表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/41

not say good-bye,I just say hello again

その後はバタバタと忙しなく過ぎていった。

椿の亡骸は島谷の伝手でエンバーミングが施され、横浜の外国人墓地に土葬が決定した。法律上の問題は幾つかあったが⸺横浜にいる西村も協力し、あのテーマパークの惨劇から5日後には埋葬が決まった。

横浜まで霊柩車が椿を輸送していく。その後ろに島谷の車。もちろん桂も一緒に。

「いやぁ、何とか空きがあってよかった…。ねえ、桂くん。あの子の母親…百合子さんもロンドンで土葬されて眠ってる。椿ちゃんがね…猛抗議したんだ。アタシのママを燃やすな、って…。」

島谷がそう語りかけると、桂は微かな笑みを浮かべてこう言った。

「椿らしいですね…本当に…どこまでも…」


都内から車で2時間半。横浜郊外の外国人墓地。

先に到着していた西村はシワ1つない喪服に身を包み、神妙な顔をしている。

西村は到着した島谷と桂に気づくと顔を上げて、再び深々と頭を垂れた。そして煙草をふかしながら独りごちる。

「なんで若いモンは…死に急ぐかね…俺みたいな老いぼれがいつまでも永らえて…」

煙と共にその言葉が空へと浮かぶ。

すると島谷はその場で傅き⸺深々と頭を垂れた。

「守れませんでした…守りきれませんでした…申し訳ないでは済まない…」

桂はそんな二人を見つめていた。

(もしかして…。)一つの考えが頭をよぎる。

「西村さん、あなたは…椿のお母さんの…お父さん…つまりお祖父さん…なんですか…?」

桂は慎重に言葉を選び西村に問いかける。

西村は一瞬の沈黙のあと、こう返した。

「いや、違う。俺はな、百合子の伯父…つまり椿の大伯父だな。兄さん⸺つまり椿の祖父は10年前に白血病であっけなく逝ったよ。」


(そうか、だから…。あのとき西村さんのお店で感じた懐かしさみたいなものは…血縁、だったのか…)

桂は島谷と同じように西村に傅くと深々と頭を垂れ、こう言った。

「守れなかったのは俺もです。椿の気持ちに気づいていて…自分の気持ちにも気づいていながら…それを口にしないまま…椿を死なせてしまった…俺がもう一歩勇気を出していれば…もう少し幸せに椿は…死ねたかも知れないのに…。」

西村は傅く二人の肩にぽん、と手を置くと一言。

「ほら、墓掘り人が来たぞ。」


椿が納められたオークの柩に土がかけられてゆく。西村はガサガサと手にした紙袋を漁ると、赤い椿の花を一輪とりだして、無造作にそこに放り投げる。

無造作だけれども⸺そこには不器用な愛情が込められていた。

埋葬が終わり、3人手を合わせる。

霊園の木立がざわざわと揺れ、手向けられた花々に蝶が舞う。

(さよならは言わない。また…きっと何度も来るから。そのたびに俺は…君に言うんだ。ハロー、椿、って。)

記憶の中の椿が微笑む。出会いからたったの2ヶ月少し。それでも⸺桂の心の大半は椿で埋め尽くされている。睨みつけられたり…子供のようにはしゃいだり…かと思えば泣いたり怒ったり…頬にキスをされたときの真っ赤な顔が浮かび上がると桂の胸にこみ上げるものがあったが⸺桂はそれをぐっと飲み込んだ。


3人、ほぼ同時に顔を上げたその時だった。桂はゆっくりと口を開く。

「お二人にお願いがあります。まず、島谷さん。俺をKing's Crossで雇ってください。退職届はwebで提出しちゃいました。そして⸺とことん鍛え上げてください。実家にも暫く帰れないと言ってあります。そして⸺彫ってくれませんか。俺の右肩に椿と同じものを。左の肩には真っ赤な椿の花を。」

島谷が答える間もなく桂は今度は西村に頭を下げながらこう言った。

「西村さん。料金は俺が必ず払います。俺がある程度鍛えあげられたら…俺に合うベストを一着。夜の街で働くには必要だと思うから…お願いできますか…。」

暫しの間。

島谷がゆっくりと口を開く。

「一筋縄ではいかないよ…夜の世界も…鍛え上げるのも…。そして何より墨を入れるのも…。僕は百合子さん同様昔ながらのやり方だ。レーザーは使わない。それでもいいのなら彫ろう。そして…3年だ。3年の猶予をあげよう。それで君が使い物にならないのなら切り捨てる。それでもいいかい?」

桂はまっすぐ島谷の目を見据えて頷く。その目には揺るぎない決心が宿っていた。


そのやり取りを見ていた西村もまた口を開く。

「3年…生き永らえなきゃなんねえじゃねえか…面倒くせえ。さっさと使い物になれよ。」

三人は揃って墓地を後にする。

桂は一度振り返ると⸺右手を大きく降ってこう言った。

「また来るから…俺の最愛の、椿。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ