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22話 分かれと約束


オークを倒したあと、霊山は3階層へ向かうために3階層に続く階段へ向かう。


ゴブゴブもどこか誇らしげだった。

肩を揺らしながら階段へ向かうその足取りは、最初に会った頃よりずっと力強い。


霊山はそんな体の内側にいたまま、小さく意識を緩めた。


一緒にここまで来た。

だったら、3階層も一緒に行ける。


そう思っていた。


だが。


階段を下り、3階層へ続く境目を越えようとした瞬間、ゴブゴブの体が弾かれた。


「……っ!?」


声は出ない。

だが、驚きははっきりあった。


見えない何かにぶつかったみたいに、ゴブゴブの体が後ろへ押し返される。

踏み込み直してもう一度進もうとするが、やはり駄目だ。

階段の途中、そこだけ空気が固まっているみたいに、先へ進めない。


何だこれ。


霊山はゴブゴブの腕を前へ伸ばさせる。

何も見えない。

それなのに、確かにそこに壁がある。


今度は棍棒で叩かせてみる。


鈍い反発音。


見えない壁。

そうとしか言いようがなかった。


霊山は一度だけ憑りつきを解いた。


ぬるりとゴブゴブの体を抜け、自分だけで階段の先へ滑り込む。

今度は何にもぶつからない。

霊体のままなら、普通に先へ進めた。


通れる。


霊山は振り返った。


ゴブゴブは階段の途中に立ったまま、こちらを見ている。

もう一度前に出ようとして、また弾かれる。

苛立ったように鼻を鳴らし、今度は手を伸ばすが、それでも駄目だった。


霊山はそこでようやく理解した。


ゴブゴブは、下へ行けない。


ダンジョンで生まれた魔物は、階層を跨げないのかもしれないし、他に別の理由があるのかもしれない。

でも、目の前の事実として、それだけははっきりしていた。


胸の奥が、すうっと冷える。


「……一緒には行けないのかよ」


声にならない言葉を、心の中だけで呟く。

このダンジョンの中でようやくできた、仲間と別れなくてはいけない、という事実が重くのしかかる。


ゴブゴブはなおも諦めきれないように、何度か階段の境目へ体当たりするように進もうとした。

だが、そのたびに見えない壁に押し戻される。


霊山はゆっくりと階段を上り直し、ゴブゴブの前へ戻った。


どう伝える。

どう分かってもらう。


言葉が使えたなら、どれだけ楽だったか。


霊山は自分を指差し、次に階段の下を指差した。

それからゴブゴブを指し、その場を示す。


自分は行く。

お前はここだ。


ゴブゴブは不満そうに喉を鳴らし、首を横に振った。


嫌だ、と言われた気がした。


霊山は苦く笑う。


俺だって嫌だよ。


それでも、ここで止まるわけにはいかない。

3階層へ進まなければならない。

俺が離れている間に、人間と会って襲ってしまったりしたら大変だ。


霊山は何度も、何度も身振りを繰り返す。


まず、人間。


自分の頭の横に手をやり、髪を示すみたいに動かし、それから小柄な体格を両手で表す。

剣や茜を思い浮かべながら、必死に人の形を作る。


次に、守る。


自分の体を盾にするように腕を広げる。

前へ立つ。

庇う。


それから、攻撃しない。


棍棒を振り上げる真似をしてから、強く首を横に振る。

何度も、何度も。


最後に、自分を指差し、胸を叩き、また階段の下を示した。

それから大きく円を描いて、戻ってくる仕草をする。


今は行く。

でも、外に出る時には戻ってくる。

だから大丈夫だ。


それを伝えたかった。


だが、伝わっているのか分からない。

ジェスチャーだけでは限界がある。

胸の中にある気持ちばかりが空回りして、もどかしかった。


その時だった。


青白い板が、ふいに視界へ浮かび上がる。


【称号を獲得しました】

【魔物の友好者】


霊山は目を見開いた。


さらに文字が続く。


【称号『魔物の友好者』】

【テイム系スキルを使わず、魔物と友好関係を築いた者に与えられる】

【効果:魔物と仲良くなりやすくなる】


【新規スキルを獲得しました】

【意思疎通】


【スキル『意思疎通』】

【言葉を持たない相手にも、感情や大まかな意図を伝えやすくする】


次の瞬間だった。


今までただの身振りだったはずのものが、少しだけ真っすぐ通った気がした。


焦り。

別れたくない気持ち。

でも、行かなければならないという決意。

そして、必ず戻ってくるという約束。


それらが、言葉ではない何かになってゴブゴブへ流れ込んでいく。


ゴブゴブの顔が変わった。


ただ不機嫌だった表情が、戸惑いに変わる。

それから少しだけ俯き、やがて霊山をまっすぐ見返した。


伝わった。


全部じゃなくていい。

大事なところだけでも、届いた。


ゴブゴブはゆっくりと自分の胸を叩いた。

次に通路の方を指差し、それから腕を広げて何かを庇うような仕草をする。


任せろ。


その思いが伝わってきた。


霊山は目を閉じるように意識を沈めた。


「……ありがとな」


今度こそ、それは少しだけ届いた気がした。


ゴブゴブは自分の意志で立ち、霊山を見た。

棍棒を握る手に、もう迷いはなかった。


霊山は自分を指差し、階段の下を示し、それから大きく一周するように手を動かす。


行って、戻る。


最後に、拳を握って胸の前へ出す。


約束だ。


ゴブゴブはしばらくじっとしていたが、やがて力強く胸を叩いた。

それから、不器用に片手を上げる。


またな。


そう見えた。


霊山は笑った。


そして今度こそ、3階層へ向き直る。

1段ずつ階段を下りていく。


途中で一度だけ振り返ると、ゴブゴブはまだそこに立っていた。


棍棒を肩に担ぎ、じっとこちらを見ている。


霊山は小さく手を振る。

ゴブゴブもぎこちなく、でも確かに手を上げ返した。


それを最後に、霊山は3階層へ降りた。


胸の奥にぽっかり穴が空いたみたいだった。

それでも、後ろへ戻るつもりはなかった。


戻る時には、また会える。


その約束を胸に、霊山は3階層へ足を踏み出した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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