第13話 現れてきた実体
放課後ー。
私は、誰もいなくなったいつもの教室で、自分の席にひとり座っていた。
軽音楽部の演奏の音、吹奏楽部の演奏の音が聴こえてくる。
教室で待っていてくれと言っていた破部先生。
いったい何者なんだろう。
でも、なにか、私が1人で抱えていることを受け止めて導いてくれる、そんな心強さと、誰にも言えなかったあのことを、もしかしたら言っても良いのかもしれないとの心が湧いてきた。
「すまない、遅くなったな」
破部先生が教室に入って来た。
「あ、はい」
破部先生は私の斜め前の席に、私の方を向いて座った。
「じゃあ、聞こっか」
「はい…」
「なんか緊張してる?」
「まあ、話しにくいこともありますし…」
「何でも話しなよ」
「まず、本当に、先生だったんだすね」
「おお、まあね。まあ趣味で先生やってるっていうか、副業気味な感覚でね」
「そんな先生いますかね笑」
「ここにいるよ笑」
「いったい何者なんですか?」
「オレの話?それは、おいおいな。今日は君のこと、君の抱えている問題を聞きにきたんだ」
「…そうですね、何から話せば良いのか…」
「じゃあ、オレから、いや、先生から聞いていってもいいか?」
「はい、お願いします」
「まず、君はクラスでどういう扱いされてる?」
「……いまは、多分、みんなに無視されてます」
「勘があたっちゃったな。君を見て、無視されそうな感じの子じゃないと思うのに、何があった?」
「文化祭で、私のクラスでクレープ屋さんをやったんですが、食べた人の中から腹痛者がでちゃって、その原因が私のミスからだってなって、それから皆が私から距離を置くようになったんです」
「うーん、まあ、実はその件は少しは聞いてるんだけどね。それだけで、みんなから無視されるか?」
「そのことが発端で、その後のクラスの打ち上げがあることも知らされなかったり、そのあとからは…」
「SNSの画像とかかな?」
「知ってるんですね…そうです。あれは、私じゃないんですが、あのせいで夜遊びしてるとか、先生たちを手玉にとってるとか、夜の仕事してるとか、そんな噂がいつのまにか広がってて…」
「あの画像が、君じゃないなら、誰かが偽造して載せたり、デマながしてるってことだろ」
「そうですね…。で、その中でも、同じクラスの神村くんや、小坂さんは、私にいつも明るく挨拶してくれて、すごい嬉しかったんですけど、神村くんは誰かから殴られたアザが顔にできてたり、小坂さんが美術部で描いた絵が破られてたり、私に関わる人に被害が及ぶようになったんです。それで、自分なんかいない方がいいって思いに駆られて、休むようになりました」
「なるほどね。君を陥れてる奴がいるな。それと、神村や小坂に被害が及ぶってことは、それを知ってる人物ってことだから、このクラスの生徒かもしれないな」
「そうなんです…」
「うーん…よし、それはわかった。少し話し変えるけど、君は以前、天才女子高生って呼ばれてたよね?勉学、頭脳、スポーツ、ピアノまで優秀で、何かの雑誌にもでてたな」
「え?そういう…呼ばれ方は聞いたことはありますが…」
「けっこう有名だよ。暮井ニカって名前も、天才女子高生の異名も。それが、その暮井ニカの学校に来てみたら暮井ニカは、クラスで無視されていた」
「……はい」
「これも副担任としての情報で知ってるだけど、最近の君は成績も悪化、得意のバスケも不調、何でも器用にこなしていたのがドジな部分が多くなった、忘れ物、時間ギリギリの登校。以前とは別人のようになったと」
「…事実ではあります」
「それが、デマの夜遊びのせいになってるわけだ」
「そう思います」
「ここからが本題なんだが。君にいったい何があった。永久カラーリング剤の効果と思われるその金髪は誰にやられた?」
「え?その…信じてもらえるかわかりませんが」
「何でも話してくれ」
「…月光ピエロと名乗る、覆面を被った男です」
破部先生の顔つきが変わった。
「月光ピエロ…やはりな」
「先生!!知ってるんですか!?」
「おいおい、急に大声だすな」
「出しますよ!あんな、非現実的なこと、誰にも言えなくて、それを知ってるって人がいるなんて!」
「まあ、落ち着け。その話し、聞かせてくれ」
「はい、お願いします!私も、私も知りたい、先生が何か知ってるなら、教えて欲しい!」
「大声出すな。ん?ちょっと待て…」
「すみません、つい…」
「場所を変えよう」
「え?」
「その話しは聞く。いったん場所を変えるぞ」
破部先生はそう言うと、席を立ち学校の屋上へと移っていった。
「おおー、やっぱ、学校と言えば屋上だろ。少し風があるか」
「なんで場所を?」
「絵になるだろ屋上」
「冗談はいいんです、それだけ?」
「ふふ、まあ、ちょっと人の気配もしてな。誰にも聞かれないところでって思ってな」
「え?誰かいたんですか?」
「いや、お前が大声だすから」
「すみません。そして、呼びかた、お前になってる笑」
「ああ笑。悪い悪い。じゃあ気を取り直して聞こう。立ったままでいいだろ」
「はい。何から話そうかな」
「洗いざらい聞かせてくれ」
私は、初めて月光ピエロという男のことを他人に話した。そして、あの日のことを全て破部先生に伝えた。
「やはりな…話してくれて、ありがとう」
「で、何者なんですか?!月光ピエロって。才能奪うってどういうことですか?!」
「アンビヴァレントって会社。知ってるか?」
「どこかで、聞いたことある気もしますが、知りません。さっきも言ってましたよね?永久カラーリング剤のことで」
「そうだ。その会社はな、表向きは介護慈善団体の会社で、障害者やそれに役立つ製品を開発したり販売したりしている。元々は障害者介護施設だった」
「表向きは?」
「そうだ。だが、その裏では、ある特殊物質から採取して、研究を重ねて開発した技術で人の才能などを奪い、裏マーケットでその才能を多額で密売している組織でもあるんだ」
「才能の…売買?」
「そう。本格的に動き出したのは少し前のことで、いま大きく動きだそうとしているのを感じる。月光ピエロという男は、その組織の中核幹部だ」
「何を言ってるんですか…?才能の密売?大きく動き出す?何の話しですか?」
「信じられないだろうな。常識からかけ離れている話しだよな。だが、実際、君は、月光ピエロという男に会い、奴から才能を奪われ、そこから変わっていった。それが事実。それが何よりの裏付け、証拠だろう」
「そんな…そんな話し、あり得ない…でも本当だとしたら」
「本当のことだ。誰にも言えなくて苦しかったろう」
「苦しかったですよ!自分でも信じられないし、あんな非現実的なこと、人が信じてくれるわけないし、何より、怖いし!じゃあ、私は?私から奪われた才能?ってものはどうなったの?!もう戻らないの!?」
「落ち着け…と言っても無理か。そうだな。奪われた才能は裏マーケットで売られる。買った人間は、アンビヴァレントの技術でその才能や能力を注入される。そうするとだ、今まで冴えなかった人間でも、まるでその人物のような才能・センス・能力などを発揮できるようになる」
「信じられない。でも、本当だったとしたら、私が奪われたもの?どこに?」
「それは、わからない」
「わからないの?!破部先生でもわからないの?!私、破部先生しか頼れない!こんな信じられない話し…。その、破部先生でも、わからないの?!どうすればいいの?!」
「そうだな…一つ言えるのは、奪われた君の才能はアンヴィバレントが所持している。まだそれが買われてない限り。買われてしまったら、特定するのは難しいな」
「何それ?先生って何者なの?」
「……。そうだな、君には言っておこう。オレは、そのアンビヴァレントの企みを阻止する組織の一員だ」
「教師じゃないんですか?」
「だから、それは副業だ」
「…先生。私は、あれから、あの月光ピエロに会った日から、このことをずっと心に抱えてました。それが、いま、ようやく、それを知っている人物に会って話すことができました。だけど、そんな話し信じられない。でも…信じるしかないと…いま、自分に言い聞かせてます。こんな話しできるのは、破部先生しかいません。うまく言えませんが、私は先生を信じていいですか?」
「ああ、オレを信じてくれ」
「……わかりました。興奮してしまってすみません」
「無理もない。気持ちはわかるよ。でも、正直な気持ち、話してくれてありがとう。それと…」
「何ですか?」
「オレには、学校で君を陥れている人物は見当はついてる」
「え?!誰ですか?」
「まだ言えない。あることに、確信したら君に伝える」
「あることって?!」
「アンビヴァレント社は、様々な開発を進めている。その中に『ストゥーピット』と呼びれる寄生体がある。改良を何度も繰り返して、いまは小さな光のような物体だが、それを人の心に寄生させると、欲や妬み、恨み、そういう悪心を増幅させる。ストゥーピットに寄生された人間は、人が変わったように人を妬み、攻撃してくる」
「……どういうこと」
「それに寄生されてる人物がいる」
「その人が私を陥れてる?」
「そうだ。まだ確信していない。今後、オレが調査する」
「誰ですか?それ」
「うーん…」
「教えてください。お願いします!」
「渡瀬ルカ」
「ルカ?!」
「ああ。まだ調査が必要だし、渡瀬1人でやってることじゃないかもしれないが、主犯は十中八九、彼女だろう。だが、彼女の意思ではない部分で行動してしまうのがストゥーピット寄生の恐ろしさだ。もっと言えば、ストゥーピットを寄生させた人物がいるってことだ。黒幕は絶対にアンヴィバレント」
「黒幕?月光ピエロのこと?」
「奴は、あまりそういう小細工は好まないやつだ。別のアンビヴァレント工作員だろうな」
「え?工作員??なにそれ……?ルカが何かに寄生されてる?どういうこと?………いいわ」
「どうした?」
「もういいわっ!先生、何者なの?!月光ピエロを『奴』って呼んだり、ストゥーピット?何それ?ルカが寄生されてる?おかしいよ先生言ってること、狂ってるとしか思えなくなってきた」
「無理もない、だが落ち着け、オレはそれを解決するためにここにいる」
「ごめん先生、話し、聞いてくれてありがとう。すごい心が軽くなった。ずっと1人で抱えてたから。でも、ごめんなさい。話しがイキすぎてて。信じるって言ったけど、無理かも…ごめんなさい。私、帰ります。じゃあ…」
「待て、暮井。気持ちはわかる、だが…」
「怖くなってきたんです!帰ります!ごめんなさい!」
私は、意味もわからず込み上げてくる涙をこらえながら、走って屋上をあとにした。
破部
「ふぅ…まだまだだなぁオレも、何が万能の破部ヤマトだよ…」
オレンジ色の夕日が破部を照らした。
私は、なぜか込み上げてくる涙を手で拭いながら、早足で帰路につきながら、先生の話を頭に巡らせていた。
破部先生は
月光ピエロを知っていた
でも…
アンビヴァレント社の中核幹部
才能の売買
ストゥーピット?
何それ?
何の都市伝説?
私は、破部先生なら私を助けてくれるんじゃないか、との大きな希望を抱いていた。
そしたら、お兄ちゃんが好きそうな都市伝説みたいなSFの映画に出てくるような闇組織の話し。
とても受け入れられない。
それを平然と話す破部先生が、なんだか怖くなった。
「ただいま」
帰宅すると、母が玄関まで来てくれた。
「おかえり。どうだった学校は?」
「うん、友達とも久しぶり話せたし、また明日も行くよ」
「良かったわね」
「新しい先生が来て、ちょっと不思議な先生なんだけど、すごく話を聞いてくれる先生なの」
「……そう。頼れそうな先生だった?」
「うん!心強い感じがする」
「それは良かった。着替えたら一緒にご飯作る?」
「いいよ!わかった!着替えてくる」
破部先生は、心強い。それは、確か。
先生がいてくれることで、また明日学校に行っても大丈夫との安心感がある。話し途中で帰ってきてしまって申し訳なかったかな…。
キッチンに行くと、母が待っていた。
「今夜はまだ何作るか決めてないのよね」
「そっか。じゃあ、今日はある材料でネットで調べて作ってみる?」
「そうね、ニカに任せるわ」
「オッケー!」
スマホでネット検索しようとすると、新しいネットニュースがあがっていた。
【皇帝にも大きな壁か。稲吉選手、スランプからの突然のサッカー界から引退】
【サッカー界に新星、天才過ぎるそのプレーに早くも稲吉の再来か】
【常勝の最強の格闘王、朝野選手もう二度と戦いたくない宣言、最近の不調は夜遊びのせい?】
【嫉妬心が抑えきれなかった。あの清純派アイドルが殺傷事件】
【人気男性ダンスグループ、仲間割れか。まさかの仲間内暴行事件】
「え?稲吉さん知ってる。あんなにすごいプレーしてたのに…引退するの?」
「どうしたのニカ?」
「活躍してた色んな一流プレイヤーの引退が突然すぎて」
「そうなんだ。そう言えば、テレビによく出てた、有名な頭のいい塾の先生も、もう二度とテレビに出ないって今日のテレビで発言してたわ。なんかお酒に溺れてるみたいな話しだったわよ。その人より年配の地味な人が、難しい問題解いたり、教え方が上手いって評判みたいで、急に話題になって代わりにテレビに出るようになったみたいよ。ニカもすごい人って認めてた人だったかな」
「東城先生?!」
「そう、その人、なんか落ちぶれちゃったみたい」
「そんな!突然過ぎる!」
これって……?!




