第10話【意味が分かると怖い】誕生日【怖いショート】
食堂のテレビで、外国人の受け入れについて話していた。
「最近は外国人ばっかりだ。日本はどうなっちまうんだ」
車椅子の上で腕を組み、私は画面をにらんだ。
「ごはん、冷めちゃいますよ」
隣から、いつもの介護士が声をかけてきた。
彼女も外国から来た人だ。私の前にしゃがみ、煮物を小さく崩している。
「はい、あーん。今日はおじいちゃんの好きな煮物ですよ」
「……ふん」
顔をそむけたまま口を開けた。
煮物は、ちょうどいい温かさだった。
部屋に戻ると、カレンダーを見た。
机の上の家族写真を、少しだけ手前に寄せた。
翌朝、いつもより早く目が覚めた。
今日は特別な日だった。
廊下を誰かが通るたび、ドアの方を見た。
昼食が終わってからも、入口付近をうろうろしていた。
窓の外が暗くなったころ、ドアが開いた。
彼女が、小さなケーキを持って立っていた。
少しいびつなクリームの上に、ろうそくが並んでいる。
机を片づけるときも、スマホだけは伏せなかった。
長男、既読。
次男、既読。
長女、既読。
家族写真の隣に置いた画面は、朝からそれきりだった。
介護士の彼女が隣に腰を下ろした。
二人で、ろうそくの火を見ていた。
―― おわり ――
この下に解説があります。先に考えたい方は、ここでお止めください。
【解説】
おじいさんは「外国人ばっかりだ」とこぼしています。
でも、毎日の食事を手伝い、好物を覚えていてくれるのは、その外国人の介護士さんなんですよね。
一方、誕生日には来てくれるはずだと待っていた家族は、最後まで部屋に現れませんでした。スマホには既読がついているので、少なくともメッセージを見てもらえてはいます。
家族が来られなかった事情までは、この話には書かれていません。だから、これだけで家族のすべてを決めつけることはできません。
ただ、誕生日の夜に隣に座っていたのは誰だったか。それは、最後の場面に残っています。
来てくれると信じていた人は、ここにいない。
遠ざけるようなことを言っていた相手が、今、隣にいる。
ろうそくを見つめながら、おじいさんは何を考えていたのでしょうね。
また、これは良いお話になるかもしれませんが、現実の介護の現状はもう少し厳しいものになっているかもしれません。こんなことを踏まえて、自分の老後を考えることが、本当の「意味怖」かもしれません。




