第14話【意味が分かると怖い】パパは別班【怖いショート】
「先輩、これ、何だと思いますか」
私は自由帳を開いたまま、隣に座る先輩へ向けた。
たろう君のページだった。
赤い丸。青いW。緑のS。
その下には、屋根のある家と、タイヤの大きな車と、笑っている人が描いてある。
「最近、この記号ばっかり描いてるんです」
次のページをめくった。
大きさや色は違うけれど、また同じ三つが並んでいた。
「丸はわかるんですけど、WとかSって、もうアルファベットを覚えてるんですかね」
先輩は自由帳をのぞき込んで、それから笑った。
「ああ、あの日曜劇場のスパイドラマよ」
「ドラマ?」
「秘密組織のマークとか、エージェントの暗号のまねじゃない? 別班っていうの。お父さんと一緒に見てるのかもね」
そこで、昨日のたろう君の話を思い出した。
迎えを待ちながら、彼は私に教えてくれたのだ。
パパには、夜のお仕事があること。
普通の人には言えない、秘密のお仕事だということ。
「パパは別班だから、夜中にターゲットの家を調べてるんだよ」
小さな声で、でも、得意そうだった。
「なるほど! それなら納得です」
私はその話を先輩に伝えた。
「ふふっ、子供の想像力って豊かね」
教室の奥で、たろう君がブロックを積んでいた。
赤の上に青、その上に黄色。
いちばん高いところに、緑のブロックを乗せる。
私と目が合うと、両手を上げた。
「先生、できた!」
「すごいね。高いおうちができたね」
私は自由帳を閉じ、たろう君の棚へ戻した。
*
日付が変わってから、古いアパートの廊下を男が歩いていた。
黒いダウンジャケットに、どこにでもあるズボン。
立ち止まれば、ただの住人に見えた。
ある部屋の前で、男は顔を上げた。
玄関は暗く、物音もしなかった。
しばらくして、男は階段の方へ歩き去った。
インターホンの横の壁に、小さな記号が残っていた。
○。
W。
S。
たろう君の自由帳に描かれていたのと、同じ並びだった。
―― おわり ――
この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。
【解説】
先生たちは、たろう君がドラマのまねをしているのだと受け取りました。
「別班」「ターゲット」「秘密のお仕事」。そういう言葉が出てくれば、子供のごっこ遊びだと思いますよね。
でも、最後に同じ記号が見つかるのは、たろう君の家でも、ドラマの画面でもありません。深夜のアパートの玄関先です。
そこから、普段着の父親らしい男が歩き去っていきます。
この話では、玄関の記号は、空き巣が下見した家に残すマーキングとして描いています。
父親は家を守るための秘密任務をしていたのではなく、狙う家を調べていた、と読むわけです。
たろう君は、その姿や記号を見て、パパを格好いい秘密工作員だと思い込んでいました。
「夜中にターゲットの家を調べてる」という言葉を、もう一度読んでみてください。
先生たちは想像力が豊かだと笑いましたが、子供の話は、仕事の中身をそのまま伝えていたのかもしれません。
ドラマを知っていたおかげで、二人には納得できる説明がすぐ見つかりました。
その安心で、自由帳は閉じられてしまいます。
あなたの家の表札に、おかしなマークはありませんか・・・?




