死闘
最初の数合で、俺は思い知らされた。
目の前の刺客は、動作解析ログが示す予測ラインを、まるで嘲笑うかのように外し続けてくる。フェイント、緩急、呼吸の乱し方――どれも、意志を持つ者だからこそ繰り出せる、生きた駆け引きだった。
[ 動作解析中……予測精度:不安定 ]
「くそ、また外れた――」
肩口を浅く斬られ、熱い痛みが走る。だが、致命傷ではない。奴らの狙いは、俺の命そのものより、アナスタシアを孤立させることにあるように見えた。
「カイト、下がって守りに徹しろ! 攻めは俺がやる!」
ライラスの声が飛んでくる。彼は、これまで見せたことのない鋭さで、刺客の剣筋を読み切っていた。長年の実戦経験が、システムに頼らない純粋な人間同士の駆け引きで、如実に生きている。
「――老いぼれにしては、やるな」
刺客の一人が、初めて感情らしきものを声に滲ませた。
「褒め言葉として受け取っておこう。だが、油断はするなよ」
ライラスの反撃が、相手の脇腹を捉える。浅い傷だったが、確かな手応えがあった。
俺は、地形操作に切り替えることにした。剣の腕で正面から張り合うのは分が悪い。ならば、これまで培ってきた別の武器を使うまでだ。足元の岩を僅かに隆起させ、刺客の踏み込みの軌道をわずかに逸らす。狙い通りとはいかなかったが、完全な回避にはならなかった。
「小癪な真似を」
「そっちこそ、正々堂々って柄でもないだろ」
軽口を叩く余裕は、正直なかった。だが、口を動かすことで、辛うじて恐怖を押し留めていた。
「――っ!」
アナスタシアの声が上がる。彼女を狙っていた刺客の一撃を、寸前で光の盾が防いでいた。これまでの訓練の成果が、極限状況で確かに形になっている。
「まだだ、まだ倒れるわけにはいかない――!」
彼女の手のひらから放たれた光が、相手の視界を一瞬奪う。その隙に、俺は地形をさらに乱し、三人分の連携で刺客の一人を追い詰めていった。
互いの傷が増えていく中、それでも戦況は、少しずつこちらへ傾き始めていた。三人の連携――地形を乱す俺のハック、実戦の勘で急所を突くライラス、そして安定してきたアナスタシアの光。異なる三つの力が、これまでの死闘で培われた噛み合わせの良さを、今この極限状況でも発揮していた。
権限監査体との死闘で得た手応えは、確かに本物だった。あの時と同じように、俺たちは互いの動きを見ずとも予測し、隙間を埋め合うように連携していた。ただ違うのは、相手が意志を持つ人間だという一点だけだ。その一点が、これまでのどんな敵よりも読みにくく、そして――だからこそ、崩れた瞬間の脆さも、人間らしいものだった。
俺の地形操作で体勢を崩した刺客の一人に、ライラスの剣が確実に急所を捉える。膝から崩れ落ちるその姿を見て、俺は初めて、勝機を実感した。
「――押されてる、な」
刺客の一人が、初めて焦りの色を見せた。
「増援を待つ余裕は、もうなさそうだ」
別の一人が、低く応じる。だが、その声には、まだ何か含みが残っているようにも聞こえた。
俺たちは、その違和感に気づく余裕もないまま、目の前の敵を打ち倒すことに全神経を注いでいた。




