第27話【意味が分かると怖い】出没注意【怖いショート】
「また竹林のところで目撃だって。今月五件目よ」
町内会の掲示板に、黄色い紙が増えていた。
『クマ出没注意』。その隣には、出没マップを開くためのQRコードが貼ってある。
「怖いわねえ。今年は筍掘り、やめとこうかしら」
回覧板を抱えた男は、まだ柔らかい春の日差しの中で、竹林の方を見た。
毎年、近所の何人かで入る場所だった。
その午後、竹林の入り口で猟友会の二人を見かけた。
年配の男が、落ち葉を指先でよけている。
「足跡もフンもねえ。クマが通った跡が、まるでねえんだ」
「でも、通報は毎晩来てるんですよ。同じこの竹林で」
二人の背後に、大塚の家が見えた。
裏庭と竹林の間には、低い柵があるだけだった。
回覧板を届けると、大塚はいつものように笑って出てきた。
「奥さん最近見ないけど、お元気?」
「実家のお義母さんの介護で、しばらく向こうなんですよ」
「そう。帰ってきたら、よろしくお伝えください」
大塚は回覧板を受け取って、頭を下げた。
その夜、再度、町のスピーカーが鳴った。
『竹林付近で、クマの目撃情報がありました。近づかないでください』
出没マップの赤い印は五つになっていた。
もう、竹林には入れないな、と男は思った。
【解説】
クマの目撃情報は、竹林に人を近づけないための嘘だったのではないか、という話です。
手がかりは、クマの足跡やフンが見つからないのに、同じ場所への通報だけが繰り返されていること。その竹林に接する家の妻が、最近姿を見せていないことです。妻が実家にいるという説明も、大塚本人の言葉でしかありません。
これらをつなぐと、大塚が妻を竹林に埋め、発見を避けるために目撃情報を流している、という裏側が考えられます。「介護でしばらく向こうにいる」という話は、妻を見かけない理由にもなっています。
季節が春なのも手がかりです。筍掘りに来る人は、竹林を歩くだけでなく、地面を掘ります。隠したものがある大塚にとって、人が入ることは発見の危険につながります。
最後に男が「竹林には入れない」と思うことで、嘘の通報が狙いどおりに人を遠ざけている、と読めます。住民が注意喚起に従うほど、大塚の秘密が守られてしまうのです。
この物語の人物・地域・出没情報は創作です。




