34話 隠しボス
石床を割って、太い根が這い出してくる。
一本じゃない。
何本もだ。
絡まり合い、捻れ、盛り上がりながら、中央で巨大な塊を形作っていく。
やがて、それはゆっくりと立ち上がった。
木だ。
だが、さっきのトレントとは比べものにならない。
幹は何人もの人間が腕を回しても抱えきれないほど太く、枝は腕というより巨人の槍みたいに長い。
根は足元でうねり、石床そのものを握り潰すみたいに食い込んでいる。
幹の中央には、裂け目みたいな空洞があった。
その奥で、赤、青、黄、緑の四つの光が、心臓みたいに脈打っている。
海が、青白い板を見たまま息を呑んだ。
「……四相樹王」
王。
隠しボスにふさわしい名前だ。
四相樹王は、ゆっくりと枝を持ち上げた。
その先端が、まるで刃みたいに細く鋭く変形していく。
次の瞬間、青い光が強く脈打った。
水弾。
飛んできたそれを、俺は反射で横へ飛んで避ける。
石床が抉れ、水しぶきが散る。
続けざまに、今度は太い枝が振り下ろされる。
重い。
オークの一撃を思い出すような、真正面から叩き潰す力任せの攻撃。
俺は危険を示すように海の前へ出る。海も察したのか、すぐに後ろへ跳んだ。
枝が床を叩き割った。
「っ……!」
海が息を呑む。
俺は歯を食いしばる。
でかい。
強い。
だが、まずは相手を知る。
俺は意識を伸ばし、四相樹王へ憑りつこうとした。
ぬるり、と沈みかけて。
次の瞬間、弾かれた。
バチッ、と頭の芯を叩かれたみたいな衝撃。
「っ……!」
意識が引き剥がされ、俺は数歩よろめいた。
無理だ。
あれには、普通に憑りつけない。
海がすぐに俺の異変に気づいたらしい。
「どうしたの!?」
俺は四相樹王を指してから、自分の胸元を叩き、首を横に振る。
憑りつけない。
海の目が細くなった。
「拒絶されたのね」
そのまま左手を前へ出す。
海の前に青白い板が浮かぶ。
四相樹王が、今度は緑の光を強く脈打たせる。
幹の焦げたような部分が、みるみる塞がっていく。
再生。
海はそのまま青白い板を見つめ、低く吐き出すように言った。
「樹木型。根で拘束、枝で打撃。ここまではトレントに近い。
でも、それだけじゃない……中心の四つの核、それぞれ反応が違う」
四相樹王の枝が再び持ち上がる。
今度は赤い光が脈打った。
枝が燃えた。
火まであるのかよ。
海が、舌打ち混じりに続ける。
「青が水。赤が火。黄は土。緑は再生寄り……!
今までのレア個体の特徴が混ざってる!」
その言葉で、俺も理解した。
コボルト、オーク、リザードマン、トレント。
全部、今までのレア個体の面倒な部分だけを寄せ集めたみたいな化け物。
四相樹王がゆっくりとこちらを向く。
逃げ場はない。
上にも下にも行けない。
だったら、やるしかない。
海がケースを開いた。
「ボス専用の特効薬なんて無理よ。
でも、植物の組織を固める薬剤くらいなら作れる」
海は月下草の切れ端、青い鉱石の粉、魔石の欠片を足元へ並べた。
左手で触れ、意識を集中する。
【錬金を発動しました】
淡い光。
素材が混ざり合い、小さな金属筒が二本と、粘度の高い緑灰色の液体が入った小瓶ができる。
海が短く説明した。
「こっちは火炎筒。
こっちは樹液凝固剤。再生も動きも、少しは鈍らせられるはず」
かなり汎用的だ。
でも、今はそれで十分だった。
四相樹王が、今度は黄色い光を脈打たせる。
床が盛り上がる。
土の槍が石床を割って突き上がった。
「ほんとに全部盛りね……!」
海が悪態をつきながら、炸裂筒を握り直す。
四相樹王が、さらに枝を振り上げる。
まともに海へ入って戦っても、今の相手は重すぎる。
本体には憑りつけない。
なら、別の手だ。
俺は部屋の隅へ意識を広げた。
何かいる。
小さいが、魔物の気配だ。
四相樹王の根元。
床から突き出た細い苗木みたいなものが、もぞりと動く。
あれだ。
俺は迷わず飛びついた。
ぬるり、と意識が沈む。
【スキル『憑りつくLv3』】
【対象:樹兵】
【干渉率:中】
軽くはない。
だが、動かせる。
細い木の腕。
根を引きずる足。
遅い。
使いにくい。
それでも、今は十分だ。
俺は樹兵の体で横から飛び出し、四相樹王の視線を引くように動いた。
太い枝がこちらへ振り下ろされる。
重い。遅い。だが広い。
まともに食らえば一発だ。
俺はぎりぎりで躱し、その隙に海が大きく回り込む。
ケースを抱え、左手で中央の裂け目を見据えている。
いい。
そのまま見ろ。
俺はさらに樹兵の体で突っ込んだ。
今度は青い光が強く脈打つ。
水弾。
避けきれない。
樹兵の体が真横から吹き飛ぶ。
木片が散る。
その衝撃の直前に、俺は憑りつきを解いた。
間一髪だ。
砕けた樹兵の残骸が転がる横で、海が叫ぶ。
「分かった! 青い核が火を殺してる!
普通に燃やしても、水が回る限り打ち消される!」
やっぱりそこか。
海は樹液凝固剤の小瓶を握り直し、目を鋭くした。
「でも、逆に言えば――先に青を壊せば、火が通る」
四相樹王の根が、一斉にこちらを向いた。
時間がない。
俺は次の取り憑き先を探しながら、海の前へ回る。
まずは青い核。
話はそれからだ。
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