第20話【意味が分かると怖い】少子化【怖いショート】
喫茶店の奥のテーブルは、今日も孫の話でにぎわっていた。
「うちの孫、もう歩くのよ〜」
隣に座る友人が、スマホをこちらへ向けた。
花柄の服を着た子が、少し首をかしげて笑っている。
私も、自分の画面を差し出した。
「あら、うちの子と雰囲気そっくり!」
こちらは青い服だ。髪形も違う。
けれど、丸い目と、笑ったときのえくぼがよく似ていた。
「小さい子って、みんな似ているものね」
誰かがそう言うと、四人で笑った。
カップを置く音の向こうで、テレビのアナウンサーが話していた。
『出生数は、過去最少を更新しました』
友人が次の写真を見せたので、私はそちらへ顔を寄せた。
*
家に帰ってからも、私はソファで写真を眺めていた。
青い服。白い服。小さな帽子。
指を動かすたび、孫は違う格好で笑ってくれる。
どの写真も、日だまりのように明るい。
後ろの景色は、いつも少しぼやけていた。
丸い目がこちらを向き、頬に小さなくぼみができる。
「ほんと、かわいく撮れてること」
壁のカレンダーには、七五三、と赤い字で書いてある。
私は写真を拡大し、もう一度、顔を見た。
*
次に四人で集まったとき、友人の一人が、待ちきれないようにスマホを掲げた。
「初孫なの!」
画面には、花柄の服を着た子がいた。
丸い目。頬のえくぼ。少しだけ傾いた首。
私は、向かいの友人と目が合った。
隣の友人も、こちらを見ていた。
ほんの一瞬、テーブルが静かになった。
「まあ〜、かわいい!」
誰からともなく声が出た。
私たちは笑い、画面をのぞき込んだ。
初孫だという友人は、うれしそうに何度もうなずいた。
*
追加のコーヒーが運ばれてきて、私たちはスマホをテーブルに置いた。
四台とも、画面を上にしていた。
花柄の服。青い服。白い帽子。縞のシャツ。
違う格好の子たちが、同じ角度で首をかしげている。
四つの画面の隅に、同じ小さな紫色のロゴが並んでいた。
―― おわり ――
この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。
【解説】
最後に並んだ四台のスマホを、思い浮かべてみてください。
服も髪形も違う子たちなのに、目やえくぼ、首の傾け方がよく似ています。そして、すべての画面に同じロゴが入っています。
この組み合わせが、写真の出どころを示しています。
四人が「孫」として見せ合っていたのは、同じ画像生成アプリで作った子どもの姿だった、と読める話です。
最初の「小さい子って、みんな似ているものね」は、その場では何気ない言葉に聞こえます。
でも、後から新しく見せられた「初孫」まで同じ顔つきをしていたら、偶然という説明は苦しくなりますよね。
そこで四人は、一瞬だけ顔を見合わせます。
相手の写真に、自分の写真と同じ特徴を見つけたのでしょう。自分がその画像をどうやって手に入れたか知っているからこそ、相手の画面にも気づいてしまった、と考えられます。
それでも、誰も尋ねません。「かわいい」と言えば、孫の話を続けられるからです。
自宅で眺めていた写真の、やわらかすぎる光と、ぼやけた背景も手がかりです。
服を替えた写真はいくつもあります。でも、子どもが実際にそこにいたと分かる場面は出てきません。カレンダーには七五三まで書き込まれ、画面の中の成長が、暮らしの予定になっています。
背景のテレビでは、出生数が減ったというニュースが流れています。
その前で、テーブルの上には「孫」の写真が増えていく。この食い違いが、タイトルの「少子化」につながります。
ここで怖いのは、生成された顔そのものより、違和感に気づいたあとも続く会話です。
四人がどこまで本気で信じているのか、誰のために見せ合っているのかは、はっきりとは書いていません。けれど、疑問を口にすれば、自分の写真についても聞かれてしまいます。
最後まで、誰も画面を伏せませんでした。
四つの同じロゴを前にしても、孫のいる午後は、そのまま続いているのです。




