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意味が分かると怖いショート  作者: 灰色猫


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19/32

第19話【意味が分かると怖い】50%保証【怖いショート】

テレビの画面に、証券口座を乗っ取られた人たちが映っていた。


『損失額の五〇パーセントを補償する方針です』


妻は、たたみかけのシャツを膝に置いた。


「半分しか戻らないなんて、ひどいわよね」


夫はスマホの電卓を見ていた。

しばらくして、顔を上げた。


「……半分も戻るのか」


妻には聞こえなかったらしい。

シャツの袖をそろえながら、次のニュースに目をやっていた。


*


数日後、夫はパソコンの前に座っていた。


妻が洗濯かごを抱えたまま、足を止めた。

銀行にあった預金が、証券口座へ移されていく。


「ちょっと。それ、全部?」


「うん」


「今、乗っ取りが多いって言ってたじゃない!」


夫は、妻を見なかった。


「だからだよ。今のうちに増やしておかないと」


*


数週間後、二人は証券会社の窓口にいた。


夫は、差し出された書類の空欄を埋めていた。


被害額、一千万円。

補償額、五百万円。


数字の横で、ペンの先が止まった。

隣の妻が、ハンカチを目に当てる。


「本当にお気の毒でした……」


担当者が言った。

夫は書類から目を上げず、うなずいた。


「……はい」


*


深夜、夫は書斎のドアを閉めた。


机の上に、厚い茶封筒が一つ置かれていた。

口が少し開き、中の札束がのぞいている。


スマホが光った。

妻の知らないアカウントから、短いメッセージが届いていた。


〈約束の分です〉


夫は通知を消した。


パソコンには、あの晩の計算が残っていた。


1000-500=500

500+600=1100


―― おわり ――


この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解説】


最初の「半分も戻るのか」を、もう一度読んでみてください。

妻には、失ったお金が半分しか戻らない話です。けれど夫は、半分が戻るなら使える、と考えています。


最後の計算は、どちらも万円単位です。

一千万円を失っても、五百万円の補償が入る。自分の持ち出しは、残りの五百万円です。

そこで終われば、妻が嘆いているとおり、大きな損になりますよね。


ところが、机には茶封筒があり、知らない相手から「約束の分です」と連絡が来ています。

次の「500+600=1100」は、補償された五百万円と、相手から受け取った六百万円を足したものです。

元は一千万円。最後は一千百万円。夫の手元では、百万円増えています。


つまり夫は、口座を乗っ取られた気の毒な被害者ではありませんでした。

乗っ取りに関わる相手と事前に話をつけ、被害に遭ったように装っていた、と読めるんです。「約束」という言葉が、たまたま届いたお金ではないことを示しています。


だから、乗っ取りのニュースを見たあとで、わざわざ預金を全額移しています。

「今のうちに増やしておかないと」は、投資の利益を期待した言葉に聞こえました。でも、彼が当てにしていたのは、別の増やし方だったんですね。


窓口でうつむいていた顔も、ここで意味が変わります。

担当者は同情し、隣では妻が泣いている。その横で夫は、最初に考えた計算が進むのを待っていました。


この話では、補償についての報道も、窓口の対応も、創作上の設定です。

実際の制度や、補償を受けられる条件を説明したものではありません。


「半分しか戻らない」と思った妻と、「半分も戻る」と思った夫。

同じニュースを見ていたはずの二人は、最初から違う計算をしていました。

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