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8話 進化条件


屋上の扉の向こうで、また慌ただしい足音がした。


茜と剣が同時にそちらを見る。

霊山も反射的に振り返った。


誰か来る。


教師か、生徒か、それとも別の誰かか。

どちらにしても、このまま屋上にいればまずい。


剣がすぐに低い声で言った。


「新。もう行け」


茜がはっとして剣を見る。


「でも――」


「見つかったら面倒どころじゃ済まねえだろ」


その言葉に、茜は唇を噛んだ。

分かっているのだろう。今ここで霊山が他の教師や生徒に見つかれば、また新宿みたいな混乱が起きるかもしれない。


霊山も、そう思った。


会えた。

無事も分かった。

でも、ここに長くいられるわけじゃない。


霊山は2人を見た。

言いたいことは山ほどあるのに、何ひとつ口にできない。


その沈黙を破ったのは、茜だった。


「……絶対、また来て」


霊山の意識が止まる。


茜は震えていた。

怖くないわけじゃない。混乱していないわけでもない。

それでもまっすぐ霊山を見て、言った。


「今は分からないことだらけだし、何もできないけど……それでも、また来て」

「ちゃんと、また会いに来て。来なかったらはったおすから」


霊山は強く頷いた。


胸の奥が熱くなる。

戻ってきていいのだと、そう言われた気がした。


剣はそんな茜を一瞬だけ見てから、いつもの調子で言った。


「次来るときは、もう少し何とかできる方法考えとく」

「あんまり来るの遅かったら俺らがお前に会いに行くからな」


その言い方は、いつも通りだった。

でも、今の霊山にはそれが妙にありがたかった。


喋れなくても。

触れられなくても。

この2人は、ちゃんと自分を新として見てくれている。


扉の向こうで、金属のきしむ音がした。

もう時間がない。


霊山は一歩下がり、2人を見つめたあと、最後にもう一度だけ頷いた。


茜が小さく「またね」と言う。

剣は何も言わず、ただ片手を上げた。


その仕草だけで十分だった。


霊山は屋上の端から身を翻し、校舎の外へ滑り出した。


風は感じない。

けれど、自分が前へ進んでいることだけははっきり分かる。


学校の建物が少しずつ遠ざかっていく。

霊山は一度だけ振り返った。


あそこに、守りたい相手がいる。


その事実が、心の奥に重く、けれど確かに沈んだ。


だから、強くならなきゃいけない。


喋れるようになるためだけじゃない。

次に会ったとき、今度こそちゃんと守れるようになるために。


霊山は人気のない校舎裏へ降りた。

まだ空は明るい。遠くからはサイレンが途切れず聞こえてくる。世界は壊れたままで、少しも落ち着く気配がない。


霊山はそこで、改めて青白い板を呼び出した。


【ステータス】


名前:霊山 新 Lv02/20

種族:ゴースト


HP:12/12

MP:2/16

攻撃力:2

防御力:2

俊敏:14

魔力:12


スキル:霊体/憑りつくLv1/闇魔法Lv1/物理攻撃無効/進化ガイド

称号:ファーストデッド



先ほどは気付かなかったがMPが増えている。

新宿でステータスを見たときは、確かに空だったはずだ。

いつの間にか、ほんの少しだけ戻っている。

時間が経てば自然に回復するらしい。


次に、進化ガイドへ意識を向ける。


【スキル『進化ガイド』を起動します】


【前回検索条件】

発声機能を獲得可能な進化先


【該当進化ルート】

ゴースト → レイス → リッチ


【次段階進化候補】

レイス


前回と同じ表示。

だが、今知りたいのはそこじゃない。


どうすれば、レイスになれるのか。


霊山がその一点へ意識を向けると、板の表示が切り替わった。


【進化先:レイス】

【進化条件を表示します】


文字がひとつずつ、静かに並んでいく。


【必要条件】

・レベル上限到達



霊山はその文字を見つめた。


レベル上限つまりはLv20だ。


今の自分はLv02。

つまり、まだ全然足りない。

そして、レベルアップには経験値が必要だ。


経験値は、黒狼を倒したときに入った。

なら、答えは簡単だった。


魔物を倒すしかない。


霊山はさらに意識を進化ガイドへ向ける。


【経験値取得方法】

・魔物の撃破


撃破。

やっぱりそうだ。


今の自分がレイスになるには、戦わなきゃいけない。

新宿でみたいに、偶然目の前に敵が現れるのを待っているだけじゃ足りない。


自分から、狩りに行く必要がある。


霊山は静かに画面を閉じた。


喋れるようになるために。

守れるようになるために。

その最初の一歩が、レベル上げ。


では、どこへ行く。


一瞬だけ考えて、答えはすぐに出た。


新宿だ。


今、霊山が確実に場所を知っているダンジョンは、新宿東口のあの門しかない。

門の中がダンジョンになっていることも、茜が教えてくれた。

他にも各地に門はあるだろう。けれど、場所が分からない以上、探している時間はない。


だったら、今行くべき場所はひとつしかない。


新宿ダンジョン。


あそこが、自分にとって最初の狩場になる。


霊山は学校の方角をもう一度だけ振り返った。


また来て。

次来るときは、もう少し何とかできる方法考えとく。


その言葉が、まだ胸の奥に残っている。


戻るために行く。

喋れるようになって、今度こそちゃんと話すために。

守れるだけの力を持って、またここへ戻ってくるために。


だけど、定期的に帰らないと、あいつらなら本当にダンジョンに来かねないから注意しないとな。


霊山は気を引き締め直して、視線を前へ戻した。


道はもう見えている。


あとは進むだけだ。


霊山は、新宿の方角へ向かって空を滑り出した。

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