表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/41

パレードの終焉

「ご来園中の皆様にお知らせします!このあと11:30よりメインストリートにおきまして、パレードが通過いたします。11:15より規制線が貼られますので、ご移動の際はお急ぎいただきますよう…」

クルーズ船から降りてすぐ。響き渡る場内アナウンスに椿は目を輝かせる。

「おい!アトラクションもいいけど…パレード見たいよな!?な?」

その顔はクルーズ船にいた女子高校生たちよりもキラキラと輝いて⸺今にも駆け出していきそうだ。

そんな椿に気圧されるように桂は苦笑すると、

「はいはい。いい場所取れるように今から移動しようか、ね、島谷さん?」と島谷にも確認を取るが⸺返事がない。島谷は口元に手を当て何かを思案しているようだったが、ハッと我に返ると笑顔でこう答えた。

「もちろん。さ、急ごうか。」


アナウンスは正隆一行の耳にも飛び込んできた。

瀬里菜が「パレード!ねえパパ、パレードですって!!」と目を輝かせる。正隆は前方を歩く「赤」を見据えていたが⸺ふ、と表情を柔らかくすると瀬里菜を抱き上げて一言。

「ここのパレードはすごいぞ、プリンセス。さあ、今のうちに場所取りだ。」

正隆の杖がキシ、と、不穏な音を立てる。ミアは愛する夫と愛娘を見ていたがその音に得体の知れない微かな恐怖を感じていた。


椿はメインストリートの外周ど真ん中の一番前の席を獲得し、今か今かとパレードを待っていた。

⸺やや引きずられるようについてきた桂は息を上げていたが。

その時だった。トントン、と椿の肩を柔らかいものが軽く叩く。

振り返るとそこには先程アイスクリーム屋で出逢った淡い水色のドレスの幼子⸺瀬里菜が立っていた。

「椿お姉ちゃん…!また会ったわね!」

満面の笑みの瀬里菜の頭を椿はそっと撫でると、

「よお。プリンセス・セリナ。パレード見学か?」と尋ねる。

「そうよ。パパから聞いたけど、キラキラのステージが何台も移動して…キャラクターやプリンセスたちが手を振ってくれるんですって!!だからね…急いで来たの。そしたら椿お姉ちゃんがいるんですもの!」

瀬里菜はうっとりとした表情で椿の赤い髪を見つめている。

「瀬里菜!もう、一人で行っちゃだめでしょう?」

息を切らしてブロンドの女性がやってきて⸺瀬里菜を抱き上げると椿に頭を下げる。

「ごめんなさい。うちの子が…。」

それを見た椿はニカッと笑うとこう言った。

「いーのいーの。子供は元気が一番。それにアタシら、もう友達だよな?プリンセス・セリナ。」


ざわざわとした喧騒の中、椿は瀬里菜を膝にのせて桂と島谷に説明する。

「アイスクリーム屋で会ったんだ。こちらプリンセス・セリナ。プリンセスだぞ?丁重に扱えよ?」

そう言うと膝の上の瀬里菜はふふ、とはにかむ。

島谷は傅き、「そうでしたか。姫君。と、そちらは⸺姫君のお母上で?」とミアの方を見る。

ミアは照れ臭そうに微笑むと、

「はい。ミアと言います。カリフォルニアから家族旅行で…ねえ、あなた?」と正隆を呼ぶが⸺そこに正隆の姿はなかった。

「あらやだ…はぐれたのかしら…」と不安げなミアに桂が話しかける。

「大丈夫ですよ。いざとなれば迷子放送がありますし…って、大人に対して迷子放送はないですよね…」


そんなやり取りを横目に島谷はあたりを見渡す。

クルーズ船にいた少女と母親。

ならば。

あの杖の男が父親のはず。警戒だけは解いてはいけない。

しかしパレード待ちの人々は予想以上に多く、島谷はその姿を捕らえることはできなかった。

島谷はそのまま静かに列から離れると、杖の男を探しにゆっくり、ゆっくりと後ずさる。


賑やかな音楽が流れ、カラフルな台車が何台もやってくる。

「わぁ…!!」瀬里菜は椿の膝から身を乗り出してそれに釘付けになる。

軽快に踊るダンサー。台車の上から手を降るポップなキャラクター。美しいプリンセスたち。椿も桂も、そしてミアもキャストに促されるがまま手拍子でパレードを見送る。

「素敵!!素敵!!ねえ、お姉ちゃん!本当に素敵だわ!!」

瀬里菜は興奮冷めやらぬ様子ではしゃいでいる。

時間にして15分程。

最後の台車が去ると、人々は散り散りにめいめいの目的の場所へと移動していく。

「さて、プリンセス・セリナ。パレードはおしまいだ。パパはどうしたかな?」

椿が瀬里菜を高く抱き上げてそう言うと正反対の規制線を越えてゆっくりと⸺正隆が近寄ってきた。

「どうも…娘がお世話になりましたね…」

その表情にはなんの感情も含まれていない。

「あなた!一体何を⸺」

ミアがそう言ったときだった。

カラン、と乾いた音がしたかと思うとドス、と肉を割く音。

その瞬間島谷が走ってきて正隆に飛び蹴りを食らわせるが⸺

椿の腹には深々と鷲頭のナイフが刺さっていた。



「え…?」

椿は思わず自分の腹を見る。

ドクドクと流れる血。

周りからあがる悲鳴。

青ざめるミアと桂。

「椿!!!!」

桂が悲鳴に近い叫びを上げるのとほぼ同時に椿は叫んだ。

「ミア!!プリンセスの目を塞げ!!青ざめてる場合じゃねえ!!早く!!」

その声にミアは弾かれたように瀬里菜を椿から引き剥がすとその目を右手でぎゅっと覆った。

「それでいい…こんなもんは子供に見せちゃいけねえ…」椿はそう言うとガクリと崩れ落ちる。

島谷に制圧された正隆は歪に笑うと、

「ハハ…父さんの仇だ…勅使河原正嗣!その名前に聞き覚えがあるだろう!!」と叫ぶ。


悲鳴と血の匂い。きらびやかなパレードの場は一転して⸺惨劇の場へと変わっていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ