24:アヤカ、猿軍団と対戦する
「うわあ、最悪」
今は、ユスティンもブリギッタも、神官長室へ出向いており、近くにはいない。かといって、悲鳴をあげて、無力な神官達を外に呼び出すわけにもいかない。
アヤカ自身が、幽獣を退治するしか道は残されていなかった。木剣を構えて、人間ほどの大きさのある猿達を威嚇する。
猿型の幽獣は、赤い目を向け、長い牙をむき出しにして、ランタンの明かりに誘い出された馬鹿な獲物を嘲笑っていた。
大きく跳躍し、アヤカめがけて鋭い爪を振り下ろす。
しかし、アヤカは持ち前の動体視力を駆使して敵の攻撃を避けた。
「頭は多少良いのかもしれないけれど、動きは鳥よりも遅い」
アヤカは猿の脳天めがけて木剣を振り下ろす。
ぐしゃりと猿の頭が潰れ、持っていた木剣は折れてしまった。また、副団長のマルクに折れた木剣代を請求されてしまう。
真っ二つになった木剣を回収していると、ガサガサと複数の物音が聞こえた。嫌な予感がする。
そして、アヤカの予想は的中した。
倒れた猿の向こうから、新手の一匹が現れたのだ。それだけではない、アヤカの後ろからも二匹の猿が歩いてくる。屋根の上にも二匹いる。
どうやら、この神殿は、猿達の楽園と化していたようだ。
折れた木剣を両手に持ち、アヤカは猿を警戒した。折れた武器で五匹を同時に相手するのは、さすがに厳しい。
(これで、猿は全部なのかな?)
突進してきた前の一匹を避け、屋根の上から飛びかかってくる二匹も躱す。躱すついでに、一匹の足を折れた木剣で殴りつけた。
跳躍してきた後ろの二匹の爪を逃れ、再び牙を向いた一匹の顔面に木剣を叩きつけると、今度は木剣が粉砕してしまった。
顔面を攻撃された猿は、その場に崩れ落ち、足を負傷した猿は鈍い動きになっている。
だが、アヤカの手に残された武器は、折れた木剣の一部分……柄だけである。これが潰れれば、まったくの丸腰となってしまう。
近くには、石も木の枝も落ちていない。
猿達にもそれがわかっているのか、じりじりとアヤカに迫ってきている。無傷の猿は三匹だ。
「やばい、かも……」
残りの三匹でもヤバイ状態なのに、屋根の上にまた新たに二匹の猿が座っている。一体、何匹の猿が神殿に巣食っているのか。
(素手で猿を殴ったら、どうなるんだろう。痛いのかな)
効果のほどはわからないが、木剣を叩きつけるより威力が落ちてしまうのは確実だ。
アヤカは壁際に駆け寄ると、近くにあった部屋の扉を外した。鍵がかかっていたので、中に入るには扉を壊すしかなかったのだ。
この部屋は、あまり使われていない倉庫のようで、中に人はいない。また、渡り廊下側にしか扉と窓がないため、頭上や背後からの猿の奇襲を避けられる。外した扉を武器代わりに抱えたまま、アヤカは倉庫の中へ入り込んだ。
ランタンの明かりが届かない室内のはずなのに、なぜかアヤカの目には中の様子がくっきりと見えた。
アヤカを追って中に入り込もうとした一匹に、扉を叩きつける。猿は潰れ、扉はまたしても半分に割れてしまった。
潰れた猿におびえたのだろうか、続いて猿達が倉庫に入って来る様子はない。
「助けてー!」
不意に、外で女性の声がした。
「助けてー、殺されるー!」
その声は、近い。倉庫のすぐ外だ。
扉を抱えたまま、アヤカは入り口へと近づく。だが、なんだか嫌な予感がした。理由はわからないが、アヤカの中のなにかが警笛を鳴らしているのだ。
一度引き返し、倉庫の中にあった人型の石像を扉の外へと押し出してみる。すると、石像に向けて、一斉に猿達が飛びかかってきた。
扉から、外を見るが、女性の姿はどこにも見当たらない。
(あの猿、声真似ができるの?)
今度は、倉庫の中にあった金属製の礼拝用のロウソク立てを手にする。ロウソクを立てる部分が、鋭い針となっているこの武器は、役に立ちそうだ。
アヤカは、それを石像に飛びかかっていた猿めがけてぶん投げた。
まっすぐに飛んだロウソク立ては、近くにいた一匹の首に深々と突き刺さる。
(残り、三匹。これ以上、猿が増えていなければだけれど……)
石像から離れた猿達は、再び人間の声真似を始めた。
「助けてー、助けてー!」
もう一体石像を外へ押し出してみたが、猿達も学習したようで、それに飛びかかることはなかった。
じりじりと、時間だけが過ぎていく。
しばらくすると、今度は大きな羽音が聞こえてきた。
(鳥型も現れたの!? 勘弁してよ!!)
しかし、鳥型が地面に降りてくる気配はなく、外から猿の悲鳴が聞こえてくる。
「ギャッ! ギャッ!」
騒いでいた猿達だが、次第に静かになっていく。アヤカは、そっと窓を開けて外の様子を伺った。
地面にたくさんの猿が倒れている。猿達の背には、キラリと銀色に光る矢が刺さっていた。
「アヤカ!? いますか、アヤカ!?」
突然名を呼ばれ、アヤカはドキリとした。今度は、怪しげな女性の声ではなく、知り合いの声だ。
三体目の石像を外に押し出してみたが、猿が襲ってくる気配はない。ドアの破片を抱えて、おそるおそる倉庫の外に出る。
そこに、生きている猿は一匹もいなかった。




