第3話 過去の余韻
数学の授業が終わった。
「暮井さん、ちょっといい?」
鈴池先生が、私を廊下へ呼び出した。
「どうしたの?少し間が空くくらいであの問題が解けなくなるほど、アナタの数学への理解力は浅くないはず」
「…ありがとうございます。それが、今日は、全く授業についていけなくて」
「そんな顔をしていたわ。その髪も何?高校生だから色々と興味持ち出すのはわかるけど、アナタらしくないわね」
「はい、気にかけてくださってありがとうございます…」
「うん、何かわからないことあったらまた聞きに来ていいから、しっかりね」
「はい」
教室に戻ると、皆が私を見る。そして、すぐそれまでの会話に戻った。
「ニカ」
ルカが私の席まで来た。
「どうしちゃったの?あんな問題解けなくて」
「何だか、頭が真っ白になっちゃって…」
「ふーん、で、鈴池先生なんだって?」
「え?まあ、わからないことあったら聞きに来なって」
「で、聞きに行かないの?今日のところ、わからなかったんでしょ?」
「そうだけど、なんか頭が疲れちゃって」
「そうなんだ。髪の色変えて、中身も別人になったみたい」
「そんなつもりないんだけど…」
「あ、ごめん、ごめん。気にしないで、何かあればアタシも相談のるよ?男とかできた?」
クラス中の男子が聞く耳をたてた
「そんなんじゃないから、違うの。ありがとう、気にしてくれて」
「そーお?わかったぁ」
次の時間は、「学級」の時間。
担任の山威が教室に入ってきた。
「昨日の休み中の課題のテストの採点が終わったから、配るぞ」
「さすがに皆、優秀なクラスだ。ほぼ高得点だが、満点は、暮井だけだな」
「おお、さすが学年トップ」
「だよなー、やっぱりいつものニカちゃんじゃん」
「満点は凄すぎん?」
「じゃあ名前呼ぶから取りに来てー」
それは、昨日の私…。
「よし、じゃあ今日は5月の文化祭のクラスの出し物を決めるぞー」
櫻丘第一高校は、文化祭が5月にある。
「じゃあ、渡瀬ー。前にで出て仕切ってくれ」
「えー、アタシが?」
「学級委員だろ」
「あ、そうだった。じゃあー、ひと肌ぬぐかー」
ルカは席を立ち、教壇に向かった。
「先生は、アタシの席座ります?」
「いや、前にある椅子に座るに決まってんだろ」
「椅子あったんですねー」
「よし、始めようか」
「じゃあ、文化祭でのクラスの出し物決めまーす。誰かアイディアありますかー?」
「神村くんの弾き語りー」
「いや、オレ軽音で普通にそれやるから!」
「わっはっはっは」
「いいねー、ナイスはじまり。そんなノリでみんな出していってねー」
「山威先生と対談、YouTube生配信」
「誰が見るか!」
「越野!」
「あ、先生ごめんごめん」
「いい企画じゃないかー」
「えーー!!!」
「あはははは」
「じゃあ、黒板に書いてきまーす。山威先生と…」
「冗談だ!ホントやるのか?!」
「大丈夫、書いとくだけですからー」
「どういう意味だ」
「ぎゃははは」
「他にはありますかー?」
「ニカちゃんのクレープ屋さん」
「お、去年の暮井さんのクレープ?!大評判、大行列だった」
「それしかなくねー!!?」
「そうだよー、それそれー!」
「わたしもまた食べたーい」
「ニカのクレープじゃ、クラスの出し物じゃなくなっちゃうかなー」
「そこは、クラスで協力するから良いでしょー渡瀬学級委員長」
「去年もクラスでやったからわかるの。みんなニカ頼りで、結局ニカのクレープって感じで大行列だったし」
「暮井ニカのクレープ屋さんでいいじゃん!学園のアイドル、このクラスの代表を前に出していく手以外に最高のものないじゃん?」
「わたしもまた食べたーい」
「絶品だったよなー」
「すごい美味しかったー、暮井さんを手伝う側になれるなんて、今年はラッキーすぎる」
「勝ち確定じゃん!それ以外ない!」
「……ニカ。みんなこう言ってるけど、どう?」
「私は、やっても良いよ」
「よーし!決定じゃん!ニカちゃんいて良かったー!」
「今度は作る側かー、楽しみー」
「先生、クレープ屋さんで決定みたいですけど?」
「おお、いいんじゃないか。他の高校でも暮井は有名だしな、行列対策しとかないとな」
「おおー!燃えてきたー!」
「暮井さんと思い出作れるー」
「ホント美味しかったもんねー、1時間並んだ記憶が」
教室がざわめく中、ルカが黒板に書かれてある他のアイディアを消し始めた。
「じゃあ、2年8組の文化祭の出し物は、クレープ屋で決定で。以上」
「以上じゃないだろ。役割ある程度決めておけ」
「あとはニカに任せて大丈夫だと思います。去年もそうでしたし。席にもどります」
「暮井さん任せにはしないように、みんなで協力してやろう」
「神村ぁ、良いこと言うなー。というわけだ、2年8組、クレープ屋さん、頼むぞ」
ザワザワ、ガヤガヤ。
クレープ。私の最も得意なスウィーツ。
みんなのおかげで、私は材料関係の用意と、作ることに専念できることになった。
このことが、私をドン底に突き落とすきっかけになるとは、この時、少しも思わなかった。
部活は休んだ。
美容室でこのブロンドの髪の毛を黒く染めてもらうために。
「いらっしゃーい、わーお、ホント金髪」
「急なのに、ありがとうございます」
「ニカちゃんの頼みなら聞かないわけにはいかないわよ。はいっどうぞ座って」
「お母さんはお元気?」
「元気です」
母親が紹介してくれた、個人で美容室を営んでる、私の常連のお店。
優しい綺麗な女性の方が予約制で1人で経営している。
「予約空けたんですか?」
「そうそう、気にしないで。ニカちゃんが来るって言ったら、自分は今度でいいって言ってくれて。ニカちゃんファン多いのよ。天才高校生で有名だもんね」
「そんな!…と言っても、今日じゃないとダメだったから、助かりましたけど、悪いことしちゃったなぁ」
「いいのいいの、で、こんなに綺麗な金髪、黒に戻しちゃうの?」
「高校の先生に言われちゃって」
「そりゃあ、そうよね。わかっててブロンドにしたの?しかもウチの店じゃないわよね?自分でこんなに綺麗に?できるか、ニカちゃんのセンスなら!」
「自分じゃできないです!金にするつもりもなかったのに…あっ」
「つもりはなかった?」
「いえ、うまく言えなくて、ごめんなさい」
「……黒く染めれば良いのね。了解了解!」
「黒く…ならない」
「やっぱり…」
「やっぱり?」
「自分でも試したんですけど、黒くならなくて」
「…ニカちゃん、どこで金髪にしたの?」
「いや、その…」
「聞いたことあるの。永久カラーリングって」
「永久カラーリング?」
「何とかって会社が出してるカラーリング材」
「そうなんですか?」
「しかも、簡単に、綺麗にカラーリングできるって」
「そんなものあります?」
「聞いたことあるだけ。その会社のカラーリング材じゃないと、きっと黒くならないわ」
「誰から聞いたんですか?」
「……正確にいうと、開発中って聞いことがあって」
「いったい誰に?」
「夜頭くんって知ってる?」
「え?!やとうくんて、私の中学の同級生の?」
「やっぱりそうだったわよね。ニカちゃんの同級生くらいの男の子」
「なんで、あの夜頭くんが」
「少し前に、ここ予約して髪切っていったの。その時に、お父さんが世の中に革命起こす開発してるものがあるって言ってて、親の七光みたいな子だから、軽く受け流してたんだけど。その時、カラーリングのパウダーとか何とか言ってて…」
「パウダー…?」
覆面の男が脳裏に思い浮かぶ。
「ブロンド…パウダー、ブロンドパウダーって言ってた!」
「え?何か知ってるのニカちゃん?ブロンドパウダー?誰が言ってたの?」
「……私の髪をこの色にした人」
「美容師さん?」
「わ、私!帰ります!迷惑かけちゃってごめんなさい!お代は置いていきます!」
「ニカちゃん!まだ途中!髪乾かしきれてない!」
「い、家でやります!ごめんなさい!」
私は、走って家に帰っていった。
夜頭…やとうくん、違うクラスだけど、男子バスケ部にいた。
あの夜頭くん?夜頭くんが何か知ってるかも。
でも……彼は…
私に告白してきた人。
そして、私が振った人…。




