19話 影縫い
【スキル熟練度が一定に達しました】
【闇魔法Lv1 → Lv2】
上がった。
霊山はその文字を、しばらく黙って見つめていた。
闇魔法がまた一段進んだ。
視界を曇らせる攪乱。
干渉率を押し上げる精神侵食。
そして、刺し貫く闇の槍。
それだけでも十分に強かった。
そこからさらに何が増えるのか。
霊山は意識を向ける。
【スキル『闇魔法Lv2』】
【闇属性の魔力を操作する】
【新規魔法を習得しました】
その下に、もう1つ文字が浮かぶ。
【影縫い】
【対象の影を一瞬だけ縫い止め、動きを止める】
【消費MP:5】
一瞬だけ。
けれど、その一瞬で勝敗が決まる場面はいくらでもある。
飛びかかる瞬間のワイルドウルフ。
距離を取りたいコボルト。
詠唱のために足を止める相手。
使いどころは多い。
霊山は板を閉じた。
試さないわけにはいかなかった。
通路を少し進んだ先で、ちょうどいい相手を見つける。
ワイルドウルフ。
単独。
通路の広い場所を、鼻を鳴らしながら歩いている。
オークに試す気はない。
コボルト相手も、できれば避けたい。
なら、このくらいがちょうどいい。
憑りついたままの状態で
高干渉のまま、霊山は棍棒を拾わせる。
別の棍棒も拾わせ、背に引っかけるように持たせた。
投げる分と、殴る分。
2本あれば十分だ。
ワイルドウルフがこちらに気づいた。
低く唸る。
身を沈める。
飛びかかる構え。
速い。
だが、今度はその瞬間を待っていた。
前脚が地を蹴る。
体が前へ伸びる。
床へ落ちた影も、同じように鋭く伸びる。
そこだ。
霊山は影へ闇を突き立てた。
【影縫いを発動しました】
ワイルドウルフの影が、石床へ縫い止められたみたいに揺らぐ。
飛びかかった体が、ほんの一瞬だけ止まった。
それだけで十分だった。
霊山は高干渉のゴブリンの体を半歩だけずらす。
牙が鼻先をかすめて空を切る。
避けられた。
ワイルドウルフの肩口ががら空きになる。
そこへ、棍棒を横殴りに叩き込んだ。
鈍い音。
体勢が崩れる。
そのまま追撃。
今度は顎を跳ね上げるように下から打つ。
ワイルドウルフの頭が大きく揺れた。
やれる。
影縫いは、相手をその場に固定する魔法じゃない。
ほんの一瞬、速さを奪うだけだ。
けれど、今の霊山にはそれで十分だった。
高干渉のゴブリンなら、その一瞬をそのまま回避と反撃へ変えられる。
ワイルドウルフはすぐに立て直した。
今度はさっきより慎重だ。
真正面ではなく、斜めから回り込むように距離を詰めてくる。
なら、もう1回。
踏み込み。
影が伸びる。
そこへ、闇。
【影縫いを発動しました】
前脚がもつれる。
ワイルドウルフの体がわずかに流れた。
霊山はその横をすり抜けるように避け、がら空きになった脇腹へ棍棒を叩きつける。
さらに振り返りざまに、背からもう1本の棍棒を抜いて投げた。
投擲スキルで投げられた棍棒は、正確に後頭部へ当たり、ワイルドウルフの体勢をさらに崩した。
そこへ追い打ち。
今度は闇の槍ではなく、棍棒術の連撃を重ねる。
肩。
首筋。
こめかみ。
鈍い音が続き、ワイルドウルフの足元がぐらつく。
最後に、全身を使った横薙ぎが頭部へ直撃した。
ワイルドウルフは数歩よろめき、そのまま崩れ落ちた。
しばらく、その場に音がなかった。
霊山は高干渉のゴブリンの体のまま、ゆっくりと状況を整理する。
使える。
しかも、かなり自分向きだ。
影縫いだけで勝てるわけじゃない。
威力もない。
でも、一瞬の隙を作り、反撃へ繋げられる。
攻撃にも使える。
防御にも使える。
かなり大きい。
青白い板を呼び出す。
【ステータス】
名前:霊山 新 Lv04/20
種族:ゴースト
HP:15/16
MP:13/25
攻撃力:3
防御力:3
俊敏:24
魔力:20
スキル:霊体/憑りつくLv2/闇魔法Lv2/物理攻撃無効/進化ガイド/霊子吸収
称号:ファーストデッド
高干渉にするための闇魔法。
影縫いを2回。
消費は軽くない。
だが、闇の槍を撃たなくても勝てたのは大きかった。
使い方を選べば、かなり節約できる。
憑りつく。
今までの闇魔法。
そこへ、相手の動きを止める魔法が加わった。
ただ強いだけじゃない。
工夫できる。
自分の戦い方に噛み合っている。
霊山はゴブリンの体で、倒れたワイルドウルフを見下ろした。
どうやったら、もっと有効的に魔法を使うことが出来るか、もっと戦って確かめたい。
好奇心に身を委ねて次の獲物を探す。
ほどなくして、壁際を警戒するように進む小柄な影を見つける。
コボルトだ。
単独。
ちょうどいい。
霊山はゴブリンの体を低く沈めたまま距離を詰めた。
コボルトが先に気づく。
黄色い目が細まり、すぐに後ろへ下がりながら火球を作ろうとした。
そこで霊山は、まずコボルトが距離を空けて攻撃するのを阻止するために魔法を使う。
【影縫いを発動しました】
影が揺らぎ、動きが一瞬止まる。
だが、またすぐに後ろに下がろうとする。
そこで、霊山は思いつく、全部を止める必要はない。
コボルトが距離を取ろうと右足を引く。
その瞬間、霊山は影の足元だけを狙った。
【影縫いを発動しました】
右足の影が、石床へ縫い留められたみたいにぶれた。
踏み出すはずだった一歩がずれる。
体重移動を失ったコボルトの体が大きく傾き倒れた。
唱えようとしていた火球が暴発する。
壁を焦がし、通路の端で火花が散った。
そのチャンスを見逃す訳はなかった。
一気に踏み込ませ、まず短剣を持つ手首へ棍棒を叩き込む。
骨に当たる鈍い感触。
短剣が床へ落ちた。
続けざまにもう一撃。
今度は起き上がろうとした肩口。
さらに返す手で、顎を跳ね上げるように打つ。
コボルトは反射的に立ち上がり距離を取ろうとする。
だが、もう遅い。
立て直す前に、霊山は背に引っかけていたもう1本の棍棒を抜き、投擲で膝へ叩き込んだ。
片膝が折れる。
そこへ最後の一歩。
高干渉のゴブリンの全身を使った横殴りが、こめかみに直撃した。
コボルトの体が横倒しに崩れ、そのまま動かなくなる。
しばらく、霊山はその場で止まったまま考えた。
強い。
全体を止めるだけではなく、影の一部分をだけを止めることで、敵のバランスを崩すことが出来る自由度の高い魔法だ。
可能性しかなくてワクワクする。
もっと敵を倒してレベルを上げるために、霊山はダンジョンの中の探索再開した。
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