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第4話 ゆっくりと ゆるやかに

夜頭、夜頭。


私は、即座に中学の卒業アルバムを開いて「夜頭」という名前を探していた。


「いた」


夜頭ノイド。


この人だ。


痩せ細くて、少し背の高い。



「ニカー、帰ってるのー?」


「はーい!」


「降りてこれるー?」


「いま行くー!」



1階に降りると、母が心配そうに待っていた。


「美容室から電話あったわよ?どうしたの?髪の毛もそのままね」


「あ、ごめん!ちょっと急ぎの用があって…」


「そう…わかったわ」





夜頭ノイド…この人が何か知ってるのかもしれない。


でも…会いにくいな。



回想


「君のことが好きなんだ。僕と、つき合ってよ」


「え?ありがとう。でも、ごめんなさい」


「ごめんなさい?それってダメってこと?」


「うん。つき合えない」


「なんで?!」


「夜頭くんは……」




………



「ニカー、ちょっといい?!」


「え?ああ、うん」


「紅茶入れたから、髪の毛よく乾かしたら、リビング座って」


「あ、ありがとう」





「美容室のサキさんから聞いたんだけど、黒髪に染まらないんだって?」


「そうみたいなの」


「あり得ないことよ。で、その話になって、永久カラーリング材?みたいなこと話してたら突然帰っちゃったって」


「気になったことがあって…」


「気になったことって何?」


「えっと…お母さん、夜頭くんて知ってる?」


その時、母が、その一瞬、固まったように見えた。


「ニカの…同級生のかな?最近会ったの!?」


「卒業式以来、会ってないよ」


「そう…。ニカ」


「ん?」


「夜頭くんとは会っちゃダメ、いい?」


「え?何で?」


「いいから、あの家族とは関わっちゃダメ!約束ね!」


「わ、わかった」


「金髪の件は、誰かに何かされたの?」


私は、何て答えていいのか、わからなかった。あの日のことをそのまま伝えても、信じてくれるとも思ってないし、母親に余計な心配をかけたくなかった。

でも、母は、もしかしたら何かを知っている。「夜頭」との名前に、異常な反応を示すのだから、それでも、まだ私はあの日の出来事を人に伝える勇気がでなかった。というより、まだあの「月光ピエロ」と名乗る男の存在と、「才能を奪う」なんて、非現実的なことを認めたくなかった。



黙っている私のことをずっと見つめていた母は、私の心を察したのか、深く息をついた。


「言えないのなら、いまは聞かないわ。言えるようになったらちゃんと教えてね」


そう言うと、席を立って、無言で夕飯の支度をし始めた。


私は、少し緩くなった紅茶を飲みながら、母に目線を向けた。母も何かを知っている。


「お母さん」


「ん?」


「手伝おうか?」


「母さんがやるわ。大丈夫。ニカも疲れてるでしょ。休んでていいわ」


「そう。じゃあ、そうするね」




私は制服のまま、部屋のベットに倒れ、天井を見つめた。

わかったようで、何もわかってない。

ただ、夜頭くんに会えば、何かわかるかもしれない。でも、母はそれを拒んでいた。




「髪の毛、どうしよう」






金髪のまま登校。


当然、山威に呼び出された。


「昨日、元に戻してくるって約束したよな?」


「はい、黒く染めるため美容室に行きました」


「行きましたじゃないだろ、金髪のままじゃないか」


「黒く戻らなかったので、このまま来ました」


「ならねーわけないだろ?昨日と同じ言い訳か?」


「嘘はついておりません。しばらく、これでお願いします」


「お願いしますて、許せるわけないだろ、そんなの」


「だから、お願いしてるんです。ダメですか?」


「え?お前、本気か?」


「はい。お願いします」


「……そうだな。まあ、考えといてやるか」


「え?本当ですか?!」


「うーん…まあ、そうだな、また明日、ここ来い」


「ここですか?」


「立場上、注意はしないといけないからな」


「それだけで、いいなら…わかりました」



染め毛で注意されるなら、もっと注意を受けるべき人はいっぱいいる。

学校側としては、成績優秀な私を通して、評判を落としたくないんだろうな。

大学に推薦しにくくなるとか。





学校生活。私は頻繁にミスを犯すようになった。



体育。体育館での授業。


「今日はバドミントンだ。ラケットは用意したな。」

「ん?暮井、上履きのまんまだな、体育館シューズはどうした?」


「あ、そうだった」


「そうか、上履きでバドミントンはキツイから、待ってるから、早く履き替えて来なさい」


「あ、すみません、わかりました」



「暮井さん、最近忘れ物とか多くない?」

「そうだな、けっこうおっちょこちょいなところあって安心した笑」

「ニカちゃん、いままでそんなことなかったような」

「でもまた、そこが可愛いかも笑」




忘れ物。確かに最近、よく忘れ物をする。

日本史の教科書も、提出物も、スマホも途中で家に取りに帰ったり…

せっかくバドミントンラケットは忘れず持ってきたのに、体育館シューズも履き忘れるなんて…。


教室のロッカーに体育館シューズは入っている。


「あった」

「ん?最近、ロッカーの中、乱れてきたな、ちょっとだけ整頓しよ」

「よしっ」


教室の時計を見ると15分経っていた。


「え!そんなに経った?急がなきゃ!」




体育館。すでに、皆でバドミントンのネットを準備していた。



「暮井!何してたんだ!遅いぞ!」


「すみません!」


「ん?体育館シューズはどうした?上履きのまんまだぞ?」


「あ!」


「あじゃないだろ笑。何しに行ってきたんだ」


「わはははは」


皆が笑っている。


「暮井さん、いいね!ナイス!」

「ニカちゃん、その反応、可愛い!」

「ホントに、何しに行ってきたの笑」


「暮井どうしたー?上履きじゃ無理だから、もう一回行ってこい!」


「はい」




整頓なんかしてたからだ。なんで、なんでなんだろう。




「今度は早かったな。よし、皆は準備運動までやったが、暮井も準備運動は往復したからもう大丈夫だろう?」


「は、はい。遅れちゃうんで進めてください」


「もう一回、ボケて欲しかったなー、暮井さん」

「あはははははは」


皆が笑っている。


「ニカちゃん、頭いいだけじゃなくて、そういうとこあるんだ、安心〜」

「逆に可愛いわ」


なんだか好評のようだけど、いままでにない感覚で、私はショックだった。

また、やってしまった。その連続。





昼休み


購買のパンを買う時も


「じゃあ、120円と、180円…」


「えーっと…」


「300円だねっ。ニカちゃんより暗算早かったー笑」


「あはは、負けましたー」


と、購買のおばさんにからかわれたり。




理科の授業の時。


「ニカー!どこいくの?」


「あれ?次、理科だよね?理科室に」


「今日は、教室ってなってるじゃん?後ろの黒板に書いてあるでしょ?」


「あ、そうだったね。朝にちゃんと確認したのに…助かった。ルカ」


「ニカ、最近おっちょこちょいすぎない?」


「そうだよね笑。私も思ってる。じゃあ、席戻るね笑」



「ニカちゃん、理科室行こうとしてた?」


「そ、そうみたい笑」


「いいね笑。余計に親近感湧くよ!」

「ニカちゃん、面白い人だったんだね!天然というか」

「前、同じクラスだったけど、全部完璧な感じだったから、意外〜」


「はは、ダメだね、私笑」


「いいじゃん!そこもかわいくて」

「そうそうー!」





部活。



身体能力は、それほど衰えてない。

だけど…



「ニカー、そんなパス読めない!」


「あ、ごめーん!」


ノールックパス。


視線にはないところへ、絶妙なパスを出すが、相手がついてこれない。


異常な集中力を感じる。なのに…


いままでは、その中にも、味方の能力を踏まえた上で、絶妙なプレイをしていた。故に、チームの機能もバランスがとれていた。


「暮井ー!自分勝手なプレイが目立つぞ!もっと周りを見ろ!」


「はい!すみません!」


身体は動く。


ガツンッ。


「あー、また外した」


ロングシュートが一向に入らない…。


絶妙なカットインもするが


ガンッ


「リバウンドー!!」


肝心のシュートが入らない。


「暮井ー!ちょっと来い」


「はい」


「どうした?最近、これじゃあ、今度の県大会すら敗退するぞ」


「はい」


「前までのチームのバランス感、ここぞという時の個人プレー。絶妙なお前らしいプレーが見られなくなってる。エースのお前がそれじゃあ、いくら強いチームとは言えベスト4に入れるかどうかだ」


「わかりました」


「よし、頼むぞ」




やはり、何かがおかしい。




ミスをしても、期待される内は良い。




しかし、ゆっくりと、ゆるやかに、そして確実に、このズレが、私の日常そのものを壊していくことになる。





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