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25話 痕跡

3階層へ降りた瞬間、空気が変わる。


壁には黒ずんだ苔のようなものが張りつき、足元の石はところどころ濡れていた。遠くで水滴の落ちる音がしている。洞窟系なのは変わらないが、少し踏み外せば滑りそうな嫌な足場だった。


いつも通り、この階層の情報を調べるために、探索を少しして、足を止めた。


階段を降り切ってすぐの床の端。

湿った石の上に、白いものが落ちていた。


布だ。


細長い布切れ。

破れたというより、ほどけて落ちたような形をしている。端には赤黒い染みが残っていた。


血。


霊山はしゃがみ込んで、それを見つめた。


新しい。

完全には乾いていない。


しかも、その布はただの布じゃなかった。

誰かが怪我を手当するために使ったものだ。

巻いていたものが緩んで、途中で落ちた。そうとしか見えない。


視線を上げる。


すぐ先の石床に、ぽたり、ぽたりと暗い染みが続いていた。


血痕。


量は多くない。

だが、途切れず奥へ伸びている。


怪我をしたまま移動している。


霊山は無意識に息を詰めた。


人間だ。


魔物の体から、こんなふうに少量ずつ血が落ちることはない。

それに、布で手当てをするのも人間だ。


誰かがいる。

この3階層に。

しかも、傷を負ったまま。


怪我をしているなら階層を上がった方が安全だが、上へと上がる階段から徐々に遠ざかっている。

魔物に襲われてるのかもしれない。


俺より先に、このダンジョンの中に、入ってる人間が誰だか分からないし、味方か敵かも分からない。


でも、放ってはおけない。


霊山はゴーストの体で血痕の先を追った。


こういう時だけは、霊体の身軽さがありがたい。足音を立てず、魔物が音で近づいて来るようなこともない。


血痕は、ところどころ薄くなりながらも続いていた。


壁際へ寄っている。

足元だけじゃなく、岩壁の低い位置にも擦れたような赤い跡が残っている。


腕だ。


怪我をしているのは腕。

押さえながら進んでいるから、壁にも血がつく。


霊山はそう判断した。


通路の先でゴブリンの気配がした。

霊山は天井近くへ浮き上がり、やり過ごす。

その先にはワイルドウルフの唸り声も聞こえた。

ワイルドウルフは嗅覚強化を持っているので、血の匂いを追って行ってしまうかもしれない。

先程スルーしたゴブリンの元に行き、取り憑き魔法を使い、干渉率を高にする。


そうしたら、ワイルドウルフを倒しにいく。


あまり時間はない、速攻で倒す。

ステータスが上がり、俊敏性でもワイルドウルフに勝っているため、相手の攻撃を避けて、すぐさま棍棒を叩きつける。


それだけでワイルドウルフは動かなくなる。

そして、ゴブリンの体のままでは、敵だと勘違いされてしまう可能性があるため、ゴブリンの体の取り付きを解除する。


再び、血痕追跡に戻る。


道をクネクネと曲がりながら移動している。

傷を負っていても、無策に走っているわけじゃなく、魔物を撒こうとしているのだろうか。

生き延びるために、ちゃんと頭を使っている。


霊山はさらに奥へ進んだ。


曲がり角を1つ。

低い段差を越えた先。

また血痕。


量はやはり多くない。

応急処置はうまくいっているのだろう。

けれど、完全には止まっていない。


そこまで考えた時、霊山は気配を感じた。


近い。


霊山は速度を落とした。

焦って飛び込むのは危険だ。

怪我人ならなおさら、急に現れれば怯えさせるかもしれない。

敵と間違えられてしまっては大変だ。


この先に、人間がいる。


敵か味方かはまだ分からない。

傷を負ってはいるが、それでも3階層を進んでいる人間だ。

決して油断はすることができない。


霊山は気配を殺したまま、開けた空間の方へ近づいていった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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