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Who Killed Cock Robin

「あーあ…もう。そっとしてあげられないのかな、あの子は…」

島谷は階段を登っていってしまった椿の後ろ姿を見送り、そっとカウンターに戻って行った。

と、程なくして椿がブーツを鳴らしながら降りてきた。


「桂くんに手荒な真似、しなかったよね?椿ちゃん」

そう島谷が問いかけると椿は

「あ?ウジウジ言ってっから胸ぐら掴んでやった」

と吐き捨てるように言って残っていたジンジャー・エールを一気に飲み干した。

「椿ちゃん…あの子の顔色見たでしょ…胸ぐら掴むのはどうかと思うよ?」

呆れ顔の島谷を椿はキッと睨むと、

「あーうっせー!うるせえよ。ママでもねぇくせに!」

と言ってから、ハッとして顔をそらした。


島谷はゆっくり椿に近づくと、壁に手をついて椿の逃げ道をなくしてから⸺

「そうだね。僕は百合子さんじゃない。でもね⸺君の保護者では、あるんだよ?」

獲物を狙う鷹のような目に椿は視線をそらす、が。島谷はその顔をぐいと掴むとこう続けた。

「ここに置いてる恩を着せるつもりもない。僕が望んだことだしね。でもね、椿ちゃん⸺さっきも言ったけど僕は君の保護者だ。親代わりなんだよ。叱られてるときぐらいちゃんと目を見なさい。」

一瞬の間。先程まで磨かれていたグラスが静かに輝いている。

「ぁ…悪かった…じゃない、ごめん…。」

島谷の剣幕にやっとのことで椿が声を絞り出すと島谷はぱっと手を離し、「うんうん、それでよし」と微笑んでこう続けた。「桂くんの様子見てくるからね。椿ちゃんはそこで待機。OK?」

「…わーったよ…大人しくしてればいいんだろ」

椿はすねた子供のように頬を膨らませて答えた。


「桂くん、入るよ。具合は…よくなさそうだね…」

島谷はベロアのソファにうずくまったままの桂に歩み寄ると、ゆっくりと背中をさすった。

「島谷さん…俺…」と口を開く桂に、「無理しなくていいよ。落ち着くまで何も話さなくていい。言ったよね、君が話したくなったら聞くよ、って。」と島谷は子供をあやすように囁く。そしてこう続けた。

「桂くんは22歳だっけか。法的には大人だけどね、僕は⸺あくまでも僕の意見として聞いてほしいんだけど…まだ甘えるときがあってもいいんじゃないかな。実際僕も22歳の頃はだいぶ荒れてて、両親を困らせたりもしてたしね。あ、これ椿ちゃんには内緒ね?あの子は相当なはねっかえりだから。シー。」

口元に指を当ててそう言った島谷を桂はぼんやりと見る。

夜の世界を生き抜いてきた男。大きな肩幅に、年齢相当ににじみ出る雄としての色香。

「俺…は…島谷さんみたいな男に、なれるんでしょうか…ナヨナヨしてて、卑怯で…俺は…」

そう言った桂に島谷は笑いながらこう答えた。

「僕みたいに?やめたほうがいいよ。こんなろくでもない大人は一番手本にしちゃいけない。親御さんが悲しむよ?」

カラカラと笑う島谷に桂はゆっくりと口を開いた。


「俺…今日専務と、昼に鰻食べに行って…でもその専務は…俺が椿と出会ったときに…耳を喰い千切られてた人、で…それで…君は何も見なかっただろう?って…。俺…見たのに…見なかったとしか…言えなくて…椿に対して…申し訳なくて…それで…」桂の目に涙が滲む。

「俺は…卑怯です…あのとき自分の保身しか考えられなくて…なのに…誰かに助けてもらいたくて…ここに…来てしまいました…すみません…」

そこまで話すと、ぽた、ぽた、とベロアのソファにシミができていく。

島谷は「そっか…」と短く一言言ったあと、こう続けた。

「よく話せたね…大変だったろうに…いいんだよ…僕は君を責めないし、多分椿ちゃんも責めない。話して少しはスッキリできたかな…」


(情けない…俺は…。本当にどうしようもなく…)

ベロアのソファにどんどんシミが広がっていく。

島谷は桂に新しいタオルを手渡すと、

「泣いていい。落ち着くまで。ね。男だから泣いちゃいけない法律なんてないんだから。」そう言って部屋をあとにした。

(誰がコマドリ殺したの…か。椿ちゃん絡みとなるとその専務ってやつは…もう1回リストを見たほうが良さそうだな…)

静かに階段を降りて行きながら島谷の瞳には、微かな炎が宿っていた。

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