第24話【意味が分かると怖い】出身地当てますアプリができた理由【怖いショート】
「新しい住所は、ご家族にも絶対に教えないでくださいね」
支援員さんは、私の目を見て言った。
机の上に置かれたパンフレットには、「DV被害者支援」と書いてある。
「はい。あの人には、もう二度と……」
続きは言えなかった。
両手を組み直すと、指先が冷たかった。
ここから先のことは、誰にも話さない。
新しい部屋も、そこで暮らす私のことも。
支援員さんが、ゆっくりうなずいた。
*
数か月が過ぎた。
小さなアパートにも、ようやく自分のにおいがついてきた。
帰り道に寄る店ができた。
窓を開けたときの音にも、慣れてきた。
スマホを見ていたら、明るいピンクの投稿が流れてきた。
『#出身地当てます』
『2択に答えるだけ!』
日本地図に、星と花が散っている。
みんなが自分の結果を貼りつけて、「当たった」「そこじゃない」と笑っていた。
出身地くらいなら、大丈夫だよね。
このアカウントには、本名も顔写真も載せていない。
プロフィールもイラストにしてある。
私は、投稿のリンクを押した。
*
『最寄り駅まで、徒歩10分以内? それ以上?』
いつもの道を思い浮かべる。
信号に引っかからなければ、そんなにかからない。
「はい」を押した。
『家から見えるのは、川? 山?』
窓の向こうに、川沿いの道がある。
「川」。
『近所のスーパーは、○○? △△?』
この二つ、ちゃんと選べるようになっているんだ。
昨日も寄った店を押す。
『今住んでるのは、2階以上? 1階?』
「2階以上」。
指を動かすたびに、青いボタンがぱっと光る。
どれも、答えに困るような質問ではなかった。
住所を書く欄も、名前を入れる欄もない。
最後のボタンを押すと、画面いっぱいに紙吹雪が舞った。
*
『あなたは純度100%の○○市△△町民です!』
「すごい、当たってる!」
見慣れた町の名前に、思わず声が出た。
結果の下には、ピンクの「シェアする」ボタンがある。
私も、みんなと同じように貼りつけた。
『#出身地当てます 当たった!』
送信してすぐ、ハートに数字が付いた。
一件。
通知を開くと、初期設定の灰色の人影が一つ表示された。
見覚えのないアカウントだった。
同じ町の人なのかな。
この町では、まだ知り合いも少ない。
たった一件の反応が、少しうれしかった。
―― おわり ――
この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。
【解説】
最初に、美咲は新しい住所を家族にも教えないように言われています。
彼女が隠していたのは、過去の出身地ではなく、逃げた先の「今の居場所」です。
ところが、アプリが尋ねていることを見直してみてください。
駅までの距離、家から見える景色、近所の店、今住んでいる階。
美咲は出身地を当てる遊びのつもりで、現在の暮らしについて答えています。
美咲が楽しく選んだ回答は、彼女の居場所を探すための情報になっていました。
美咲は、住所を直接入力していません。
本名も顔写真も出していないので、安心していました。
けれど、住所を書かなかったことと、居場所につながる話をしなかったことは、同じではありませんでした。
シェアした直後の、初期アイコンからの「いいね」も気になるところです。
知らない町の誰かから届いた親しみのように見えた一件が、彼女を見つけた相手の反応だった、と読み取れます。
「新しい住所を教えない」という約束を、美咲は守っているつもりでしたが、その住所に近づくための質問には、自分から一つずつ答えていたのです。
登場する人物・アプリ・出来事は創作です。




