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13:アヤカ、グルメ騎士の正体を知る

<前回までの簡単なあらすじ>

 双子の弟と共に異世界に落ちたアヤカ。落ちた先は神殿で、弟は世界を救う「聖人」だという。

「聖人」に害をなす存在として一人神殿を追い出されたアヤカは、今後の生活資金を得るためにアインハルド騎士団宿舎職員の面接を受けて採用される。しかし、そこは悪習のはびこるブラック職場だった。

 ある日、貴重な半日休暇をもらって街へ出かけたアヤカは、そこで鳥の形をした化け物に襲われる。必死の抵抗で鳥を倒したアヤカだが、瀕死の重傷を負ってその場に倒れてしまった。

 アヤカは、見覚えのない場所で目を覚ました。

 そこは古びたドーム状の部屋で、中には固そうな寝台が数個並べられている。


(街じゃない……)


 起き上がろうとしたアヤカだが、体に力を入れると同時に脇腹に激痛が走った。

 視線を移すと、痛む箇所には血の滲んだ包帯が巻かれている。作業着は見当たらず、アヤカは白い寝間着に着替えさせられていた。寝間着の前部分は開いており、いろいろと丸見えだ。

 とりあえず、アヤカは寝間着のボタンを閉めた。見知らぬ場所で、裸で動き回るような趣味はない。

 傷に障らないようにゆっくりと体を起こし、おそるおそる床に着地する。

 部屋から出ようとドアノブに手をかけたところ、反対側から勢いよく扉を開かれた。


「……っ!?」


 アヤカは、驚いてドアノブから手を離す。

 扉の向こうに立っていたのは、白衣を着た赤髪の少年だった。


「お前、まだ寝てなきゃダメじゃねえか!」

「えっ……?」


 戸惑うアヤカの肩を強引に掴んだ彼は、同年代に見える。

 少年は、強制的にアヤカを寝台へと連行した。


「ったく、死にかけていたくせに。入院期間が延びても知らねえぞ!?」

「入院!? ここって、病院なの!?」

「……第四騎士団の医務室だ。幽獣に襲われて死にそうになっていたところを拾った。どうやら、うちの騎士団の関係者みたいだったからな」


(そういえば、騎士団の作業着を着て出かけていたんだった……)


 アヤカは、少年に礼を言うと、再び寝台から出ようとした。


「おい、てめえは人の話を聞け!」

「私がここに来てから、どれくらい経った!? 職場の人が心配しているかも……」

「大丈夫だ。まだ一日しか経っていないし、お前の職場には連絡してある。そういえば、第二騎士団の副団長から伝言を預かっているんだった」

「伝言……!?」

「今回は運が悪かったな、できるだけ早く復帰してくれ。尚、今回のことは業務時間外の出来事のため、労災はおりない……とのことだ」


 何よりも早く労災がおりない旨を連絡してくるあたりが、ブラック職場らしい。

 当然、休んでいる間は無給だろう。


(入院した瞬間、クビだと言われるかと思ったけれど……)


 人手不足の方が深刻だったようだ。

 とりあえず、追い出されずに済んだことにホッとする。


「それより、街にいた人間が妙なことを口走っていたんだが……」

「妙なことって?」

「お前が、丸腰で幽獣を退治したとか……聖人が現れたとか」


 確かに、アヤカは自分が鳥を退治したことを覚えている。

 しかし、それよりも気になるのは……


「聖人?」

「ああ、よりにもよって聖人ときた。街の奴らも希望を持ちたいのだろうが、いくらなんでも無理があるだろう」

「あの、聖人って、神殿の……?」


 アヤカは、双子の弟であるシュウジのことを思い出した。


「ああ、そうだ。今の聖人は、すでに神殿に保護されていて外には出ない。街の人間だって、それはわかっているはずなのにな」

「……私、外国から来たからよく知らないんだけど。聖人って一体なんなの?」


 少年は、アヤカの言葉に驚いた様子で片眉を上げる。


「聖人を知らないだと!? どんな田舎から出てきたんだ……聖人っていうのは、百年に一度異世界から現れる天の使いみたいなもんだ。幽獣から人々を守り、人類の破滅を食い止めてくれる」


(あの、シュウジが!? 天の使い!?)


 弟のようなヘタレに、鳥の化け物を退治するなんて不可能だ。


「数ヶ月後に『赤い夜』っていう日が来るんだが……百年に一度訪れるその日には、普通の人間では太刀打ちできないような、凶悪な幽獣が生まれるんだ。それも、なぜか聖人が現れた土地のすぐ近くに」


 少年の説明に、アヤカはギョッとした。

 数ヶ月後には、この地に凶悪な幽獣があらわれるということだ。


「聖人は、そんな幽獣に太刀打ちできる唯一の存在だ。とはいっても、百年前は失敗したらしく、人類は二分の一まで数を減らしたらしいんだが……」


(ダメじゃん!! 普通の聖人でも失敗するのに、シュウジなんて絶対無理だよ!)


「神殿以外の騎士団は、聖人に頼り切っていた百年前の反省から生まれたんだ。もし、『赤い夜』に聖人が任務に失敗した場合でも人々を守れるようにと……」

「あのさ。もしかして、聖人がその幽獣を呼び寄せているんじゃないの……? だとすれば、聖人が元の世界に戻れば解決するよね?」

「三百年前に聖人が現れなかった事例があるが、その時も凶悪な幽獣は現れて、人口は三分の二に減ったそうだ」


 少年の説明に、アヤカは片眉を上げた。


「三百年前に失敗、二百年前にはなんとか成功、百年前にはまた失敗……神殿側は、聖人に関する出来事は自分たち管轄だと思っている節がある。今回は、名誉を回復しようと躍起になっているだろう」

「……ずいぶん、詳しいね」

「ああ、俺は元々神殿で働いていたからな」

「そうなの!?」


 ならば、なぜ待遇の良さそうな神殿をやめて、この騎士団で働くことにしたのだろうか。

 アヤカが、そのことを尋ねるために口を開きかけた瞬間、第三者の声が会話に割り込んだ。


「彼は、神殿の神官だったんですよ。でも、お祈りばかりの無益な日々に嫌気がさして、こちらへ転職したんです」


 驚いたアヤカが声のした方へ視線を向けると、そこにはなぜか場違いな人物が立っていた。


「……ユスティン? どうしてここに?」


 彼と会うのは、初対面の時を除けば全て食堂内だった。

 アヤカの中での彼の位置付けは、「朝寝坊グルメ騎士」である。


「あなたの様子を見に来たのです。別に、おかしくはないでしょう?」

「……えっと、でも」


 職員の見舞いに、食堂で会うだけ騎士が真っ先に駆けつけてくれるという事態に、違和感を感じてしまう。


「第二騎士団の団長として、怪我をした職員の心配をするのは当然のことですから」

「えっ……!?」


 にこにこと笑うユスティンに、アヤカはあんぐりと口を開けた。


「ユスティンって、第二騎士団の団長だったのぉ!?」

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