第30話【意味が分かると怖い】完全成功報酬制【怖いショート】
休日の居酒屋で、田村がスマホを差し出した。
画面には『天皇賞 勝利の会⑦』とある。
「予想グループに入ったんだよ。外れたら手数料ゼロ。当たったときだけ、払戻金の三割だって」
テレビには、パドックを歩く十八頭の馬が映っていた。
田村は、届いた本命に十万円を賭けた。
「外れたら運営もタダ働きだぞ。良心的だろ」
「馬券代は戻らないんだろ?」
「でも、当てなきゃ向こうも儲からないんだからさ」
やがて、テレビの中で馬群が直線に入った。
田村が立ち上がった。
「来た! 八十六万!」
隣の席で、男がスマホを伏せた。
「グループの本命、ビリじゃねえか。まあ、手数料はタダだけど」
一瞬見えたアイコンは、田村の画面と同じだった。
ただ、会の名前の末尾は⑭になっていた。
田村は二十五万八千円を振り込んだ。
すぐに返信が来た。
『的中おめでとうございます。次回の有馬記念では、VIPグループへご招待します』
一か月後、田村はまた同じ店でスマホを見せてきた。
「あそこは本物だぞ。お前も入れよ。紹介すると俺の手数料も安くなるんだ」
私は、自分の画面を隣に並べた。
私のグループ名は『天皇賞 勝利の会⑫』だった。
同じ日の、同じ時刻に届いた予想を指で示したが、田村はもう見ていなかった。
「だから次は、俺と同じグループに入りなって」
田村は笑って、招待のボタンを押した。
【解説】
同じ予想グループに見えても、田村の会は⑦、隣の客は⑭、語り手は⑫です。そして、同じレースについて、それぞれ違う馬を本命として教えられています。
ここから考えられるのは、運営が参加者を複数のグループに分け、グループごとに別の馬を勧めていた、という仕組みです。十八頭が出るレースなら、十八のグループに別々の一頭を割り当てておけば、通常、一着になった馬を勧めたグループが一つはできます。本文にある会名の番号と、異なる本命は、その手がかりです。
全員に同じ予想を送って当てたわけではありません。当たった側にいる田村には「この運営は本当に当てられる」という経験だけが残り、外れた人たちは、手数料が無料だったことで不満を引っ込めています。
運営は、外れた馬券代を負担していません。予想が外れても田村たちのように賭け金を失うことはなく、当たったグループからだけ手数料を受け取れます。田村が振り込んだ二十五万八千円は、払戻金八十六万円の三割です。「当てなきゃ向こうも儲からない」という安心の根拠は、全員に同じ本命を教えている場合にしか通用しません。
最後の田村は、違う予想が届いていたと聞いても、仕組みを疑わず「当たった自分のグループなら大丈夫」と受け止めます。成功したという実感と紹介割引によって、仕組みを知らない参加者自身が次の客を連れてくる側になる。その連鎖が、この話の怖さです。
この物語の人物・団体・予想サービスは創作です。




