10話 新スキル
洞窟の奥から、また小さく石が転がる音がした。
霊山は意識を沈め、暗がりを見つめる。
やがて、揺れる影が1つ、2つ、3つと現れた。
背は低い。
子どもほどの体格。
くすんだ緑色の肌に、ぎょろついた目。腰布のようなものを巻き、手には棍棒や石の欠片を握っている。
ゴブリンだ。
霊山はすぐにそう理解した。
ゲームなどで知っていた姿そのままだった。
3体のゴブリンは、ぎいぎいと耳障りな声を上げながら、通路の先をうろついている。黒狼のような圧はない。けれど、弱いと決めつけられるほど無防備でもなかった。目はぎらつき、獲物を探している。
今のMPは4。
闇魔法で何かをするには、まだ心許ない。
なら、やることは1つだった。
憑りつく。
霊山は、一番後ろを歩いているゴブリンへ飛び込んだ。
ぬるり、とした感触。
黒狼の時よりずっと薄い抵抗。
意識が沈み込む感覚も軽い。
次の瞬間、視界に青白い板が浮かぶ。
【スキル『憑りつくLv1』】
【対象:ゴブリン】
【干渉率:中】
【MP:4/16 → 3/16】
中。
霊山は一瞬だけ目を見開いた。
黒狼には闇魔法で抵抗を鈍らせてようやく届いた干渉率だ。それが、ゴブリンには最初から通る。
やはり知能が低いからか。
精神の抵抗が弱いのか。
理由は分からない。だが、今はありがたかった。
霊山はすぐにゴブリンの首と右腕へ意識を込める。
前の2体は、まだ気づいていない。
なら――。
振れ。
憑依したゴブリンが、唐突に棍棒を横薙ぎにした。
前を歩いていた1体の側頭部へ、鈍い音を立てて直撃する。
ぎゃっ、と短い悲鳴。
殴られたゴブリンがよろめく。
もう1体が驚いて振り返った。
その顔へ、今度は憑依体の左手を伸ばさせる。目元を掴み、無理やり顔を逸らす。そのまま、棍棒をもう一度振り下ろした。
ぐしゃっ、と嫌な音。
2体目のゴブリンが頭を抱えて転がる。
最初に殴られた1体も、怒り狂って憑依体へ飛びかかってきた。
黒狼より操りやすい。
それでも、自分のものではない体を完璧に操れるわけじゃない。
でも、動かせる。
霊山は憑依体の足を半歩引かせ、飛びかかってきた相手を避ける。
そして、がら空きになった脇腹へ棍棒を叩き込んだ。
鈍い衝撃。
うめき声。
さらにもう一撃。
ゴブリンの体が床へ崩れ落ちる。
1体。
まだ終わらない。
残る1体が、仲間を倒した憑依体へ恐怖と怒りの混じった声を上げながら石を投げつけてくる。
石は肩へ当たり、その衝撃の一部が霊山にも返った。
【HP:12/12 → 11/12】
痛い。
だが、黒狼戦よりずっとダメージも少ない。
いける。
霊山は憑依体の腕を振り上げ、最後のゴブリンへ突っ込ませた。
相手は逃げようとして足をもつれさせる。
そこへ棍棒を振り下ろす。
1回。
2回。
3回。
最後には、動かなくなった。
【レベルが上がりました】
【新規スキルを獲得しました】
【ステータス】
名前:霊山 新 Lv02/20 → Lv03/20
種族:ゴースト
HP:11/12 → 14/14
MP:3/16 → 21/21
攻撃力:0 → 0
防御力:2 → 2
俊敏:14 → 19
魔力:12 → 16
新規スキル:霊子吸収
熱い。
削れた痛みが一気に薄れ、空だったはずの内側へ力が満ちていく。
全回復。
しかも、器そのものがまた一回り大きくなっている。
そして、視界の隅で、倒れたゴブリンの体から灰色がかった淡い靄のようなものが立ちのぼった。
次の瞬間、その靄はふわりと引き寄せられるように霊山へ吸い込まれた。
冷たい。
だが、不快じゃない。
むしろ、乾いた場所へ水が染みこむみたいに、わずかに心地いい感覚だった。
霊山はすぐに新しく表示された文字へ意識を向ける。
【スキル『霊子吸収』】
【倒した魔物の残滓を吸収し、わずかにMPを回復する】
倒した魔物の残滓を、取り込める。
これで、MP不足が、少しだけマシになる。
自然回復を待つしかなかった状況に、もう1つ手段が増えた。
かなり大きい。
霊山は倒れたゴブリンたちを見下ろした。
初めて自分から狩った相手。
黒狼の時のような必死さとは違う。
明確に、自分の意思で“狩り”をした実感があった。
同時に、それが少し恐ろしくもある。
人間だった自分なら、こんな感覚に慣れてはいけないと思っただろう。
けれど今は、そんな甘さを抱えていられる状況じゃない。
喋れるようになるために。
守れるようになるために。
レイスになるために。
そのためには、まだ全然足りない。
霊山はもう一度ステータスを見た。
【ステータス】
名前:霊山 新 Lv03/20
種族:ゴースト
HP:14/14
MP:21/21
攻撃力:0
防御力:2
俊敏:19
魔力:16
スキル:霊体/憑りつくLv1/闇魔法Lv1/物理攻撃無効/進化ガイド/霊子吸収
称号:ファーストデッド
MPは満ちていた。
レベルアップで全回復した今なら、さっきまでできなかったことも試せるかもしれない。
霊山は、自分が憑依しているゴブリンの手を軽く握らせた。
粗末な棍棒が、ぎしりと音を立てる。
まだ動ける。
憑りつくは俺の生命線だ。
効果がいつまでもつかも知っておいた方がいいだろう。
焦らず、少しずつ、確実にレベルを上げる。
弱い相手から崩していけばいい。
霊山は、憑依したゴブリンの首をゆっくりと洞窟の奥へ向けた。
暗闇は変わらず深い。
そのどこかに、また次の魔物がいる。
もう待つつもりはなかった。
霊山は、2体の死体を背にしたまま、ゴブリンの体を使ってその先の闇へ踏み出した。
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