12話 検証
岩壁の陰に身を寄せたまま、霊山はじっと動かなかった。
さっきまで耳の奥を叩いていた黒狼の唸り声も、コボルトの短い怒声も、今はもう聞こえない。どうやら完全に撒けたらしい。
だが、安心はできなかった。
【ステータス】
名前:霊山 新 Lv03/20
種族:ゴースト
HP:9/14
MP:14/21
攻撃力:2
防御力:2
俊敏:19
魔力:16
スキル:霊体/憑りつくLv1/闇魔法Lv1/物理攻撃無効/進化ガイド/霊子吸収
称号:ファーストデッド
HPは削れたまま。
胸をかすめたコボルトの魔法の痛みも、まだ霊体の奥にじくじく残っている。
霊山は、しばらくそのまま待った。
どれほど待ったか分からない。
【MP:14/21 → 21/21】
気が付くとMPは全回復していた。
では、と視線をHPへ向ける。
だがこちらは、いつまで待っても9/14のままだった。
つまり、自然回復するのはMPだけ。
HPは放っておいても戻らない。
その事実は、思った以上に重かった。
ダンジョンの中で傷を負うこと自体が、かなり危険だということになる。
もっと慎重にならなくては駄目だ。
どうもこの体になってから、憑りついていない状態を過信しすぎていたようだ。
霊山は小さく意識を吐き出し、壁にもたれるようにして目を閉じた。
焦って飛び込んだ結果が、さっきのあれだ。
なら、次は勢いじゃなく、ちゃんと調べる。
今の自分に足りないのは、強さだけじゃない。
情報だ。
霊山は改めて、青白い板へ意識を向けた。
【スキル一覧】
霊体
憑りつくLv1
闇魔法Lv1
物理攻撃無効
進化ガイド
霊子吸収
まずは、憑りつく。
今の自分の生命線だ。
これを把握できていないのが一番まずい。
【スキル『憑りつくLv1』】
【相手の精神に入り込み行動に干渉する】
【MP消費は対象の強さに依存する】
MP消費は対象の強さに依存する。霊山はその一文を見つめた。
コボルトの憑りつきにかかったMPは2だった。つまり、コボルトは黒狼などよりも強い。そして、干渉率も闇魔法を使っても、中にならなかった。
コボルトに干渉が通りにくかったのは、知能の高さが原因かもしれない。
そう思っていた。
だが、こうしてみると断定はできない。知能だけじゃなく、別の抵抗要素もあるのかもしれない。
それでも、少なくともゴブリン、黒狼とコボルトで差があるのは確かだ。
次に、自分のスキルに意識を向ける。
【スキル『闇魔法Lv1』】
【闇属性の魔力を操作する】
闇属性の魔力を操作。
そこへ目が止まる。
大分、ざっくりとした説明だった。
闇魔法も他にも、有用な魔法が使えるか探る必要があるかもしれない。
だって戦闘に欠かせない2つのスキルのうちの1つなのだから。
そして、
【スキル『霊子吸収』】
【倒した魔物の残滓を吸収し、わずかにMPを回復する】
貴重なMP回復の手段だが、MPがどれだけ回復するのかを調べなくてはいけない。
しかし、調べるにも、まずは敵を倒さなくてはいけない。
霊山は壁から離れ、慎重に通路の先へ進んだ。
目当ては、ゴブリン。
検証するなら、それが一番都合がいい。
しばらく進んだ先で、ようやく見つけた。
通路の角で、1体だけうろついているゴブリン。
手に石を持ち、鼻を鳴らしながら壁際を嗅ぎ回っている。
ダンジョンに出てくる魔物の数は必ず3体というわけではないらしい。
ちょうどいい。
霊山は迷わず飛び込んだ。
ぬるり、と意識が沈む。
【スキル『憑りつくLv1』】
【対象:ゴブリン】
【干渉率:中】
【MP:21/21 → 20/21】
さっきと同じ。
やはりゴブリンには最初から中が通る。
霊山はまず、何もせず待つことにした。
ゴブリンの視界で曲がった通路を見ながら、時間だけを数える。
どれくらいで維持コストが来るのか。
それを知りたい。
ゴブリンの体は落ち着きがない。
じっとさせようとしても、肩が揺れ、喉が鳴り、足が動きたがる。
それでも霊山は意識を押し込み続けた。
やがて。
【憑りつく維持コストが発生しました】
【MP:20/21 → 19/21】
来た。
さっきより冷静に受け止められた。
だいたい、20分ほど。
かなり厳密ではないが、少なくとも一瞬で減るわけではない。
だが長く引き延ばせるほどでもない。
戦えない時間に維持し続けるのは、やはり無駄だ。
今度は闇魔法を試す。
黒狼の時のように、意識の奥へ黒い靄を流し込む。
抵抗を鈍らせるように、深く、静かに。
【闇魔法を発動しました】
【MP:18/21 → 14/21】
ゴブリンの視界が揺れた。
肩の力が抜ける。
喉の奥の唸りも鈍る。
そして、霊山ははっきり感じた。
軽い。
【干渉率:中】
干渉率を確認したが表示は変わらない。
それでも、さっきまでとは比べものにならない。
首を向ける。
腕を上げる。
歩かせる。
立ち止まらせる。
振り向かせる。
どれも、思った通りに近い形で動く。
高にはなっていない。
でも、ほとんど自由に近い。
霊山はそのゴブリンを使って、通路を何度も往復させた。
棍棒を拾わせる。
振り回させる。
しゃがませる。
壁へ石を投げさせる。
そのたびに操作の遅れや引っかかりを確かめ、どこまで通るかを細かく測っていく。
抵抗がほとんど感じなくなり、自分のイメージした通りに体が動く。
なら、相手が同格であれば、十分戦える。
この状態でどれだけ戦えるのか確かめるためにダンジョンを彷徨う。
すると、3体の魔物がいた。だがどれもゴブリンだ。
コボルトや黒狼と違って、今の霊山にはもう“怖さ”が薄い。
霊山はそのままゴブリンを使い、フェイントを入れて、ゴブリンの足を狙う。
不意打ちは綺麗に決まり、もう1体は悲鳴を上げてよろめく。
さらに追撃。転倒。もう一撃。
1体を確実に倒してから、すぐさま、憑りつきを解除し、もう1体のゴブリンに憑りつき、不意打ちをする。急に仲間だと思っていた、ゴブリンから攻撃され、混乱しているうちに、とどめを刺す。
1対1になってしまえば、ただ、乱雑に攻撃してくるゴブリンに負けるはずはなかった。
ほどなく、動かなくなり、灰色がかった淡い残滓が立ちのぼり、霊山の霊体へ吸い込まれていく。
冷たい感覚。
内側の底に、ほんの少しだけ水が足されるような感覚。
霊子吸収だ。
どれだけMPが回復しているかを確認すると、1体につき1回復していた。
欲を言えば、もう少し回復してほしかったが、背に腹は代えられない。
そして、ゴブリンの憑りつきを解除する。
それを繰り返す。
MPは、霊子吸収で回復、自然回復もする。
憑りつく。
倒す。
解除する。
憑りつく。
倒す。
解除する。
黒狼も見かけたが、万が一を避けるために、戦いを避けた。
見つけた魔物はゴブリンが7割、黒狼が3割ほどだった。
コボルトは1度も見つけられなかった。もしかしたらレアな魔物なのかもしれない。
繰り返すたび、沈み込む感覚が少しずつ馴染んでいった。
最初はぬるりとした異物感があった。
だが、何度もやるうちに、それが薄れていく。
相手の中へ入るまでの時間も、ほんの僅かだが短くなっている気がした。
気のせいかもしれない。
でも、手応えはあった。
そのとき、不意に青白い板が視界へ割り込んだ。
【スキル熟練度が一定に達しました】
【憑りつくLv1 → Lv2】
霊山の意識が止まる。
上がった。
次の瞬間、さらに文字が追加される。
【新効果を獲得しました】
【憑りついた対象のステータスを閲覧可能になります】
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