第13話【意味が分かると怖い】セキュリティテスト【怖いショート】
「人助けで時給五千円? 最高じゃん」
大学生の彼は、スマホを持ち直した。
〈高齢者向け詐欺対策テスト〉
〈電話をかけるだけ〉
〈マニュアル完備〉
画面の下には、赤い応募ボタンがあった。
前のバイトは、立ちっぱなしで時給千二百円だった。
今度は座って話せる。しかも、人の役に立つ。
迷う理由はなかった。
翌日、事務所で渡されたのは、一冊の台本と名簿だった。
「難しく考えなくていいよ。書いてあるとおりに話してくれればいいから」
スーツ姿の男が、隣の椅子に座った。
最初の電話では、少し声が裏返った。
次は、途中で切られた。
三人目は、最後まで話を聞いてくれた。
受話器を置いて、彼は隣を振り向いた。
「あっ、信じてくれた! これで『引っかかる人』として報告ですね」
男は笑って、親指を立てた。
「優秀だね。その人たちには後でちゃんと注意しておくから」
褒められて、肩の力が抜けた。
仕事の流れもわかってきた。
自分が電話をして、相手が信じたかどうかを報告する。その後の対応は、上司がやってくれる。
夕方には、台本を見なくても言葉が出るようになった。
*
次の日も、男は機嫌がよかった。
「今日はこのリストを全部お願い」
机に置かれた紙は、昨日よりずっと厚かった。
「任せてください!」
彼は両手で受け取った。
名簿の上から順に、電話をかけていった。
途中で切られると、もう少しうまく話せたはずだと思った。
最後まで聞いてもらえると、うれしかった。
報告が一つ増えるたび、誰かの役に立てた気がした。
*
夜、ワンルームの机には、名簿の束がいくつも積まれていた。
椅子に深く座り、頭の後ろで手を組む。
明日も仕事がある。しばらくは、別のバイトを探さなくてよさそうだった。
背中の方で、テレビがついていた。
〈高齢者の被害相次ぐ〉
〈特殊詐欺の被害 総額三億円超か〉
画面の中で、白髪の女性が顔を覆っている。
明日の名簿を机の真ん中に寄せ、伸びをした。
「がんばってるのに、引っかかる人ってなかなか減らないもんだな〜」
―― おわり ――
この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。
【解説】
彼は最後まで、人助けの仕事をしているつもりです。
電話の相手が自分を信じたら、その人の危うさを見つけられた。報告すれば、上司が注意してくれる。そう思っています。
でも、彼が熱心に電話をかけている間も、高齢者の被害は増えています。
「引っかかる人」の報告は、本当に注意を促すために使われていたのでしょうか。
相手を信じやすい人の名簿として、別の誰かに渡っていたのかもしれません。彼自身の電話も、被害につながる入口だったのかもしれませんね。
上司の「後でちゃんと注意しておくから」という言葉を、彼は一度も確かめていません。
渡される名簿が厚くなっても、それだけ自分が頼られているのだと受け取っています。
被害が減らない理由を知らないまま、もっと頑張ろうとしている。その循環が、この話の意味がわかると怖いという、怖さです。
そして、誰より先に、この話の中のうまい話を信じた人がいましたよね。
時給五千円の求人を見て、「最高じゃん」と応募した彼です。世の中には本当に色々な仕事があることをお忘れなく・・・。




