41話 緊急事態
更新してなくて申し訳ありません。本日から再度投稿していきます。10話ほどは書き溜めてありますので、ストックが切れるまでは、毎日投稿します。
扉の外で、ばたばたと慌ただしい足音が止まる。
続いて、今度は控えめなノックもなく、扉が勢いよく開いた。
別の研究員だった。
若い男だ。
顔色が悪い。
「志村主任、すみません、緊急です!」
部屋の空気が一瞬で変わる。
志村さんが眉を寄せた。
「何だ」
「第三区画の訓練班で連絡断続が起きています。誘導班一名が負傷。候補者二名が、罠の作動で想定位置より深部側へ飛ばされた可能性が高いと」
海が椅子から身を起こす。
「罠で飛ばされたの?」
「はい。まだ断定はできませんが、現場の反応記録から見て、転移系か落下系の罠の可能性が高いそうです」
志村さんはすぐに立ち上がった。
「冒険者の位置が分かる地図を出せ」
若い研究員が慌ててタブレットを操作し、壁際のモニターへ繋ぐ。
簡易地図が映る。
管理区域。現在位置。誘導班。候補者。
その中で、二つの反応だけが本来の位置から外れ、深部側で赤く点滅していた。
俺はその赤い点を見た瞬間、胸の奥がざわついた。
理由なんていらない。
嫌な予感だけが、先に来る。
「被害にあった冒険者だれだ」
志村さんの声に、若い研究員が答える。
そこに出た名前を聞いた瞬間、思考が止まった。
柳葉 剣
青桐 茜
次の瞬間には、俺は反射的にモニターの前まで飛んでいた。
何度も、何度もその名前を指す。
部屋の全員の視線が俺に集まる。
海がはっとした顔になる。
「……知り合いなの?」
俺は強く頷いた。
間違いない。
剣と茜だ。
志村さんがその反応を見て、すぐに顔色を変える。
「……霊山の幼馴染か。お前の『一件』がきっかけで冒険者を志したっていう、あの二人だな。その背景から業界じゃちょっとした有名人だが……まさかここで繋がるとはな」
槙野さんも目を見開いた。
「じゃあ、この二人……霊山さんの」
俺はもう一度、強く頷いた。
喉の奥が、ひどく重い。
海がモニターを見つめたまま、低く言う。
「どこまで飛ばされたの?」
「6階層だと推測されています。ただ、正確な現在地点はまだ絞りきれていません」
「最悪ね……」
槙野さんが唇を引き結ぶ。
「訓練でそんな場所まで飛ばされるなんて……」
志村さんは腕を組み、モニターを睨んだ。
「護衛班との距離は」
「追ってます。ただ、6階層にはまだ、行ったことがある人はいないので、追えていません……」
その言葉を聞きながら、俺は画面の赤い点から目を離せなかった。
助けに行かなきゃならない。
その考えだけが、頭の中ではっきり形になっていく。
海が俺を見る。
「助けに行きたいのね」
俺は迷わず頷いた。
志村さんが即座に言う。
「駄目だ」
海が顔をしかめる。
「言うと思った」
「戻ってきたばかりのお前と、正体不明の協力個体を、今すぐ別の現場へ放り込めるわけがない」
正論だ。
たぶん。
でも、納得できるわけがなかった。
俺は海に憑りつく暇も惜しんで、そのまま扉の方へ飛び出そうとした。
「おい、待て!」
志村さんが鋭く制止する。
だが、止まるつもりはなかった。
今すぐ行かないとまずい。
それだけが頭の中を埋めている。
志村さんは舌打ちしかけた顔で俺を見た。
「……止めても無駄か」
そこで一度、深く息を吐く。
「ったく、焦る気持ちは分かるが、お前、場所も分からんだろうが」
その言葉で、俺ははっとする。
慌てすぎて場所すらわかっていなかった。
このまま飛び出したところで、たどり着ける保証はどこにもなかった。
志村さんは呆れたように額を押さえ、それでもすぐ若い研究員へ向き直る。
「現場指揮に回線を繋げろ」
「え?」
「早くしろ。場所も状況も分からんまま突っ込まれても余計に面倒だ」
若い研究員が慌てて頷く。
「は、はい!」
海は静かにモニターを見たまま言う。
「次は、私があなたを助ける側よ」
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