第6話【意味が分かると怖い】最後の仕事【怖いショート】
「俺もAIに置き換えだって……じゃあな」
同僚は机の引き出しを空にして、小さな鉢植えを段ボール箱に入れた。
「えっ、お前まで……」
俺の隣、その隣、窓際の席。いつも誰かの飲みかけのコーヒーが置いてあった机が、毎日一つずつきれいになっていく。
そのたびに新しい画面が点いた。
*
月が変わるころ、フロアに残った人間は俺一人になっていた。
返事を待っていたメールは、俺が開く前に処理される。何度もやり直していた資料も、少し目を離すと完成していた。
退職の通知だけは、いつまでたっても来ない。
「俺だけ残った……!」
誰もいない通路で、思わず両手を握った。
「AIにはできない仕事ってことだ!」
ようやく、上の人にも分かってもらえたんだ。数字に出ない仕事だって、俺はずっとやってきた。
その日の午後、社長室に呼ばれた。
社長はいつもより柔らかい顔で、机の上の辞令をこちらへ向けた。
「君には、AIには絶対にできない大事な仕事を任せたい」
「はい! 何でもやります!」
受け取った紙を折らないように、両手で持った。
*
会場に入ると、正面が真っ白になるほどフラッシュが光った。
机の上には、水の入ったグラスと、俺の席を示す名札が一つ。
「責任者」
―― おわり ――
この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。
【解説】
「AIにはできない仕事」と聞くと、発想力や人柄を買われたんだろう、と考えますよね。彼もそう受け止めています。退職の通知が来ないことが、能力を認められた証拠に思えたのでしょう。
でも、最後に任されたのは、AIが起こした重大ミスについて、人前で頭を下げる役でした。
机の上の名札は「責任者」。彼が残されたのは、会社に必要な判断や作業を任せるためではなく、失敗したときに表へ出す人間が一人必要だったから、と読めます。
ここでの「AIにはできない」は、技術的にお辞儀ができるかどうか、という話ではありません。この会社が欲しかったのは、世間の非難を受け止める人間の顔です。社長はその役を、自分ではなく彼に渡したわけです。
最初に会社を去った同僚たちは、仕事を失った人に見えました。それなのに最後まで残った彼は、自分が関わったとも書かれていないミスの「責任者」にされている。
そう考えると、「はい! 何でもやります!」も切なく聞こえてきませんか。守られたと思って喜んだ瞬間に、彼は会社が責任を押しつけるための席を、自分から引き受けてしまったのです。




