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36話 決着



青い核が砕けた直後、四相樹王の動きが目に見えて変わった。


裂け目の奥から噴き出していた水の気配が消え、代わりに赤い光が不安定に明滅する。

枝の先で燃えていた炎が、今までよりも荒々しく揺れていた。


一度、海の話を聞くために、憑りつきを解除する。


海がすぐに青白い板へ意識を向ける。


「青の核が壊れたわ……!

これでもう、水で火を打ち消せないはず」


それを聞いた瞬間、勝ち筋が一段はっきりした。


だが、四相樹王はまだ止まらない。


緑の光が脈打つ。

裂け目の内側、青い核のあった周辺を埋めるように、樹液がじわじわと盛り上がっていく。


再生だ。


海が低く言う。


「緑の核が再生を担ってる

青の核が壊れても、緑がある限り立て直してくる……!」


そして、黄色の光が脈打つと同時に、床を這う根がさらに太くなった。

石床を割る音。

枝の付け根を覆う樹皮も、わずかに厚みを増している。


「黄の核は土を通じて、根と外殻を強化してる」



なら次は、緑の核だ。


俺は海を見る。

海も同じ結論に達していたらしい。


「火炎筒を緑の核に叩き込みたいけど。その前に黄の殻を剥がさないと届かない」


回りくどい。

でも、それしかない。


四相樹王がこちらへ向き直る。

緑と赤が同時に脈打ち、燃える枝と根が一斉に襲いかかってきた。


俺は迷わず海へ憑りつく。


海のケースの中身を確かめる。

残っているのは、火炎筒が一本。月下草の粉末。鉱石の欠片。魔石の粉。

そして、樹液凝固剤の瓶の底に残った少量の液体。


配合レシピで作れるものを確認する。

いける。


まずは、殻を剥がす。


俺は四相樹王の裂け目へ向かって一気に踏み込んだ。


黄色の光が強く脈打つ。

床から土の槍が突き上がる。


右へ。

左へ。

紙一重で躱す。


だが、根の一本が足首へ絡みついた。


一瞬、止まる。


まずい。


次の瞬間、燃える枝が横殴りに薙いだ。


避けきれない。


海の体が吹き飛び、石床を転がる。

肺の中の空気が無理やり押し出された。


その痛みの一部が、そのまま俺自身にも返ってくる。


【HP:15/20 → 13/20】


「っ……!」


きつい。


先ほどの樹兵はどれだけ、攻撃を受けても俺がダメージを受けるだけだったが、海の体ではそうはいかない。

海の体のHPがなくなったら、海が死んでしまう。


俺はすぐに起き上がった。

海の体で脇腹を押さえながら、裂け目の奥を見る。


見えた。


緑の核は、黄の樹皮に半ば覆われている。

殻みたいに閉じて、火を通さないよう守っている。


あれを剥がす。


俺は残っていた鉱石の欠片を掌に集めた。


【錬金を発動しました】


短く平たい、刃みたいな金属片ができる。

即席の削り刃。


四相樹王が再び枝を持ち上げる。

今度は正面からだ。


遅い。今なら、まだ間に合う。


俺は身を低くして懐へ滑り込む。

裂け目の縁へ手を伸ばし、その黄色い樹皮へ削り刃を叩きつけた。


樹皮の表面にひびが走る。


さらにもう一度。

削る。

裂く。

剥がす。


緑の光がむき出しになる。


その瞬間、四相樹王が怒り狂ったみたいに全身を震わせた。

根が波打ち、燃える枝が頭上から叩きつけられる。


俺はとっさに飛び退く。


だが、完全には逃げ切れなかった。


燃える枝先が海の左肩をかすめ、焼けるような痛みが走る。


【HP:13/20 → 11/20】


まずい。


削られてる。


けど、緑の核は見えた。


そこへ、海の意識が押し上がるみたいに伝わってきた。

言葉にはならない。

それでも分かる。


今。

火炎筒を使え、と。


分かってる。


俺はケースから最後の火炎筒を抜いた。


四相樹王の根がこちらへ殺到する。


時間がない。


俺は海の体を無理やり前へ出した。


一歩。

二歩。

三歩。


裂け目の真正面。


緑の光が、鼓動みたいに脈打っている。

さっきまで青に守られていた核。

今は、もう露出している。


俺は火炎筒を、そこへ突き立てた。


そのまま、全力で後ろへ飛ぶ。


次の瞬間。


爆ぜた。


火炎筒の炎が、緑の核へ直接食い込む。

樹液凝固剤が燃え広がり、裂け目の内側へ火を張りつかせる。


緑の光が激しく明滅した。


四相樹王が絶叫するみたいに軋む。


再生しようとする。

でも遅い。


青の核は壊れ、水で火を消すことが出来ない。


燃えた火は、そのまま内側へ広がっていく。


海が、俺の中で息を呑んだ気配がした。


緑の核に火が通った。


その瞬間から、四相樹王の再生は明らかに鈍った。


焦げた樹皮が塞がらない。

裂け目の縁が崩れたまま残る。

根の動きが一拍遅れる。


いける。


だが、四相樹王も最後の力を振り絞るように暴れた。


赤い光が脈打つ。

燃える枝が自分の幹ごと焼く勢いで振り回される。


黄色の光が脈打つ。

土槍が無差別に床を穿つ。


俺は海の体で避ける。

躱す。

燃えた体での、無理なあがきには当たらない。



海の体のまま、俺はケースから材料を取り出し握り込んだ。


【錬金を発動しました】


掌の中に、小さな炸裂杭が生まれる。


四相樹王の裂け目は、もう半ば崩れていた。

内側の赤と黄の核もむき出しになっている。


なら、終わらせる。


俺は踏み込んだ。


根が遅い。

枝も雑だ。

緑を失ったせいで、もう連携が崩れている。


裂け目の奥。

黄の光の近くへ炸裂杭を叩き込む。


そして、即座に後ろへ飛ぶ。


一拍遅れて、裂け目の内側で破裂する。


黄の光が砕ける。


支えを失った根が、一気に緩む。

巨体が大きく傾く。


そのまま、内側で暴れていた赤の火が、逃げ場をなくしたみたいに一気に膨れ上がった。


四相樹王の幹が、内側から燃え上がる。


枝が燃える。

根が燃える。

裂け目の奥から赤い光が漏れ、それごと幹が崩れていく。


最後に、緑の光が小さく明滅して消えた。


四相樹王は、その場でゆっくりと崩れ落ちた。


轟音。


石床が揺れる。


それきり、動かなかった。


静かになった。


俺は海への憑りつきを解く。


海が、その場で膝をついた。

肩で息をしながら、焦げた巨体を見上げている。


立ちのぼる残滓が、まだ実感のない俺に、勝利を告げる。


直後、青白い板が浮かんだ。


【レベルが上がりました】


来た。


もう驚きはしない。

削れていた感覚が一気に満ち、HPとMPが戻る。

少しだけ器が広がったのを確かめながら、俺は板へ意識を向けた。


【ステータス】


名前:霊山 新 Lv06/20 → Lv07/20

種族:ゴースト


HP:11/20 → 22/22

MP:12/35 → 40/40

攻撃力:5 → 6

防御力:5 → 6

俊敏:34 → 39

魔力:28 → 32


【称号『勇気の力』を獲得】

【称号『試練達成者』を獲得】


海はまだ呼吸を整えながら、焦げた四相樹王を見ていた。


「……あなたといると退屈しないわね」


そう言って、海は少しだけ笑った。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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