第28話【意味が分かると怖い】撮られる奴は撮られてもいい奴だけ【怖いショート】
朝から満員の通勤電車で、中野はXを見ていた。
『迷子の子に声をかけたら、母親に不審者扱いされて通報された』
十二万のいいねが付いていた。
返信には、『男は関わらないのが正解』『今の時代、子どもに近づくだけでアウト』と並んでいる。
「……だよな」
駅を出ると、雨が降っていた。
バス停のベンチで、小さな女の子が泣いていた。ピンクの傘を抱え、何度も同じ言葉を繰り返している。
「ママぁ……」
中野は足を止めた。
スマホに一一〇と入力する。発信のボタンへ指を伸ばしたとき、道の反対側の女性と目が合った。
女性はスマホを縦に構えていた。
背面のレンズが、こちらを向いているように見えた。
撮られている・・・のか?
そう思うと、さっき読んだ投稿が頭に浮かんだ。
中野は、発信せずに画面を消した。
制服姿の二人組が、女の子をちらりと見て通り過ぎていく。
「誰かが通報するだろ」
自分も歩き出した。
帰りに、同じバス停の前を通った。
ベンチには誰もいなかった。
「ちゃんと誰かが送っていったんだな」
中野は、ようやく息をついた。
その日の夜、駅前に『情報提供のお願い』が貼り出された。
【解説】
中野が確認したのは、帰りにはベンチに誰もいなかった、ということだけです。それを「誰かが助けた」と受け取り、安心しました。しかし、最後の情報提供を求める掲示によって、女の子は無事に帰れず、今も捜されているのではないか、という疑いが生まれます。
手がかりは、「誰かが通報するだろ」と「ちゃんと誰かが送っていったんだな」という二つの言葉です。中野は、通報した人も、女の子を送った人も見ていません。どちらも、自分以外の誰かが行動したはずだ、という期待でした。
女性が本当に中野を撮影していたのかも、本文では確定していません。レンズが自分に向いている「ように見えた」ことから、中野はSNSで読んだ不審者扱いの話を思い出し、発信するのをやめています。
撮られているかもしれないという恐れが、助けようとした行動を止めました。周囲の大人も同じように誰かへ任せていたなら、人通りがあっても、女の子は一人のままです。
「誰かが送っていった」という言葉には、安全な場所へ送り届けられた場合だけでなく、見知らぬ相手に連れ去られた可能性も含まれます。中野が安心して立ち去った後に掲示が出ることで、その言葉の怖さが残ります。
この物語の人物・SNS投稿・事件は創作です。




