかも、今回の聖人は二人だ。なんとかなると踏んでいたが……

 きっと、二人とも、あの場で命を落としたことだろう。大失態である。


(まだ、大丈夫だ。赤い夜が明ければ、またチャンスも巡ってくる。神殿の不手際を突かれないよう、上手く言い訳を考えれば……神殿の、私の権威は揺るがないはずだ)


 ウモウジールは、足を進めながら今後の対策を考える。


(心配ない。こちらには、聖人の子を宿した女がいるのだから……どうとでも、言い訳できるはずだ。今までのように)


 地上の出口が近づいてきた。

 この神殿の地下は、隣町にある別の神殿へと繋がっているのだ。

 さらに、この神殿には、元物置として使われていた巨大な地下室があり、今は大量の水と食料が用意された避難場所となっている。

 赤い夜が明けるまで、ここに身を潜めていれば、ウモウジール達は助かるのだ。

 地上につながる扉を開き、外へと這い出る。

 しかし、地上に出た瞬間、ウモウジールに声がかけられた。


「はーい。待っていたわよ、大神官サマ?」


 そこには、王族の紋章が入った鎧を着ている兵士達と、メイド服を着て悪そうな笑みを浮かべる謎の美少女が、地上への出口を取り囲むようにして立っていた。


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