第4話【意味が分かると怖い】また会える【怖いショート】
十二時になる少し前に、お茶を淹れる。
湯のみをテーブルに置くと、ちょうどタブレットが鳴った。
「母さん、元気?」
息子の顔を見て、母は口元を緩めた。ニューヨークに行く前より、少し顔色がよくなった気がする。
「昨日は同僚とバーベキューしてきたよ」
画面の向こうで、誰かが手を振っている。息子の後ろには、よく晴れた空が広がっていた。
「楽しそうね。ちゃんと食べてる?」
「食べてるって。母さんこそ、昼ごはんは?」
*
翌日も、電話は十二時だった。
息子は昨日と違う服を着ていた。今日は白いパーカーに帽子。窓の大きな店にいるらしい。ストローの刺さったグラスを持ち上げて、こちらに見せる。
「今日は天気がよくてさ、ランチは外で食べたんだ」
「いいわねえ」
窓の外の木々が、日に照らされていた。
食べたものの話をして、近所の工事の話をして。それだけで、用意したお茶はぬるくなった。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。また明日」
通話を終えても、母はしばらくタブレットを立てたままにしていた。
やがて湯のみを持ち直し、仏壇に置かれた夫の写真に笑いかける。
「あの子、忙しいのに毎日お昼にかけてくれて……」
*
そのころ、娘はスマホに届いた通知を開いていた。
故人再現AI『また会える』
ご契約者:妹
再現対象:兄(享年34)
月額更新:完了
―― おわり ――
この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。
【解説】
お母さんにとっては、離れて暮らす息子との、いつものお昼の電話です。服も話す内容も毎日違う。返事も自然なので、元気でやっているんだな、と安心してしまいますよね。
でも、日本で正午なら、ニューヨークは前日の夜です。季節によって時差は変わりますが、毎回、画面の向こうに明るい青空が見えるのは、どこかおかしい。ここが最初の引っかかりです。
背景だけなら、録画や別の場所にいる可能性もあります。それを「亡くなった息子の再現だった」と明かすのが、最後の契約画面なんです。「享年34」と書かれている以上、お母さんが話していた相手は、生きてニューヨークで暮らす息子ではありません。
契約しているのは妹。母を悲しませないために、兄との会話を毎日続けさせている、と読めます。仏壇にある写真は父親だけで、お母さんはまだ息子が生きていると思っているのでしょう。
そうすると、通話の終わりの「また明日」も違って聞こえてきませんか。母にとっては息子との約束。でも、その明日をつないでいるのは、妹が払い続ける月額料金です。最後の「完了」は、母がもう一日、息子の死を知らずに過ごせる、という通知でもあるわけです。




