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世界の淡路島ですけど、何か?  作者: 双鶴


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第68話 それぞれの進路

三月の風は、冬の冷たさを少しだけ残しながら、

それでもどこか柔らかくて、春の匂いを含んでいた。


卒業式の朝。

校門の前の桜はまだ咲き始めで、

薄い桃色が枝先にぽつぽつと灯っている。


「……今日、卒業なんやな」


湊が小さく呟くと、

紗季が笑った。


「実感ないよな。

でも、制服着てここに立つの、今日が最後やで?」


陽斗はネクタイを直しながら、

「俺、ネクタイ苦手やねん……」

とぼやく。


凛はその姿を見て微笑んだ。

「陽斗くん、似合ってるよ。

今日くらい、ちゃんとしよ?」


美咲は胸の前で手を組み、

「なんか……胸がぎゅってするね」

と呟いた。


悠真は空を見上げ、

「……晴れてよかった」

と静かに言った。


六人の影が、

校門の前で並んで伸びていた。



体育館の中は、

春の光が高い窓から差し込み、

床に長い帯のような影を落としていた。


名前を呼ばれ、

一人ずつ壇上へ向かう。


湊は証書を受け取りながら、

いったんは離れるけど、またいつか「淡路島で生きていく」

という決意が胸の奥で静かに固まっていくのを感じた。


紗季は歩きながら、

「観光の勉強、絶対に頑張る」

と心の中で呟いた。


凛は深呼吸し、

「看護の道、怖いけど進みたい」

と自分に言い聞かせた。


陽斗は少し緊張しながらも、

「まだ決まってへんけど……

焦らんと、自分のペースで探す」

と決めていた。


美咲は証書を胸に抱き、

「文学、好きって気持ちを大事にしたい」

と静かに思った。


悠真は壇上から見える光を見つめ、

「映像で生きていく。

淡路島を撮り続けたい」

と心に刻んだ。


六人の未来は、

もう同じ方向ではなかった。


でも、

そのどれもが美しかった。



式が終わり、

校庭に出ると、

風が少しだけ暖かくなっていた。


「卒業、おめでとう」

凛が言うと、


「おめでとうやで!」

紗季が笑い、


「おめでとう」

美咲が涙を拭いながら言った。


陽斗は照れくさそうに、

「なんか……終わったんやな」

と呟く。


湊は空を見上げた。

「せやな。

でも、ここからや」


悠真は静かに言った。

「……六人でおった時間、

終わりちゃう」


その言葉に、

六人は自然と頷いた。



校庭の隅にある、

いつも集まっていたベンチに座る。


風が桜のつぼみを揺らし、

まだ咲かない花の匂いがほんのり漂っていた。


紗季が言う。

「なあ……

進路バラバラでも、

また集まれるよな?」


陽斗が即答した。

「当たり前やろ!」


凛は優しく言った。

「距離が離れても、

心の距離は変わらないよ」


美咲は涙をこらえながら言った。

「うん……

六人で過ごした時間、

ずっと宝物やから」


湊は深く息を吸い込み、

「せやな。

六人でおったから、

ここまで来れたんやと思う」

と静かに言った。


悠真は短く言った。


「……六人は、六人」


その言葉は、

春の光に溶けるように柔らかかった。



帰り道。

校門を出ると、

風が少しだけ暖かくなっていた。


紗季が言う。

「なんかさ……

今日、めっちゃ綺麗やな。

空も、風も、全部」


陽斗が笑う。

「せやな。

卒業って、こんな感じなんやな」


凛は微笑んだ。

「寂しいけど……

前に進むって感じだよね」


美咲は小さく言った。

「うん……

六人で歩いた日々が、

背中押してくれる気がする」


湊はゆっくり歩きながら言った。

「これからも、六人で集まろな」


悠真は静かに言った。


「……また歩こ。

六人で」


春の光が、

六人の影を柔らかく伸ばしていく。


未来はバラバラでも、

六人の心は同じ方向を向いていた。


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