26:アヤカ、少しだけ弟を心配する
「……アヤカ。賄いの時間には、まだ早いと思うのですが?」
むくりと起き上がるユスティン。気だるげに髪をかきあげ、妙な色気を漂わせる彼に、ブリギッタが詰め寄って言った。
「団長、アヤカのこと、やっぱり何かわかっていて雇ったの? この子、聖人の姉だっていうじゃない」
「……いきなり、なんの話ですか?」
「だから、アヤカは、異世界から来た聖人の姉なんですって。私も、今さっき聞いたんだけど」
ブリギッタの説明を聞いたユスティンは、まじまじとアヤカの方を見た。
「だって、今まで別に何も聞かれなかったし。私自身は、聖人じゃないし」
「そう言えば、アヤカは外国から来たと言っていましたね。この国のことも、神殿関連のことも何も知らないようでしたし……」
ユスティンは、あまり驚いていないようだった。
「なんとなく、アヤカの怪我がすぐに完治した時から、そんな気がしていました。ですが、アヤカが聖人の姉だとすると……神殿側が、どうしてアヤカを保護しなかったのか疑問ですね」
「ああ、追い出されたんだよ。ウモージーとかいう嫌味な男にさ」
「ウモージー? 大神官ウモウジール様のことでしょうか?」
「そう、そんな名前のやつ! そいつが、私は聖人に害をなす存在だとか言って神殿から追い出したんだ」
この世界に来た日のことを思い出したアヤカは、ウモウジールの心無い対応を思い出して腹を立てた。
だが、アヤカの言葉を聞いたユスティンの顔は、逆にキラキラと輝き始める。
「そうなんですか。神殿側は、自らアヤカを手放したということですね!」
「ユスティン……なんで、そんなに嬉しそうなの?」
「実は、聖人かもしれないアヤカを騎士団にとどめておくことについて、神殿に相談しようかどうか迷っていました。仮に、神殿側がアヤカをよこせと言ってきたなら、貴重な戦力であるあなたを差し出さなければなりませんから……ですが、大神官が自ら手放した人材であるというのなら、話は別です」
「心配しなくていいよ。ウモージーが、私に神殿に戻って来いと言うことなんてないし。あったとしても、お断りだし……神殿が元の世界への戻り方を知っているのなら、聞きに行きたいけど」
騎士団として働いてはいるものの、アヤカの目的は元の世界に帰ることである。
聖人だろうが、そうでなかろうが、関係ない。
「残念ながら……過去に聖人が元の世界へ帰還したという話は残っていません。皆、幽獣との戦いに敗れているか、勝利してもこの世界に留まって結婚しています。聖人の家系の者が、代々大神官になると言われています」
「そっか……でも、その話だとウモージーは?」
「いつの時代か知りませんが。一応、聖人の子孫なんでしょうね……聖人は、代々男性でしたし、複数の妻を持っていたと言いますから。残念ながら、聖人の力は子孫に継承されませんけど」
アヤカは、シュウジを神殿の奥へと連れて行った美女達のことを思い出した。
(もしや、あれが妻なのか!?)
母以外の女性に免疫のない弟のことが、少しだけ心配になったアヤカだった。




