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27:大神官、双子聖人に悩まされる

 大神官ウモウジールは、ここ最近立て続けに起こった出来事に頭を悩ませていた。

 一つ目は、彼の保護している聖人のことだ。

 百年ごとに、異世界から訪れる聖人という存在。彼らは、いずれも同じ平成という時代の日本から来ているという。こちらの世界と向こうとでは、流れる時間に差異があるのだ。現れる聖人の年齢は十代前半から三十代後半まで様々だが、性別は男性で、こちらへ来た当初は聖人の役目を肯定的に捉えているという部分は共通していた。だが、その後の行動に差が生じる。


(今回の聖人は、ハズレかもしれないな)


 シュウジ・スズキという少年は、今までの聖人の例に違わず、この世界に肯定的で新しい環境に馴染むのが早かった。

 神殿側が与えた妻候補達とも仲良くやっているし、高圧的は態度ではあるものの、反抗的な様子は見られない。実の都合の良い人材だった……と、思っていた。

 彼に幽獣を見せるまでは。


 過去、「赤い夜」に初めて幽獣を見ただけで、怯えて使いものにならなくなった聖人がいたという。その時の反省もあり、神殿では「赤い夜」の前に聖人に幽獣についての知識を授けるようにしている。

 シュウジにも、先日街で捕らえた小型の幽獣を見せた。

 彼に見せた幽獣は、力の弱い種類で、アインハルド騎士団から譲り受けたものである。厳重に鎖を巻きつけて身動きが取れない幽獣の前に、武装させた聖人を連れて来て、とどめをさしてもらう。そんな、簡単な行事のはずだった。

 しかし、幽獣を目にしたシュウジが、怯えて逃げ出してしまったのである。予想外の出来事だった。

 そして、逃げ出した後から、彼は聖人の役目を拒絶し始めたのだ。部屋に引きこもって、妻候補以外の人間とは会おうとしない。


 二つ目は、彼の姉だと主張していたアヤカ・スズキの件だ。再び聖人に会いに来ないか念のために部下に見張らせていたのだが、どういうわけか、彼女はアインハルド騎士団で働いていた。

 そして、放った部下からの連絡を受けて、ウモウジールは驚愕した。街へ出ていたアヤカが、一人で幽獣を撃退したというのだ。

 さらに、先日、隣町の神殿で起こった幽獣事件でも、アヤカは活躍したらしい。


「まさか……」


 ウモウジールは、シュウジが当初落ちたという聖なる泉へ向かった。澄んだ泉の中へ入り、底に目をこらす。

 シュウジが聖人だというのは、神殿で検証したので間違いない。彼は臆病だが、常人よりもはるかに強い力を持っている。


(だとすると、もう一つの可能性は……)


 しばらくそうしていると、泉の底にキラリと光るものが落ちているのに気がついた。


「やはり……」


 それは、卵型の金色の紋章――聖人の証だった。


「こんなことが、あるなんて」


 歴代の聖人は、同じ時代に一人だけしか現れなかった。二人以上が同時に泉へ落ちてきたとしても、聖人は一人だけだ。しかも、聖人は全員男である。

 同時期に二人の聖人が現れ、しかも片方が女だなんて前例がなかった。彼女が、シュウジと双子であることが関係しているのかもしれない。


「早急に、アヤカ・スズキを呼び戻さねば……!」


 なんにせよ、シュウジが使えない今、幽獣を退治した実績のあるアヤカがいることは、ウモウジールにとって救いと言えた。

 すぐに、部下を走らせ、アインハルド騎士団へと向かわせる。

 しかし――

 アインハルド騎士団から帰ってきた答えは、神殿の要望を拒否するものだった。


 騎士団側は、神殿に捨てられて途方に暮れていたアヤカを拾ったのは、我々だと主張している。

 しかも、アヤカ自身が神殿に行くことを拒絶していた。ウモウジールは、アヤカに対する初手を完全に間違えたのだ。

 だが、このまま彼女をアインハルド騎士団へ残しておく気はなかった。


「無理にでも、連れ帰るしかないですね。今回は、百年前のような失態を起こすわけにはいかない」


 ウモウジールは、眉間を押さえながらそう呻いた。

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