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咎人の救済

同日、ほぼ同時刻。

ミアはふらふらとした足取りで警察署から出てきた。

正隆のおかげで日本語は堪能であるが⸺事情聴取というものは慣れない。

「お疲れ様でした」

警察署の駐車場で待機していた土屋が声をかける。

瀬里菜は土屋の膝の上ですやすやと眠っている。

「土屋さん…ごめんなさい…なにもかもあなたに任せてしまって…。本来なら私が…あの人のしたことを全て…償わなくてはいけないのに…」

ミアが伏目がちに言うと土屋は微笑んで一言。

「なんてことありませんよ。お義父様⸺勅使河原家の人達のおかげで多少のわがままにも慣れました。」

そんな土屋を見て、ミアは躊躇いながらもこう告げた。

「土屋さん。わがままついでにもうひとつ。お義父様とお義母様の病院へ行ってほしいの。」


土屋の運転する車はそのまま勅使河原夫妻のいる病院へ。瀬里菜はチャイルドシートに乗せるときに多少ぐずりはしたが⸺ミアが「おじいちゃまとおばあちゃまに会いに行きましょう?ね?」と諭すとおとなしく座ってくれた。

「差し出がましいようですが…私の方から奥様に事情は話しました。大変に取り乱されて…鎮静剤を射たれましたが、どうにか今は落ち着いているかと…。」

土屋がそっとミアに話しかける。

「そう…。そうよね…。お義父様に続いてあの人まで…あんなことを起こしたと知ったら…無理もない話だわ…」

ミアは力なく答える。

(それでも…私は向き合わなければならない。どんなに辛い現実でも…この子を育てるために…。)

ミアは伏し目がちにしていた目をスッと見開くと、瀬里菜の小さな手を握りながら前だけを見据えていた。


病院へは1時間もかからずに到着した。ミアと瀬里菜はまず宗子の元へ。先日会ったときよりも遥かにげっそりとやつれて⸺それでもにこやかに迎えてくれた宗子を見て、ミアの胸が痛む。

「ごめんなさいね…私達のせいで…あなたまで巻き込んで…すべての始まりは私…あの人の横暴を止められなかった私にある…」

宗子が力なく言うと、ミアは宗子の手を取りこう言った。

「違います。私、思うんです。人って…誰しも心の奥底に仄暗い何かを抱えてるんだって…私は瀬里菜のことをとても愛してるけど…でも、時々どうしてこんなに言うことを聞かないんだろう、って…手が出そうになる…。幸いにもブレーキが効いて踏みとどまれるけど…何かのきっかけでそのブレーキが壊れてしまうことが…あると思うんです…正隆さんもそうだったように…。」


ミアのその言葉に土屋は深く俯いた。

(ブレーキになる人間が…必要なこともある…ここにいる全員がそれになり得なかったことも…この方は…承知の上で仰っている…)

ミアは瀬里菜を抱きかかえると「さて。」と一言。

「お義父様に会って来ます。」


精神科病棟。ナースステーションで看護師から声をかけられる。

「小さいお子様には…些か…」

そこの言葉をミアは微笑みながら跳ね返した。

「大丈夫。幼いからこそ…きちんと理解させておかなくちゃ。」

男性看護師に付き添われ、正嗣の病室に。

正嗣は指を咥えながらキョロキョロとしていたが⸺ミアを見るとその指を前方へ向けて一言。

「この間の外人さんだ!!」

瀬里菜は不思議そうな顔をしている。

ミアは諭すようにゆっくりと瀬里菜に語りかける。

「瀬里菜。おじいちゃまはね…ここ…」と言いながら瀬里菜の小さな胸を指差す。「心のご病気なの。瀬里菜もママに怒られたり、お友達と喧嘩したり…そういうことでここかチクチクしたり、するでしょう?おじいちゃまはね、もっともっと大きな辛いことに遭われて…心が大怪我をしてしまったの。だからね…怖くはないわ…。」

ミアがそう言うと瀬里菜は、

ごそごそと小さなポシェットを漁る。そして何か取り出すと正嗣に手渡した。

「おじいちゃま、これ…。小さいのしかないけど、私のお気に入りなの。あげる。」

そこにはキャラクターの描かれた小さな絆創膏が5枚。

正嗣は絆創膏と瀬里菜を交互に見ると⸺目を輝かせてこう言った。

「かわいい!いいのかい!?僕これ…大切に使うよ…!ありがとう!また来てくれる?」

その様子を信じられないと言った風に男性看護師は見ていたが⸺我に返るとミアに時間を告げる。

「5分が過ぎました。ご退室願います」


ミアと瀬里菜は宗子に簡単な挨拶をすると土屋と滞在しているホテルへ向かう。

ミアの顔は⸺それまで庇護されていた強大な夫であり父であった正隆がいなくともやっていける。強くなれる。そんな晴々とした顔をしていた。

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